次の日、朝食の為レストランに降りると、ユチョンとジュンスがコーヒーを飲んでいた。

昨夜は熱い夜を過ごしたのだろう、ユチョンは「やぁおはよう!」とキラキラした笑顔を見せ、隣でジュンスは気だるげに肘をついていた。

 

「おはようございまーす♪」

 

元気そうなジェジュンの姿を見て、ユチョンはアレレ?と思った。

もしかしたら今朝は起きて来られないのでは?と思っていたから。

 

「え?ユノ兄…?もしかして、まだ?」

「うるさい!今、段階を踏んでいる所だ!」

 

旅行に来てまでもヤらないなんて、ユノ兄はよっぽどジェジュンを大切にしているようだ。

 

「ユチョン、今日はショッピングにでも行くか」

「あぁ、俺たちはパス、今日はジュンスと二人でゆっくり過ごす。スパに行ってマッサージやエステに行くよ」

 

怠そうなジュンスを見て察したユノは、ジェジュンと二人でショッピングをする事にした。

二人でリムジンに乗りこみ、ハワイ最大のショッピングセンターに出掛けた。

 

「ジュンスさん、大丈夫かなぁ。疲れていたみたい」←鈍い

「ユチョンがいるから大丈夫。俺たちは買い物を楽しもう。何か欲しい物はあるか?」

 

ウロウロと歩き回るが、一向にジェジュンは欲しい物を言わない。

手に取ったものを「買おう」と誘っても、首を振って元に戻す。

あれも欲しい、これも欲しいと言ってくれた方が楽だが、ユノはじっくりジェジュンの欲しい物を一緒に探すことにした。

 

「あ、これおばさん達に買ってあげたいです」

「チャンミンさんって、何が好きですか?」

 

お土産の事ばかり気にしているジェジュンを、ユノがある店に誘導してみた。

アメリカ発祥のブランドで、若い男が一つは持っているシルバーアクセの店だ。

 

「わぁ…カッコいい」

「だろ?俺も結構好きなんだ」

 

ゴツイデザインのアクセサリー、スカルが付いたネックレス、羽やクロスをモチーフにしたアクセが、ずらりと並べられている。

元はバイク用皮革製品のボタンやファスナーだったが、その特徴的なデザインに火が付き、今やハリウッド俳優も愛用するという。

ハイブランドに連れて行っても、緊張して何も見なかったジェジュンだが、この店は気に入ったようだ。

 

「この指輪どうだ?定番だけど」

「あ…つけると結構しっくりきますね」

「お前は指がしっかりしてるからな。いいんじゃないか?カッコいいぞ?」

「え?カッコいいですか?ホントに?」

「あぁ。俺より、ジェジュンの方が似合ってる」

 

タトゥ―だらけの腕の店の兄ちゃんが、親指を上げてにっこりと笑った。

 

「こ、これ…欲しい…です」

 

嬉しそうに指輪を見つめるジェジュンの後ろで、ユノは店員に英語で囁いた。

(箱はいらない、小さな袋に入れてくれ)

 

まるで露店で買ったような印象を受けたジェジュンは、負担なく喜んでくれたが、実は1500ドルする代物だ。

その他にも、ユノも買うからと、クロスのネックレスや、チェーンタイプのブレスレットなどを数点買い上げた。

 

「ユノさん、ありがとうございます!これ、カッコいいですか?」

「あぁ良く似合ってる」

「ユノさんよりも似合ってる?」

「ふふ…あぁ俺より似合ってるよ」

「うふふー♡」

 

ジェジュンの可愛さにむせび泣いていたユノの電話が鳴った。

ユノが少し離れて電話をしていると、見知らぬ白人男性がジェジュンの隣に座った。

ぺラペラと何か英語で話すが、ジェジュンには分からない。

ジェジュンが困った顔をすると、ジェジュンの指輪を見て、グッドだと言っているようだ。

 

「さんきゅーさんきゅー」

 

拙い英語でジェジュンが返すと、男はジェジュンの手を取り、手の甲にキスをした。

 

「えっ!ちょっと!」

 

その瞬間、ユノは電話を放り出し、ジェジュンを背に隠し、男にネイティブな英語で言った。

 

『てめぇ…誰のモンに手ぇ出してんのか、分かってのか?おん?』

 

ブワッと殺気立つユノのスーパーαのフェロモンに、白人男は、タジタジになった。

 

『す…すいません…すいません…』

 

男は声を震わせながら、脱兎のごとく逃げた。

フン!と鼻息荒くしたユノは、そのままジェジュンをトイレに連れ込み、キスされた手を石鹼で洗った。

 

「ゆ、ユノさん…あれは何だったんでしょう?」

「ったく、ナンパだよ!ジェジュンは可愛いんだから気をつけろ!」

「えぇ?ナンパ?僕、男なのに?」

 

危機感の全くないジェジュンにイラついた。だから言ってしまった。

 

「男だからじゃねぇ、オメガだからだ!」

 

 

その後二人でパンケーキを食べても、美しい海岸沿いの景色を見ても、ジェジュンは心が曇ったままだった。

吐き捨てるように言われた「オメガだからだ!」の言葉。

力では必ず負けるオメガ、性の対象に狙われ傷つくのはオメガ、社会でも弱い立場のオメガ、いつだって処理されるのはオメガ。

まるでオメガに生まれた事が罪のように感じる。

 

どうしてオメガに生まれただけで、こんな気持ちにならなければならないんだろう。

人から崇められ、人より優秀で、国からも大きな信頼を寄せられるスーパーαのユノさん。

ユノさんには、この気持ちは決して分からないだろう…。

 

 

 

青瓦台から呼び出しを受けたチャンミンは、いつも以上にかっちりスーツを着こなして車を降りた。

出迎えを受け、青瓦台の中へと向かう。

ヤレヤレ…今日はいったいどんな無理難題を押し付けられる事やら…。

 

小さなため息をついて応接室に入ると、そこにはチャンミンの天敵がいた。

 

「御足労いただきましてありがとうございます」

 

慇懃無礼に頭を下げた美しい男、大統領秘書室長のキムヒチョル。

秘書と言えどその立場は、長官を顎で使える地位、青瓦台の事実上の実権を握る男。

大統領の側近中の側近で、チョン家のチャンミンと立場は全く同じだ。

すこぶる頭が切れ、チャンミンにとって、一番やりにくい相手だ。

 

「とんでもない。お久しぶりです」

 

くもり一つないメガネを光らせ、チャンミンが恭しく頭を下げ、ウソ臭く笑った。

ヒチョルも銀縁のメガネを光らせ、嘘八百の笑顔を見せた。

 

「お忙しいでしょうから、さっそく本題に入りましょう。お察しの通り、チョンユンホ氏の事です」

「うちの当主に、早く子供を作れ、と言う話ですか」

「まぁそれもあるのですが、近頃妙な噂を耳にしまして。ユンホ氏が、若いオメガを屋敷に招き入れているという噂です」

 

やはりその事か…青瓦台も情報が早いな…。

しかしこの男相手に嘘をつき通すのは危険だ。

こういう時は本当の中に少しだけウソを混ぜるのが得策だ。

チャンミンは顔色一つ変えずに言った。

 

「ユンホ氏のプライベートには関与しません。彼も若い男性ですので。アルファであるユンホ氏が、好みのオメガを家に入れたからといって、いちいち口を出すような真似はしません。ただ彼はチョン家当主であり、スーパーαですので、彼と関わる人間はこちらでも全て把握しています」

 

「さすがユンホ氏が一番信頼を置いているシム秘書ですね。私もアルファがオメガを家に招いた事を、とやかく言う野暮な人間ではありません。ただご存じのとおり青瓦台としましても、ユンホ氏の子供は国にとっても大きな問題でありますので…」

 

「ご心労お察しします。ですが青瓦台としても、ユンホ氏には早く子宝に恵まれて欲しいというお気持ちなのでは?」

 

早く子供作れ!つったのはオメーらの方だろうがっ!

チャンミンは、メガネをクイッと人差し指で押しながらヒチョルを睨んだ。

 

「えぇ確かにそうです。国として次世代のスーパーαを欲している事実があります。ユンホ氏の子供がそれに一番近いというわけですから」

 

ヒチョルも負けじとメガネをクイッと持ち上げ、チャンミンを睨み返す。

 

「ならばユンホ氏がオメガを引き入れた事は、喜ばしい事ではありませんか?」クイッ

「えぇ。普通のオメガならば」クイッ

 

ヒチョルは一枚の紙をチャンミンの前に差し出した。

 

 

 

 

 

似合ってますか?

 

 

 

※※※

「なぜオメガに生まれただけでこんな思いをしなければならないのか」

「オメガに生まれた事が罪のように感じる」

オメガバースを書く上でワタシが一番書きたいのはココです。

楽しい旅行の裏で、韓国では不穏な空気が。

チャンミン、頼んだよ!