やっと起きたジェジュンは、目をこすりながらボーっとしていた。

ジュンスに新しい抑制剤を貰うと、やっと頭がはっきりした。

 

「ユチョンが特別に調合して作らせたんだ。香りも消えたね。どう?身体軽くなった?」

「うん。すごく楽になった!ありがとう」

「良かった。それでユノ兄がね、話があるって…」

「え?ユノさん?お、お風呂に入らなきゃ!何着たらいいかな!あぁ顔むくんでる!どうしよう!」

 

バタバタと部屋を歩き回るジェジュンに、ジュンスはクスッと笑った。

まるでいつかの自分を見ているよう…僕もユチョンと会う日は、こんな感じだった…。

 

やっと身支度を整えたジェジュンを連れて、ユノの部屋に入る。

 

「じゃあ…僕とチャンミンは外にいるよ」

「え?ジュンス兄?」

 

ジュンスは、そこにいたチャンミンと一緒に部屋を出て、隣の部屋に入った。

そして二人はすぐさまコップを掴むと、壁に当てて聞き耳を立てた。スチャッ!

 

「ジェジュン。どうだ?体調は」

「はい、新しい抑制剤が合っているのか、すごく元気になりました!」

「良かった。香りも抑えられてるな。さすがユチョンだ」

「はい、ありがたいです」

「あ~ゴホン、あー、その…大学受験はするんだろ?」

「はい。何とか国立を目指してます」

「学費の事は気にするな。気にせずいっぱい勉強すればいい」

「あ…ありがとうございます」

 

モジモジとしたユノ、部屋に沈黙が流れる。

 

「あ~ジェジュン、実はな、俺は…お前と…つが…」

「え?」

「いや…うぅん…あの…ジェジュン、今度、デートしないか?」

「え?デート?」

「い、嫌かな…。どこか行きたいところとか…」

「はい!行きたいです!デート、嬉しいです!!」キャフ~♪

「そ、そうか。じゃあ行こう、どこがイイかなぁ?海がイイか?山がイイか?海外でもいいぞ?」

「えぇ?デートに海外?…ふふっ!おおげさですよぉ~♡」

「そ、そうだな。どこがイイか、考えておけよ」

 

チャンミンとジュンスは、そっとコップを外し、プッと吹き出した。

 

「何あれ…。中学生が初めてデートに誘うみたい。ククク」

「あんなユノは初めてですねぇ。可愛いったらありゃしない」

「ジェジュンに合わせたって事にしといてあげよう」

 

 

 

数日後、ジェジュンはユノと一緒に海に来ていた。

 

「わぁ~い、海だぁぁ~♡」

 

両手を広げ、胸いっぱいに潮風を吸い込むジェジュンは、子供の様に無邪気だ。

嬉しそうな後姿を見ていると、連れてきて良かったとユノも嬉しくなる。

 

「ひゃっほーい♪」

「走るなよ、転ぶぞー」

 

波打ち際まで走り波と遊んだり、砂に文字を書いた入り、貝殻を探したり。

まるで古い映画みたいに、ベタな遊びで喜ぶジェジュンに、少々呆れ顔のユノ。

楽しそうなジェジュンを見ながら、ユノは砂の上に座った。

ひとしきり遊んだジェジュンは、髪に砂をいっぱいつけて走ってきた。

犬みたいに、チョコンとユノの隣に座った。

 

「ホラ…砂が付いてるぞ」

「え?ホントだ。うふふ」

「そんなに楽しかったのか?」

「えぇ!海に来たの、初めてなので」

「は?初めて…なのか?」

「はい!ばーちゃんといつか行きたいねって言いながら…結局店に追われて行けずじまいで…」

 

ユノは軽いショックを受けた。

まさか今の時代、海にすら行った事がない人間がいるなんて…。

店に追われて、という事は、他にも行った事がない所がたくさんあるのだろう。

ユノはジェジュンの肩を抱いて言った。

 

「ジェジュン、これから行った事ない所へたくさん行こう。食べた事ない物も食べよう。やった事がない事も経験しよう。俺が、全部叶えてやる」

「ホントですか?でも…どうして?」

 

「ジェジュンが喜んでいる姿を見たいから。ジェジュンが喜べは、それは俺の幸せだから」

「ゆのさん…」

 

凪いだ波音が、耳に優しい。

黄昏時になった空が、グレーから紫のグラデーションを折り重ねている。

隣に座るユノの端正な横顔を、顔を赤くしてジェジュンが見つめる。

この美しい場所で、ジェジュンの望みは一つだった。

 

「あ、あの…ユノさん。叶えて欲しい事、あります…」

「あぁ、なんだ?」

 

「…キス、して…」

 

恥ずかしそうに上目遣いでユノを見上げるジェジュン。

ユノは優しい微笑をたたえると、そっとジェジュンの顎を掴んだ。

そして、そのぽってりと柔らかそうな唇に、キスをした。

 

チュ…チュ…。

 

何度も唇だけに触れるキスを繰り返し、ジェジュンの髪を梳き、耳を弄る。

少し開いた唇に舌を割り入れると、わざと柔らかい舌を弄ぶように、ゆっくりと動かす。

じれったいキス、その代わりユノの悪戯な指が、首筋や鎖骨を辿り、ジェジュンの胸に降りる。

 

「は…っ…ぁ…っ」

 

もうキスだけでトロトロに蕩けてしまう初心なジェジュンを、ユノが嬉しそうに見つめる。

そっと体を離し、ユノの低い声がジェジュンの耳に響いた。

 

「ジェジュン…俺は、お前と番になりたいと思っている」

 

「え…?つがい…?」

 

「お前はどう思ってる?」

 

「ぼ、僕…よく、分からない…」

 

「だよな。今はそれでいい。ただ、俺の気持ちを知って欲しかっただけだ」

 

少し寂しそうな顔をしたユノに、ジェジュンはたまらず言った。

 

「ぼ、僕…よく分からないけど…ユノさんが好き。とても好き。それだけは言えます…!」

 

ユノは、フッと笑みをこぼした。

一瞬だが端正な顔が破顔し、クシャリと笑ったその顔が。

ジェジュンは、いつまでも忘れられなかった。

 

「俺も…好きだよ。ジェジュン」

 

優しく抱きしめられて。

ジェジュンはこのまま時が止まればいいと思った。

少し冷えてきた海風から守るように、ユノはジェジュンを閉じ込めるように抱きしめた。

 

 

 

むふふ…♡きゃふふ…♡

ジェジュンは、何度もスマホの写真を眺め、気持ち悪く笑っている。

あの日、ユノと一緒に撮った写真を見つめるのが、今ジェジュンの一番楽しい時間。

カッコ良過ぎてまともに見られなかったユノの顔も、写真なら穴が開くほど凝視できる。

 

はぁ~…ホント、カッコいい…♡見てよ、この長い脚!この広い背中!この小顔!モデルみたいにスタイルいいし、スッキリとした顔が誰よりカッコいい!でも写真で見るユノさんより、動いているユノさんの方がずっとカッコいいんだよなぁ~。ちょっと親近感ある笑顔を見せてくれたりして「カッコイイお兄さん」の典型なんだもォ~ん。あぁ~カッコいい!さっきから語彙が死んでるみたいにカッコいいしか言葉浮かばないけど、こーんなカッコイイ人が、僕の事好きだ…なんて!きゃー♡どうしよう~~♡

 

ジェジュンは初めてのデートや海でのキス、そしてカッコいいユノに好きだと言われたことに浮かれまくって、部屋をゴロゴロ転がっていた。

 

そう言えばユノは、ジェジュンと番になりたいと言っていた。

だが、ジェジュンはイマイチ「番」の概念がよく分からなかった。

恋はもちろん、自分でGをした事もないジェジュンには、誰かと番になるという意味が分からないでいた。

 

ジュンスさんとユチョンさんは「運命の番」だと言っていた。

いつも二人は仲良さそうで羨ましいとは思うけど、オメガにとって「番」は一度結んだら、相手が死ぬまで解除されない重い絆。

だが、アルファから一方的に解除する方法はあるらしい。

そのせいで、家政婦のおばさん達の中にも、苦労した人がいると聞いた。

オメガにとって番は、幸せにも不幸にもするから、よく考えなさいときつく言われていた。

 

ユノさんは、この国唯一のスーパーαで、なんだって可能にしてしまう人。

そんな人の番なんて…僕がふさわしいはずがない…きっとユノさんも気まぐれで言ったに違いない。

好きだと言われたぐらいで…本気にしちゃダメ。

ただ僕の初恋でいいんだ…。

傍にいさせてもらえるだけで、それだけで…。(悲劇のヒロインっ子)

 

 

 

 

語彙が無くなるカッコよさ♡

 

 

 

 

※※※

初デート♡初々しいです^^

ジェジュンが悲劇のヒロインに酔っていますが、まだ子供なのでしかたありませんねw

生だと緊張しちゃうけど、写真の方が凝視できるって分かりますよね。

拡大もできるしね^^

 

ジェジュンが神戸にいるとか。

近い場所にいると思うと、仕事も頑張れそう。