ジュンスさんに、部屋の外で待つように言われたけど…落ち着かない。
この家に住めるよう、このお屋敷の主人であり、CYグループのトップに掛け合ってくれるという。
初めてこのお屋敷に入ったけど…家というより、高級ホテルみたいな洗練された建物。
廊下には絨毯が敷き詰められて、部屋もいくつもあって、絵画やオブジェが飾られている。
家に入る前も、壁がどこまでも続いていて、どこまでがこの家の敷地か分かんなかったもん。
はぁ…お金ってのは、ある所にはたくさんあるんだなぁ。
僕には全く関係のない世界って感じ。
こんな所に住めって言われても…広すぎて全然落ち着かないよ。
豪華すぎると、僕みたいな貧乏人は気後れして疲れちゃうんだよなぁ。
目の前には、重厚で3メートルぐらいありそうな高い扉。
チョンユンホさんって一体どんな人なんだろう…。
きっと怖そうなおじさん…いや、CYグループのトップなんだからおじいさんかも。
失礼があっちゃダメだよね…緊張しちゃう(>_<)
「ジェジュン!入っておいで!」
ジュンスの声に、ジェジュンは重い扉を開けた。
ガチャリと扉が開いて、ジェジュンが入って来た。
初めてジェジュンを見た印象を、ユノは記憶している。
(白いな…。そしてなんと細くて頼りなげな子供だ)
緊張した面持ちで歩いていたジェジュンは、初めてユノを見た瞬間驚きを隠せなかった。
年寄りだと思っていたのに、そこにいたのは、長身で端正な顔立ちの青年だったから。
ジェジュンがユノに対し感じた第一印象はこうだった。
(わぁ…なんてカッコいい人なんだろう…)
ジェジュンは大きな目を見開いて、初めて見る男らしさに溢れたチョンユンホを凝視した。
真っ直ぐに、目を逸らさずに。
コイツ…オメガのくせに、俺を見ても目を逸らさない。
ジュンスと同じだ。きっと鈍いんだな。
それにしてもでっかい目だなぁ。
「キムジェジュンです。助けて下さってありがとうございます」
ぺこりと頭を下げたジェジュンに、ユノが近づいた。
そして、くっと顎を持ち上げてみたが、ジェジュンはまた真っ直ぐにユノを見つめた。
本当にカッコいい…なんて素敵な人なんだろう。こんな人がいるなんて…。
ジェジュンの胸がキュンと高鳴り、頬がポッと赤くなった。
その瞬間、何かに気づいたユノが、ジェジュンに顔を寄せた。
わわっ!近い!どうしよう!心臓がドキドキするぅ!
ユノは手を離すと、呟くように言った。
「…乳くせぇフェロモンだな」
「え?乳…?」
「だが不快ではない。引き取るのは構わんが、コイツはオメガだ。屋敷には住まわせん」
「分かってる!家政婦さん達の離れに部屋を作るよ!いいでしょ?」
「勝手にしろ。チャンミン、面倒見てやれ」
「分かりました」
「ありがとうユノ兄!ほら、ジェジュンもお礼を言って」
「あ、ありがとうございます」
ジュンスはジェジュンの手を引いて走るようにユノの部屋を出て行った。
「よろしいのですか?」
チャンミンがユノに近づくと、さっきのジェジュンの香りがまだ残っていた。
ふわりと鼻腔をくすぐるその香りは、バニラのような甘く優しい香りだった。
「…あぁ…ホントに可愛いフェロモンですね」
「ハハ。ジュンスも面白いガキを連れてきたもんだ。オメガなのに俺と目を合わせてた」
「あぁ、きっと鈍いんでしょうね。ジュンスと性格も似ているようです」
「一応調査はしておけ。さ、仕事しよう」
ジェジュンが残したフェロモンは、しばらくその場に残り続けた。
ユノもチャンミンも、その香りを嗅ぐ度、なんだか可笑しくてクスリと笑みを零した。
「ジェジュン!良かったね!これでここに住めるよ!」
「え…でも…いいんですか?」
「ユノ兄がいいって言ったんだからOKさ!だってここはユノ兄がルールブックだもん」
「はぁ…。あ、ありがとうございます」
「早速明日から、家政婦さん達が住んでいる離れに部屋を作ろう。それまでは、さっきのホテルで過ごそうね」
バタバタ走るジュンスの後ろを追いかけながら、ひとまず家が出来たことにジェジュンはホッとした。
ホテルに戻り、楽しそうにどこかに電話をかけまくるジュンスを、ぼーっと見ていた。
「あ、疲れた?お腹すいた?」
「あの…、どうして助けてくれたんですか?」
ジュンスはジェジュンの隣に座り、ニコッと笑った。
「知ってると思うけど、僕もオメガなんだ。僕も子供の時、借金取りが来て辛い思いをした。だから、君を放って置けなかったんだ…」
「どうして…どうしてこんな目に遭うんでしょうか。オメガだから?オメガは弱いから?」
「難しい問題だね。時代が変わったと言っても、人々に根付いたオメガへの偏見は変わらない。僕も昔はオメガに生まれた事を恨んだ事もあったよ」
ジュンスは少し遠い目をして言った。
「でもね、今はオメガで良かったって言えるよ。きっとジェジュンもいつか、オメガに生まれた事を感謝できる日が来るよ」
「本当に…そんな日が来るのかな…」
「きっとくる。そしたら困っているオメガを助けてあげて。オメガでも幸せになれるって教えてあげてね」
ジワリと涙の幕が張った。
この時のジェジュンには、まだジュンスの言葉の意味が分からなかった。
でも「オメガでも幸せになれる」という言葉に、勇気づけられた。
次の日、ジュンスに連れられ、チョン家の家政婦さん達が住む宿舎に連れて行かれた。
チョン家敷地内にある離れは、食堂や大浴場があり、個室が並ぶ、寮のような造りだった。
チョン家には、総勢30名ほどの家政婦がおり、二交代制で働いてた。
全てオメガの女性であり、全員が首に黒いチョーカーを付けていた。
「何故みんな黒いチョーカーを付けているの?」
「項を保護するためさ。抑制剤は支給されるけど、もしもの為の安全策。お屋敷にはユノ兄の秘書達や執事、お屋敷の従業員達が住んでる。それにCYの役員がよく訪れる。彼らは全員アルファだからね」
オメガがうっかりフェロモンを誘発してしまうと、アルファはそれに抗えない。
抑制剤を飲み、ヒート(発情期)をコントロールし、フェロモンを押さえる。
ただその抑制剤は高価で、買えないオメガは闇で売っている安価な抑制剤に頼らざるを得なくなる。
その効果は「安かろう悪かろう」で、大した効果はなく、それが事件のもとになっているとも言える。
そんな高価な抑制剤を、チョン家では無償でオメガに支給している。
力では絶対に負けるオメガを守る意味と、意味のない番を結ばせないためだ。
「確か、発情中にオメガの項をアルファが噛めば、番が成立するって。ジュンスさんも、ユチョンさんと番なんですよね」
「ユチョンはちゃんと番になる事を話し合ってくれた。でもアルファの中には興奮したまま許可なく項を噛む奴もいて。オメガは一生のうち一人しか番になれないし、オメガは番にしか体を開けなくなる。アルファから一方的に番を解除できるけど、そうなればオメガは、唯一体を預けられる人がいないまま、発情期だけを持て余す一生になる。それは耐えがたい苦痛だ」
「それに上手く解除が出来なければ…処理されるのはオメガの方だから…」
「処理…」
ジュンスの言葉にゾッとしたジェジュンは、顔を青くした。
本当にオメガに生まれてよかった、なんて思える日が来るんだろうか…。
まだ子供のジェジュンには分かっていないが、興奮したまま、という事は、そもそも合意の上の行為ではないという事。
オメガのフェロモンに当てられたアルファは、獣同様なのだ。
立場の弱いオメガは、闇から闇へ葬られる事もある。
「だからオメガはちゃんと知識を持って、賢く生きなきゃいけない。ジェジュンもお屋敷に入るときは、僕かユチョン、チャンミンが一緒の時だけにするんだよ」
「はい」
家政婦のおばさん達は、みんな優しかった。
自分達と同じオメガのジェジュンの事を受け入れ、歓迎してくれた。
「皆さん、部屋が出来たらジェジュンもここに住みます。お風呂やトイレは自室に作るので、食事だけ一緒にしてあげて下さいね」
「えぇ大丈夫ですよ。ジェジュン君、困ったことがあればおばさん達に言いなさい」
「ありがとうございます」
宿舎に住む家政婦たちは全員女性なので、お風呂やトイレはジェジュンの部屋に作ってくれた。
食事や清掃は当番制だが、ジェジュンもその当番に入れてもらう事にした。
「僕の家、食堂だったんで、料理も出来るし掃除も得意です。よろしくお願いします」
「ジェジュン、あのスンデ作れるの?食べに来てもいい?」
「もちろんです」
ジュンスもオメガなので、この宿舎の中はとても安心できる場所になった。
ジェジュンはやっと、ほっとする場所が出来た。
乳くせぇフェロモンだな…w
※※※
二人の出会いは、今はこんな感じ。
「家なき子JJ」を面白がる「足長おじさんユノ」と言ったところでしょうかww
まだ13歳のジェジュンには保護者が必要です。
やっとホッとできる場所が出来ました^^
ジュンちゃんが優しくてイイ子です♡
ジェジュン鉄板のビーチクトーク最高でしたね~(やっと観た)
何かサプライズがあるらしいけど、何でしょうね。楽しみ♡
最近はヲタ活しないで小説ばかり書いてます。
ここの所アクセスがめちゃくちゃ伸びていて不思議な現象。何でだろう??
とにかく楽しんで貰えるように頑張っております!