古い雑居ビルの一角、西方派事務所に、チャンミンと数人の部下はいた。

 

「な、なんだ、おまえらっ」

「私はCYグループの第一秘書です。単刀直入に言います。キムジェジュンを私達が買います」

「はぁ?キムジェジュン?誰だ、知らねーなぁ~」

 

しらばっくれる構成員に、チャンミンはフッと笑った。

 

「知らない訳がないでしょう。アナタ達がわずかな借金のカタに捕まえ、チョ議員に高額で売りつけようとしているあの子です。それを私達が買うと言っているんです」

「は?な、何言ってんだ。簡単に渡すわけねーだろ!あれは俺たちが苦労して…」

 

「あぁ…頭の悪い人と話をするのは疲れます。もう一度言います。私はCYグループの第一秘書です。あなた、CYのチョンユンホと対峙するおつもりですか?」

「チョ…チョンユンホ…」

 

西方派のヤクザが青い顔をし、目をさ迷わせた。

チョンユンホがその気になれば、この国ごと売り飛ばす力を持っている、誰も敵わない人物だ。

 

「キムジェジュンの家と店はアナタに差し上げます、加えてチョ議員に売り飛ばすつもりだった金額の倍、差し上げましょう。これでもうあなた達はキムジェジュンとは何の関りもない、いいですね?」

 

目の前に置かれた札束パワーに、全員が頷いた。

 

「交渉成立。それでは今までチョ議員に売った少年の数と名前を。証拠データがあればそれも全て出しなさい。そうすれば、この金は倍になります」

「は、はいっ!喜んで!」

 

金に目がくらんだ西方派は、データを根こそぎ出してきた。

パソコンで確認したチャンミンは、ニッと笑い、事務所を後にした。

 

 

別の場所にかくまわれていたジェジュンは、西方派のヤクザと共に、ホテルに向かった。

ジュニアスイートの部屋をノックすると、中から太った中年の男がドアを開けた。

 

「おぉ…この子か。いいだろう」

「それでは代金を」

「あぁ、持っていけ」

 

部屋には中年男だけで、男は札束が入った黒い紙袋を、西方派の男に渡した。

金額を確認すると、男はジェジュンを置いて部屋を出て行ってしまった。

 

「さぁ、こっちへ来なさい。フフ…怖がらなくていい」

 

ジェジュンはギュッと拳を握り、黙って言う通りベッドに向かって歩いた。

中年男は、そのままジェジュンをドン!とベッドに突き飛ばし、ジェジュンはベッドになだれ込んだ。

男は来ていたネクタイやシャツを急いで脱ぐと、ベルトを外してパンツ一枚になった。

 

細い目に二重顎、太鼓のように膨らんだ腹、胸や肩にまで生えたもじゃもじゃの毛が気持ち悪い。

ジリジリと近寄ってくる男が怖くて逃げようとするが、ジェジュンの体はガッチリ抑えられていた。

 

「ふふ…怖いか…?あぁ…なんて綺麗な肌なんだ。白くて女の様だな…」

 

太い指が頬に触れ、思わず顔を背けるが、男はもっと近寄ってきた。

ふぅふぅと荒い鼻息が聞こえ、脂ぎった顔が気持ち悪く、ジェジュンは泣きそうだった。

そのまま服を脱がされ、ガタガタと体が震えた。

体に触れる男の手に、叫びそうになったが、祖母を思い出し、唇を噛んで耐えた。

 

れろ、と耳を舐められ、ついに涙が零れた。

 

嫌だ…嫌だ…!気持ち悪いっ!吐きそう!

僕…どうなるの?…怖いよ…!

 

その瞬間、後ろで勢いよくドアが開く音がした。

 

「はい~そこまで。いや~チョ議員、こんな子供相手になにやってんですかぁぁ??」

「な、なに…?誰だっ!」

「誰って…聞かないほうがいいと思いますけどォ。CYグループの次男って言えばわかります?」

「CY…グループ…」

「ハイ~因みに動画も撮ってますぅ~。こっち向いて~♡」

 

チョの顔はみるみる青ざめ、愕然としていた。

ポロポロ涙を零すジェジュンに、ジュンスがさっとバスローブをかけ、服と共に隣の部屋に連れ出した。

 

「ごめんね、遅くなって。もう大丈夫、大丈夫だからね…」

「うっ…うっ…っく」

 

ジュンスは手早くジェジュンに服を着せると、そのまま手を引きホテルを出た。

そして止めてあった高級車に乗り込むと、すぐに走り出した。

車は違うホテルに滑り込み、地下駐車場からエレベーターに乗り込んだ。

 

「お風呂入っておいで。着替え買ってくるから」

 

ジュンスはそう言うと部屋を出て行った。

広くて豪華な部屋、街を見下ろす超高層階…これがスウィートルームってやつなんだろうか…。

ジェジュンは言われた通りお風呂に入り、念入りに体を擦った。

 

シャワーに打たれながら、溢れる涙を止めずに、ワンワン泣いた。

悔しい…悔しい…何で僕がこんな目に…。

僕に両親がいないから?

それとも僕がオメガだから…?

 

風呂上がり、ぶかぶかのバスローブを着て、ソファに寝転んだ。

 

でも…助かった。

これから僕はどうなるんだろう…おばあちゃんは…?

そして、なんで助けてくれたんだろ…。

 

はぁ…疲れた…もう何も考えたくない…。

 

すごく…惨めだ…。

 

 

ジュンスが部屋に帰ると、ジェジュンはソファで丸まって眠っていた。

折れそうな細い脚、まだ幼い華奢な体が、なんだか痛々しかった。

ジュンスはジェジュンをベッドに寝かせ、ユチョンに電話をかけた。

 

「ユチョン、そっちはどう?」

「あぁ無事に済んだ。あの子は?」

「ジェジュンは眠ってる。いっぱい泣いたみたいで目の端が赤くなってた」

「まぁもうあんな事は起きないだろうから、安心しろ」

 

「ねぇユチョン…あの子を引き取れないかな。ユノ兄に頼んでみていい?」

「お前……」

 

ユノはジュンスを気に入っている。

それは弟であるユチョンの番というだけでなく、ジュンスがユノの目を真っ直ぐ見れる稀有な人物だから。

アルファであっても、ユノと真っ直ぐ目を合わせることが出来る人間は、ユチョンとチャンミンだけ。

なぜかは分からないが、ジュンスはオメガなのにユノを怖がらず、普通に話すことが出来るのだ。

 

いつもニコニコして、ユチョンの言う事を聞くジュンスだが、言い出したら聞かない所がある。

まぁ…頼むぐらいは良いだろ。後はユノ兄の判断に任せればいい。

とりあえず、ジュンスの言う事を聞いてやる事にした。

 

「ねぇチャンミン、ユノ兄に会いたいんだけど」

 

ジュンスが電話を掛けると、チャンミンが面倒くさそうに答えた。

 

「何故?」

「頼みたい事があるんだ。いつ会える?」

「社長はお忙しいんです!そんな時間ありません!…と言いたい所ですが、貴方の望みを断ると後で叱られますからねぇ…」

「チャンミンお願い!」

「はぁ~…今夜11時に戻られます。5分程度は会ってくれるでしょう」

「ありがと!やっぱ大好きチャンミン!」

「そういうの、いりませんから」

 

 

 

夜11時。

ジュンスは家に帰り、ユノを待ち構えていた。(ユチョンとジュンスもユノの屋敷に住んでいる)

チラチラとチャンミンの様子を伺い、チッと舌打ちされながら、ユノの執務室に連れられて行った。

 

「ユノ兄!ごめんね、ちょっとだけいい?」

「なんだ」

 

執務室の大きなデスクに座ったユノは、書類に目を通しながら返事だけよこした。

無駄な肉が全くない鍛え上げられた体躯、長い手足、切れ上がった小顔。

着慣れたブランドスーツにゴツイ高級時計、それをさらりと着こなす姿は、CYグループのトップそのもので、誰も彼がまだ20歳などと思わないだろう。

 

「チャンミンから聞いていると思うけど…ジェジュンを引き取りたいんだ」

「…お前、言ってる意味、分かってんのか?」

「分かってる。でもどうしても放っておけなくて」

「ダメだ。放っておけないならオメガの保護施設に言えばいいだろう?」

 

「ユノ兄だって分かってるだろ?保護施設なんて言いながら、あそこがどんな所か!なんだよっ!CYグループのトップなんて言いながら、子供一人助けられないのかよっ!」

「ジュンス…声が大きい」

 

チャンミンが諫めると、ジュンスはぷうと頬を膨らませた。

天下のCYグループトップに、こんな発言をするのはジュンスぐらいだ。

 

「はぁ…それで?そいつはどこにいる?」

「会ってくれるの?ジェジュン!入っておいで!」

 

 

 

 

ひれ伏したい♡ユノ様

 

 

 

※※※

ユチョングッジョブ!

チャミとジュンちゃんと3人でジェジュンを守ってくれました。

年令はJJ(13)ユノ(20)ユチョ(19)チャミ(19)ジュン(18)

ユノはJJより7歳年上になってます。

次回いよいよ初対面の二人です。