―――出会った時から惹かれ合い、決して誰にも引きはがせない。

どうしようもなく求め合い、本能のままに抱き合う魂の片割れ。

人はそれを「運命の番」と呼ぶ――――

 

 

 

うららかな春の日差しの中、真新しい制服に身を包んだ学生たちが、楽しそうに歩いている。

少し大きめの制服、後ろには嬉しそうな母親たち。

親と歩くのが少し恥ずかしい年頃で、少し離れて歩きながらも、何かと世話を焼かれている。

今日、キムジェジュンは中学生になった。

 

スラリと背が伸びたが、細身の体はそのままで、遠くから見ると女の子のような華奢な体。

透き通るような白い肌と、大きく潤んだ目は人を惹きつけ、長いまつ毛と、ぽってりとした唇が魅惑的だ。

だが、本人はその美貌に全く気が付いておらず、いつもぼんやりとしている。

 

両親がいないジェジュンは、一人で中学の門をくぐった。

「入学式」と書かれた看板の前で写真を撮る親子を横目で見ながら。

少しの寂しさを感じたが、自分を育てる為、毎日働いている祖母の手を煩わせるよりは良かった。

 

中学生になったとはいっても、小学校の隣にある中学に上がるだけなので、友人もそのまま一緒に通う事になる。

ぼーっとしたジェジュンとは反対に、色気づいた女子達はチラチラとジェジュンを盗み見るようになった。

 

 

 

中学に入ってまず、バース検査が行われた。

第二次成長期に入ると、人は男女の性別の他に、アルファ(α)ベータ(β)オメガ(Ω)に分けられる。

その検査をするのだ。

 

アルファは、全人口の5%という希少な存在で、何をするにも能力が高く、社会的にも高い地位に就くことが多い。

アルファが与える威圧感(オーラ)は強烈で、ベータやオメガは逆らうことが出来ない。

必然的に名家や財閥、その他エリートと呼ばれる人に、アルファは多い。

 

オメガも希少な存在であるが、オメガ最大の特徴は、ヒート(発情期)と、男でも妊娠が可能という特徴。

ヒートになると、オメガの意思関係なしに体がうずき、アルファとの性交渉を求めてしまうのだ。

フェロモンで誘惑する、淫乱、と揶揄され、オメガは性を軽く扱われてしまう傾向にある。

 

ベータは一番人口が多く、いわゆる普通の人であり、国の殆どの人はベータで占められる。

ベータの願いは、アルファに見初められ結婚する事であるが、それはシンデレラストーリー以上に少ない。

 

 

昨今、オメガの社会的地位の低さが、問題となっている。

そもそもオメガは体力があまりないので、ハードワークには向かない事もあり。

抑制剤を飲んでも、副作用などで体調を崩すオメガも多い。

そしてオメガがヒート時に発するフェロモンに、アルファやベータは惑わされてしまう。

エリート層アルファからすれば、発情して惑わせるオメガを軽視し、欲望のはけ口として扱う輩も多く。

社会的に地位や人権そのものが低く扱われ、低所得に陥りやすい。

 

過去には、オメガを監禁して風俗に堕としたり、金持ちのアルファに囲われたりと暗い歴史があったが、今は「オメガ保護法」と呼ばれる法律も出来、表面上オメガに対する差別は少なくなった。

 

オメガ保護法が出来たのには、もう一つ理由がある。

オメガは体力的に乏しいが、繁殖能力が高い。

反対にアルファは、能力は高いが繁殖能力が低い。

そして、オメガは男性でも妊娠・出産が可能だ。

つまり少子化の現在、オメガの繁殖能力無くして、人口増加はあり得ないと分かったから。

 

とはいえ、人口増加の為の「オメガ保護法」が人権に優しいかと言えば疑問が残る。

結局オメガを「産む道具」ととらえているのでは?と世界中で議論は続いている。

やはり人はどこかで、オメガを下位層に見ているのは、拭えない事実だった。

 

 

「あ~俺、オメガだったら死にたいわ。絶対ベータでありますように」

「私もたぶんベータだと思うけど…オメガだったらどうしよう~」

 

そんな心無い言葉が飛び交う中、ジェジュンは面倒臭そうに検査に向かった。

ジェジュンが住む地域にアルファはほぼいない。アルファは金持ちが多く済む高級住宅街にいる。

だからこの検査は、ベータか否か。ほとんどの生徒はベータだ。

だが、ジェジュンの両親は共にオメガ。

なので、自分がオメガなのは分かり切っている。

 

「はい、注目。検査結果は家に送られる。親御さんと一緒に見るように」

 

一応、検査結果で差別が行われないようにという、学校側の配慮らしいが。

そろそろヒート(発情期)が始まる年齢でもあるので、その配慮もあまり意味はなさない。

ジェジュンは、自分がオメガである事で、この先の人生が不安になった。

 

子供の時は、オメガやベータなんか関係なく遊べたのに…。

オメガに生まれる事が、そんなにダメな事なのかなぁ…。

 

 

「ただいまぁ」

「おかえり、ジェジュンや。店、手伝っておくれ」

「はーい」

 

ジェジュンの両親は亡くなっている為、ジェジュンは祖母と共に暮らしていた。

祖母は小さな食堂を営んでおり、ジェジュンはいつも祖母を手伝っている。

小さく古い店だが、味には定評があり、近所のおじさん達がいつも来てくれる。

とはいえ、こんな小さな店にアルファが来る事はなく、近所のベータやオメガのおじさんばかりだった。

 

店が終わり、祖母と一緒に店の後片付けをする。

 

「ジェジュンや、中学はどうだった?」

「うん。友達もそのままだから。あぁ、今日、バースの検査をしたよ」

「もうそんな年かい?ジェジュンも大きくなったねぇ」

「結果が送られてくるから、一緒に見なさいって」

 

「ねぇばーちゃん。オメガってそんなに悪い事?みんな凄く嫌がってた」

「悪い事じゃないさ。ただちょっと面倒だね」

「ヒートって…どんな感じなの?」

「ジェジュンはまだだろうね。アンタは細すぎる。もっとご飯食べなさい」

「ぅ…だって…」

「あんたの両親も食が細かった。元気に長生きしたきゃ、ご飯は食べないとね」

「分かったよ」

 

最近、やけにお店に来るお客さんからジロジロみられるなぁ。

必要以上に触られるような気がするし…なんでなんだろ??

ジェジュンは、おっとりとした性格だったので、あまり気付かなかった。

 

今、まさに固い蕾が開こうとする、瑞々しい花の様に。

あどけなさの中に隠れたエロティシズムを、欲望をはらんだ目で男達が見ている事を。

 

 

「えーっと…豆腐と、牛乳と…」

 

ジェジュンがスーパーにおつかいに行った帰り道、この辺りではあまり見ない男の人がいた。

二人の男は、とても綺麗な身なりをしていて、男同士なのに身を寄せあって歩いていた。

同性同士であっても、アルファとオメガの間では、魂が引き合えば「番(つがい)」になれる。

きっと番なのだろうが、アルファが殆どいないこの街では珍しい。

 

「ちょっと君」

 

ジロジロ見ていたからだろうか。

男同士カップルの片方から声を掛けられた。

金髪でニコニコと笑う優しそうな人。

 

「この辺りにチルソクって食堂あるの知らない?そこのスンデが美味しいって聞いて」

「チルソクは僕の家です。案内しますよ?」

「え?ホントに?ラッキー!この辺り道が分かりにくくて」

「そうですね。あんまり、外から来た人は来ないから…」

 

金髪の人は、隣にいた男に嬉しそうに抱きついた。

抱きつかれてニコッと笑った男だったが、その後も一言もしゃべらなかった。

 

「ねぇユチョン、すごい偶然だよね。たまたま声かけた子が探してる食堂の息子ってすごくない?」

「僕は孫です。チルソクはおばあちゃんの店なので」

「えー!おばあちゃんが作ってるの?絶対美味しい予感がするぅ」

 

二人を連れて食堂に入ると、騒がしかった食堂が、水を打ったように静かになった。

ピリッとした空気に包まれたと言った方がいい。

いつも飲んだくれているおじさん達も、目をキョロキョロさせて落ち着かなかった。

 

「ジェ、ジェジュン…この方たちは…?」

「ばーちゃん、スンデ二人前ね。わざわざ遠くから来てくれたんだって」

「ちょ、ちょっと…ジェジュン、こっちへ…」

 

それほど広くなく、古びた席に二人が座ると、どうしようもない違和感があった。

それほどまでに、二人はキラキラと眩かった。

金髪の人はニコニコ笑いながらメニューを見て、ユチョンと呼ばれた人は店をぐるりと見まわしていた。

 

「ジェ、ジェジュン、あの人たちは何だい?帰ってもらいな」

「え?せっかく来てくれたのに何で?」

「お前…何も感じないのかい?」

「何が?」

ジェジュンはササッとスンデを皿に盛ると、お盆に乗せて席に運んだ。

 

「お待ちどうさま~」

「わぁ!美味しそう!」

 

金髪の人は嬉しそうにスンデに箸を伸ばしたが、もう一人は食べなかった。

 

「あの…食べないんですか?」

「俺は食べない。ジュンス、いっぱい食べな」

「わぁい!ありがと~♡」

 

 

 

 

オメガってそんなに悪い事?

 

 

 

※※※

始まりました、緊張の第一話です(>_<)ドキドキ

大丈夫ですか?説明的な所もあるけど、ついて来てくださいね~。

幼さの中に色香を持つジェジュン(Ω)はまだ13歳。

Boleroでは、ラブラブユスが出てきます♡

(ユチョンはα、ジュンスはΩです)