電話をしても、ユノは出ない。
あぁっ!ヤバい!絶対怒ってるぅ(>_<)
俺が用意するから!なんてエラソーな事言って、全然何も用意できてない。
えーと…家に食材あったっけ?ワインは?プレゼント…は後日で許してもらおう。
とにかく、まず家に帰ろう!それから怒ったユノをなだめて、ご飯作って…。
「た、ただいまっ!」
勢いよく玄関を開けるが、部屋は静まり返って、真っ暗だ。
あぁ…怒ってどっか行っちゃったか…。
トボトボと廊下を歩き、真っ暗なリビングのドアを開けた。
パン!と音がして、顔に何かがぶつかってきた。
パチッと電気がつくと、大きなクリスマスツリーに、風船がふわふわとたくさん浮いていた。
「メリークリスマース!」
「え…?」
満面の笑顔のユノが、嬉しそうにクラッカーを放ち、頭には三角の帽子を被ってる。
テーブルには、所狭しと料理が並べられ、美味しそうなワインもあった。
「どうしたの?ジェジュンもメリークリスマス!って言ってよ」
「え…?ユノ…怒ってたんじゃ…」
「怒る?なんで?」
「だって…俺、忘れてたんだよ?明日だと思って…何の準備も…」
「仕事忙しそうだから俺がやったの!それでいいじゃん。準備するの楽しかったよ!」
「ゆの…ふぇ…」
怒っていたと思ったユノは、忙しい自分を気にかけて、こっそり準備をしていくれていた。
一言も怒らず…なんて…なんて…優しいの?
じわじわと涙が盛り上がってくると、ユノはチュッと音を立てて唇で涙を拭った。
「さぁ食べよ!俺が作ったんだぜぇ~!」
「うん…ありがと、ゆの」
美味しい料理を食べ、ワインを飲み、歌なんか歌って、二人まったりソファで映画見て。
最近忙しくて、コンビニの弁当ばっかり食べてたから、こういう温かいご飯最高…!
ワインは俺が好きな銘柄だし、ずっとユノが俺を抱きしめるようにして座ってる。
疲れている俺を癒そうとして、ずっと頭を撫でてくれる…。
あぁ…ユノは、俺の事何でも分かってるんだね…。
俺、今、最高に癒されてる…。
ふとユノが立ち上がり、部屋の隅で何かをしている。
見れば、今まではそこになかったレコードプレーヤーがあった。
そして、ユノが一枚のレコードをかけた。
「あ…これ…なんで?なんで知ってんの?」
ユノがかけたレコードは、古き良き時代アメリカのクリスマスソング。
フランクシナトラの「Have Yourself A Merry Little Christmas」(ささやかなXmasを)
ジェジュンの祖母がこよなく愛した曲だ。
ジェジュンの家は父親が事業で失敗するまでは裕福な家庭だった。
祖母はジェジュンを可愛がり、アメリカに住んでいたこともある祖母は、クリスマスにはお気に入りのレコードを必ずかけた。
家族でクリスマスを祝った、その思い出の曲なのだ。
「実家に帰った時、ジェジュンのおばさんがいて聞いたんだ。毎年クリスマスに聞いていた曲があるって。ジェジュンが凄く好きだったって…」
ユノはジェジュンのクリスマスプレゼントを選ぶのに苦労していた。
ジェジュンもユノもお金を稼ぐようになり、大抵のものは自分で買えるし、もう持っている。
モノではなく、何かジェジュンの心に響くものを…そんな事をずっと考えていた。
実家に行った時、たまたまジェジュンの母親が来ていた。
「あら―ユノ君!いつもジェジュンがお世話になっちゃって。ごめんなさいね~」
「いえ、ジェジュン兄がいてくれて助かってます。部屋がいつもキレイです」
「あの子、仕事に没頭したら何もかも忘れちゃうから。よろしく頼むわね」
「はい。俺がちゃんと管理します^^」
その時聞いた。
ジェジュン兄の家がまだ裕福だった時の話を。
その後、ジェジュンがずっと寂しいクリスマスを過ごしていたことを。
「私も必死だったから…。あれから家でクリスマスを祝う事も出来なくて。クリスマスの夜に一人で留守番させたりして。本当に可哀想な事をしたわ。きっとジェジュンの中で、幸せなXmasはあの頃のままで止まってるんだと思う」
楽しいクリスマスで溢れる夜を、たった一人で母親の帰りを待っていたジェジュン。
膝を抱えた幼いジェジュンを想うだけで、胸が痛んだ。
「おばさん大丈夫。これからはずっと、俺がジェジュン兄と一緒にクリスマスを過ごすから」
「これからずっとって…ユノ君もいつかは結婚するでしょう?」
「ううん。俺、これからもずっとジェジュン兄と一緒に過ごすよ。本当に」
ジェジュンの母は、目を見開いて驚いていた。
だが、ユノの真剣なまなざしを見て、言いかけた言葉を飲み込んだ。
そして、ユノだけに聞こえる声で言った。
「ジェジュンを…お願いね…」
「はい…大切にします…」
二人並んでブランケットにくるまり、キャンドルの炎を眺めながら話す。
「あの頃、俺ん家には暖炉があったんだ。家族みんなで、ターキーを食べて神様に祈ったよ。暖炉の炎が揺れて綺麗だった。静かで温かいクリスマス」
「うん。俺もロスにいたけど、Xmasは家族で過ごす日だった」
「ばーちゃんがさ…すごく俺の事可愛がっててくれて。この曲聞くと、ばーちゃん思い出す。幸せだったあの頃を…思い出す…」
子供の頃は分からなかったジェジュンの過酷な子供時代。悲痛な過去。
それもひっくるめてジェジュンを丸ごと愛したい。
「ばーちゃんがね、この曲を聴きながら言ったの。来年も、その次の年も、家族みんなでクリスマスを祝いましょうって。結局叶わなかったけど…。今も大好きな曲なんだ…」
じわりと涙が滲むジェジュンの瞳が、キャンドルに照らされて光ってる。
キレイだ…。本当に綺麗だ…ジェジュン…。
「ゆの。ありがとう。忘れてたよ。俺には、こんないい想い出もあったのに…。最高のプレゼントだよ」
「喜んでもらえて良かった。俺もこの曲好きだ」
「ゆの…来年も、その次の年も…俺と一緒にクリスマス祝ってくれる?」
「あぁ、もちろん」
「分かってる?ユノ、クリスマスは家族と過ごすんだよ?」
「…っ!ジェジュン、それ、プロポーズ?」
「うん。ゆの、俺と家族になってくれる…?」
「ジェジュン!!」
ユノは立ち上がり、ジェジュンをひょいっと抱きあげた。
そのままギュッと抱きしめた。
「もちろんだよ!嬉しい!嬉しいよジェジュン!ジェジュンからそんな言葉が聞けるなんて。最高のXmasだ!!」
ジェジュンはユノの首に巻きつくように抱きついた。
「ゆの…Merry Christmas」
「ジェジュン、Merry Christmas」
口づけを交わすと、さっき飲んだホットワインの味がした。
暖炉も七面鳥もないけれど。
二人の心は温かく、最高にロマンチックだった。
二人は何度もキスを繰り返し、目を見つめてはまた幸せなキスをした。
繰り返し流れる「Have Yourself A Merry Little Christmas」
来年も再来年も、その先もずっと…。
二人でこの曲を聞こう。
楽しくささやかなXmasを…♡
※※※
丁度これを書いていたのがクリスマスでした。
本編で書ききれなかった二人の日常、ささやかで温かい二人のXmas♡
二人の幸せな時間を感じて頂けたら嬉しいです^^
次回あとがきと次作の予習です。