「ジェジュン兄?」

「あ…ユノ、久しぶりだね」

 

余裕の笑みを浮かべながら、ユノはアメリカ式に握手を求める。

ジェジュンも笑顔を返しながら、軽く握手する。

 

「すごく体が大きくなったから分からなかったよ。あ、金メダルおめでとう。すごいね、本当に夢を叶えたんだね」

「ありがとう」

 

ユノは当たり前のように賛辞を受け取り、ニヤッと笑った。

ジェジュンはこれ以上話すことが無くて、モゴモゴと口ごもった。

 

「隣、いい?」

「え?あ、あぁ」

 

ユノはジェジュンが座っていた椅子の隣を指さし、ドカッと座ると長い脚を組んだ。

そのままゆったりと背もたれに体を預け、ジェジュンを品定めするかのように上から下まで見た。

えー…どうしよう…もう話す事無いんだけど…。モジモジ

 

 

スポンサーの兼ね合いからパーティーに呼ばれ、仕方がないから行くことになった。

適当に写真撮られてすぐに帰ろうと思ったが、会場に思わぬ人がいた。

 

ジェジュン兄だ。

 

あれから5年以上たっているのに、相変わらず美しい人だった。

いや、30歳を超えてますます色っぽくなった…そこだけ光っているようにさえ感じた。

ジェジュン兄は俺の存在に気付いているはずなのに、声を掛けてこなかった。

随分待ったが声を掛けてきそうになかったので、自分からアクションを取った。

 

ジェジュン兄は、社交辞令のような挨拶をし、あまり俺に会えたことを喜んでくれなかった。

いや、違う。俺が圧力を掛けていたのだ。

大人になった俺を見ろ、俺を舐めるな、俺は昔とは違うぞ、そんな無言のプレッシャーをかけていた。

どうやら俺は、5年経った今でも別れ際のあの事が、心残りのようだ。

 

「ジェジュン兄は…変わらないね」

 

どちらの意味にも取れる言葉、いい意味にも悪い意味にも。

 

「ユノは、変わったね」

 

何が?体つきが?雰囲気が?こちらもどちらとも取れる言葉だ。

俺は、ちょっと大人になった自分を見せつけてやろうと思った。

あの頃のように、呼ばれたら犬のようにしっぽを振って駆けつける俺ではない事を。

そっと近寄りジェジュン兄の耳元で囁く。

 

「相変わらず、キレイだ」

 

ジェジュン兄はフッと笑って俯いた。

こんなに人がいる中でも、大胆に口説ける俺は、大人になったんだ。

 

「ユノぉ、そろそろ帰ろう?僕、こういう場苦手…」

 

若くて綺麗な男が、つまらなそうにユノの背中にすり寄った。

華奢で色白の男は、オリンピック選手ではなく、ユノが個人的に連れて来ていた。

 

「あぁ、もう少し待って」

 

ユノの人差し指が、するりと男の頬を撫でる。

少し拗ねたような顔をした若い男は、明らかにジェジュンを意識している。

 

「ね、ユノ兄、この人誰?紹介して」

「あぁ、ジェジュン兄だ。子供の頃家が近所だったんだ」

「あ、そうだったんですね?どうも、僕カンドヨンです。内緒ですけど…ユノ兄と付き合ってます」

「おい、いつそんな話に?」

「えぇ~だぁって。僕達付き合ってるんじゃないのぉ?ひどいよ~」

 

ジェジュンを意識したドヨンは、先に自分から「付き合っている」と先制パンチを打ってきた。

だがジェジュンは驚く事もなく、ニッコリ笑顔で言った。

 

「そうなんだ。仲良さそうだもんね」

「えっ!ほんとにそう思います?わぁ~ジェジュンさんって素敵な人~♡」

 

帰ろうと言っていたドヨンは、仲良さそうと言われ機嫌が直ったのか、自分で椅子を持ってきてユノの隣に座った。

ぺちゃくちゃと、聞いてもいないのにユノとのなれそめを話し出し、自分がいかにユノに愛されているかを、これ見よがしにジェジュンに力説し始めた。

 

「ほぉんと、ユノ兄って優しくて…。あ、でも結構夜はきつめかな?うふふ」

 

ユノは、だんだん居心地の悪さを感じていた。

違う違う、そうじゃない。

たまたまくっついて来たドヨンがいる席でジェジュン兄に声を掛けたのは、ただ男の影を匂わせたかっただけで。

今でもジェジュン兄に囚われていないと、「余裕の俺を演出したかった」だけなんだ。

 

「ジェジュンさんって綺麗ですよね~。恋人とかいるんですか?」

「ううん、いないよ」

「え~何で?こんなに素敵なのに」

 

ユノはいつの間にか耳をダンボにして、ジェジュンの言葉を聞き漏らすまいとしていた。

 

「付き合ってた人がいたんだけど別れちゃって。でも別れてから、好きだったんだなぁって…」

 

ジェジュンの言葉は、ユノに大きなショックを与えた。

ジェジュンは大人だし、あれから5年以上が経っている。

付き合った奴がいたとしてもおかしくないし、そんな事は想定済みだ。

だが、自分でも驚くほどショックを受け、目の前が暗くなり、イライラが爆発しそうだ。

 

「え~何だか可哀想~。でもジェジュンさんって若く見えるけど30超えてますよね。30超えて独りって寂しくないですか~?僕だったらムリ~」

 

ピキ…。

流石のジェジュンも、ドヨンのこの言葉には、顔が引きつった。

帰りたいんじゃなかったんか?ただ自分に注目して欲しかっただけだろ?この構ってちゃんが!

若さを自慢気に見せつけ、言葉遣いも知らないドヨンに、ジェジュンはついに…キレた。

 

「ユノ、好み…変わったんだね」

 

ちらりとユノを流し見る。

美しいジェジュンの妖艶な視線は、ユノの胸に突き刺さった。

 

「え~どういう意味ですかぁ?ユノ兄の好み、知ってるんですか?」

「うん。ユノの事はいっぱい知ってる」

「え…?」

 

不穏な空気が立ち込める。

 

「ユノは、君みたいなションベン臭いお子様には興味ないよ」

「なっ…!」

 

ジェジュンは立ちあがり、ユノの逞しい腕を取った。

 

「ユノの初めては俺なの。俺がユノを男にしたの。じゃあね」

 

グイっとユノを引っ張り立たせると、そのまま腕をひいて部屋を出た。

ドヨンは一言も言い返せぬまま、呆然とするしかなかった。

 

部屋を出ると、ユノはクックック!と笑い出し、ついには腹を抱えて笑った。

ジェジュンは、はぁ…とため息をつき、バツが悪そうに頭を掻いた。

 

「はぁ…大人げない事をしちゃった…」

「ううん。ジェジュン兄、最高にカッコ良かったよ」

「ちょっとからかっただけだよ。じゃあね」

「え?ちょっと待って!」

 

そのまま行こうとするジェジュンの腕を、今度はユノが取った。

 

「ジェジュン兄…ちょっと話がしたい。二人きりで」

 

 

 

ヒチョルは、部屋から出て行ったジェジュンとユノを見て、クスクス笑っていた。

以前、韓国に帰国したばかりのジェジュンと、話した事を思い出していた。

 

「日本では、誰とも付き合わなかったのか?」

「ウン。仕事一筋だったよ。なんか、遊ぶ気もなくなっちゃって…」

「お前にしちゃ珍しいな」

「う~ん…なんか、遊びで寝るのも虚しくなっちゃって。つまんないから」

「そういう時ってな、だいたい誰かの事が心にあるからなんだ。自分の胸に手を当ててよーく考えてみろ」

 

チャンミンと別れてから、誰とも付き合わなかったジェジュン。

ジェジュンは、チャンミンとの別れはスッキリと納得していた。

誰も傷つけないぐらい強くなりたいと言った、それは誰かを想っての言葉だ。

それは誰か。

すなわち、チャンミンの前にジェジュンの心を動かした人物。

 

当時18歳で、大きな夢を持っており、ジェジュンが身を引いた男がいた。

その時さりげなく名前を聞いていたが、その人物が金メダルを取っていたのだ。

先輩として、もう、会わせてやるしかないじゃん?

 

「お望みの物は、見られたのかな?」

 

ユチョンが優しく後ろから、ヒチョルをハグする。

 

「ありがとう、ユチョン。金メダリストを呼ぶなんて、やっぱりユチョンの人脈は凄いね」

「可愛い君の為なら、誰だって呼んでみせるよ♡」

「そういうカッコいい所好きだよ。愛してる♡」

「ふふ。俺はいつも誰かのために動く、優しいヒチョルが大好きだ。愛してるよ」

 

 

 

 

 

俺がユノを男にしたの

 

 

 

 

※※※

5年ぶりの再会です。

全てヒチョルの仕組んだことでした。さすが女王様!

次回から、2話連続あめ限。

5年前との違いを、たっぷり堪能してください♡