太陽が輝き、パームツリーが揺れるロスの空。
地中海性気候の恩恵から、年中雨が少なく、カラッとした空気の過ごしやすい街。
その爽やかさ同様、ここに住む人たちも底抜けに明るい人が多い。
一纏めにしていた髪をほどくと、少し長い髪がパラリとユノの首に落ちた。
日に焼けた肌に、ごつごつとした筋肉、揺れる黒髪が、東洋人らしくセクシーだ。
欧米人の中で、涼やかなユノのアーモンドアイは人目を引き、見る人の心を奪った。
ロスに住む女の子たちが、ちらりとユノを盗み見るのも、日常の風景だった。
「Hey!ユノ!韓国に帰るんだって?」
トレーナーを務めてくれたブライアンが、ポンと肩を叩いた。
韓国から彼を頼りロスに来て、一から体づくりを始めた。
徹底した栄養管理と、計算しつくされた筋トレ、フィジカルトレーニングをトレーナーの指導の下行う。
並行してテコンドーの技術テクニックを磨き、柔道や格闘技にも精を出した。
そのかいあって、体重は10キロ以上増え、体も一回り大きくなった。
「あぁ。予選があるからな」
「またいつでも帰って来いよ」
ユノは手上げて白い歯を見せた。
前回のオリンピックを捨て、80キロ級に出る為、ひたすら自分を鍛えてきた。
韓国で少しばかり名が知れているという、ちっぽけなプライドは粉々に砕け散り、無名の選手として黙々と厳しいトレーニングに励んだ。
ただひたすら、強くなるために。
改めてロスに来てよかった。
最初こそ気負っていたが、周りの明るさに助けられ、メンタルも強くなった。
加えてゲイが多いこの街では、自分自身を解放できたし、それが強さの源になっていると思う。
俺は、もう何も怖いものはない。
空港には、ユノのファンだという女の子たちに交じり、色々遊んだ記憶がある男たちが見送りに来ていた。
その光景を見て、空港まで送ってくれたブライアンが耳元で囁いた。
「お前の好み…丸わかりだなww全員色白で可愛い男なんだもん」
ユノの性癖を知るブライアンはそう言ってユノをからかった。
ユノはフンと鼻で笑いながら、改めて並んでいる男たちの容姿が似ているので、苦笑するしかなかった。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
色目を使ったCAが、コーヒーと共に小さなメモを渡してくる。←日常
ニッコリ笑いながら、ユノはそのメモをポケットに突っ込んだ。
ロスで東洋人はモテる。がそれを差し引いても、ユノはモテた。
男にも女にもモテまくった。モテてモテて困るほどモテ、うんざりすほどモテた。モテモテ♡
だが、それが嘘ではないと思えるほど、23歳になったユノは、セクシーで逞しい男に育っていた。
「アンタ、テレビ見た?ユノ君、すごいわねぇ」
「え?誰?」
「ユノ君よ!アンタが家庭教師してたユノ君。オリンピックに出るみたいよ。予選も快勝だったって」
「マジ?」
休みを実家で過ごしていたジェジュンは、慌ててスマホを開いてユノを検索した。
すると、出るわ出るわ、ユノの練習風景や、試合画像のみならず、私服の姿のユノも山のように出てきた。
女の子たちが黄色い声を上げ、ユノを追う姿は、まるでアイドルスターだった。
「え…すご。めっちゃ大きくなってる…」
あの頃のユノとは違い、一回り大きくなった体、そして長髪から覗く妖艶な目つき。
短髪でまだ幼さの残る高校生だったユノ、だが今は色気を漂わせるれっきとした大人になった。
大人になったと同時に、有名人になって帰ってきたユノ。
「すごくセクシーになったわねぇ~。アンタ、サイン貰って来なさいよ」
「憶えてないよ、きっと。何年前だと思ってんの」
「憶えているでしょう?いくら何でも。まぁもう近所のユノ君じゃなくなっちゃったわね~」
ユノの経歴を読んでいると、アメリカで苦労したようだ。
だが、ユノはひたすら愚直にトレーニングに取り込み、ストイックな生活をしていたと書いてあった。
ストイック…?それだけであんな色気が出るもんかね…。←さすが元祖モテ男
オリンピックが始まり、世界中の人が寝不足覚悟で、テレビにかじりついた。
普段テレビを殆ど見ないジェジュンも例外なく、スポーツを楽しんだ。
ただ観戦中の視線は、鍛え上げられた男たちの筋肉や股間に集中していたが。
テコンドーの試合は、録画しながらリアタイした。
ユノは、予選から始まり、日を追うごとに、どんどん勝ち進んでいく。
ユノはカッコよかった。本当に強くなっていた。
今や若い女だけではなく、男達の憧れの象徴にもなったユノ。
オリンピック会場のユノに注目が集まり、ニュースやワイドショーでもユノの特集が組まれた。
インタビューでは、好きな女性のタイプを聞かれ、困った表情を見せたユノに、女性達は心をときめかせた。←本当に困っただけ
ジェジュンはそのすべてに目を通し、ユノの試合は、全試合手に汗を握り観戦した。
決勝戦の時には、海外の熱心な女性ファン達が、旗を作って応援していた。
ユノ…!頑張れ!
ユノは、全世界が見守る中、金メダルを獲得した。
その瞬間、韓国全土はもちろん、外国でもユノの金メダルを喜ぶ声で溢れかえった。
ユノは、世界的に有名人になったのだ。
「部長、昨日のテコンドー見ました?ユンホ選手カッコよかったっすね~」
「うん、見たよ。寝不足だよ」
「高校の時テコンドーやってたんですけど、またやろうかなぁ~」
会社でもオリンピックの話題でもちきりで、ユノを知らぬ者はいなかった。
ユノはいつの間にか、遠い存在になっていた。
ユノ、俺の事なんか覚えてないかもしれないなぁ…。別れは最悪だったし…。
どっちにしろ、もう別世界の人間になっちゃったな。
昔は可愛かったけど…もう、別の人みたいだもんなぁ…。
ジェジュンは少しの寂しさを覚えたが、ユノの成功は心から嬉しかったし、夢を叶えたユノを誇らしく思っていた。
今日は、ヒチョル兄・ユチョンさんカップルと一緒に、金持ちが集まるパーティーに行く。
チャンミンと別れてから特定の恋人を作らない俺を心配し、ユチョンさんの集まりに招待してもらった。
正直面倒だなぁと思ったが、心配してくれる彼らを無下には出来ない。
5つ星ホテルのスウィートを貸し切り、厳格な会員制のパーティーには、有名人の顔もチラホラ。
ここで起こった事は絶対に外には漏れないので、みんな安心して楽しんでいる。
昔、散々パーティーに出ては、好みの男を漁っていたが、今はもうそんな気はない。
適当に挨拶をしたり、好みの酒をチョイスして楽しんでいた。
「やぁジェジュン君、楽しんでる?」
「あ、ユチョン先生。山崎が飲めて嬉しいです♡」
「ハハハ。君はウィスキーが好きだなぁ」
ユチョン先生は相変わらずゆったりとした雰囲気で、この人の傍にいるとすごく落ち着く。
金持ちの余裕なのか、育ちの良さか、気を遣わせないおおらかさが大好きだ。
すると、急に会場がザワザワと騒がしくなった。
会場にふさわしくない、黄色い声もちらっと聞こえた。
背が高く、鍛えた男が数人、ぞろぞろと会場に入って来た。
「アレ…サッカーの韓国代表だよね?隣は陸上の…」
「あっちにいるのはテコンドーのチョンユンホじゃない?」
「え!マジ?私すっごくファンなんだけどー!」
金持ちや有名人だらけの会場だが、さすがに今をときめくオリンピック選手たちの登場に、場は興奮を隠せなかった。
ジェジュンも驚いて、人だかりから目を凝らしてユノの姿を探した。
どこかの金持ちが、場が盛り上がるようにと、オリンピック選手を呼んだらしい。
スポンサーの兼ね合いもあるから、彼らも無下に断れないようだ。
みんな一緒に写真を撮ったり、話をしたり楽しそうだ。
特にユノの周りは、若い女の子で溢れていた。
一応彼らも金持ちの有名人だったりするので、それほど場は乱れなかったが。
写真タイムが終わると、また会場はざわつきながらも、上品な空気に戻った。
ジェジュンはユノに声を掛けそびれていた。
昔のことなど忘れ、ただの幼馴染として挨拶ぐらいすればいいのに、ジェジュンはどうしてもユノに近寄れなかった。
なぜならユノが違う人のように見えたから。
過去の事もあり、今のユノと何を話せばいいか分からなかったのだ。
すると、ユノがジェジュンに気が付いて近づいてきた。
長い脚に鍛えられた体躯、ダメージジーンズにジャケットというラフな格好でありながら、漂うセレブ感。
ユノはそこにいるどんな金持ちより、スマートでカッコよかった。
「ジェジュン兄?」
「あ…ユノ。久しぶりだね」
金メダリストで更にモッテモテ♡
※※※
あけましておめでとうございます。
元旦からの地震、大丈夫だったでしょうか。
UPするのをためらいましたが、ユンジェで少しでも気持ちが軽くなる方がいれば嬉しいと思い、予告通りUPしております。
心からお見舞い申し上げます。
有名になり、セクシーで、モッテモテ男になって帰国したユノ。
ジェジュンの方が気後れしています。
残り4話です。