パソコンの前に座ったユノが、時計とにらめっこをしている。
〇〇大の合格発表が、もうすぐ大学のHPで発表されるからだ。
受験前日、ジェジュン兄に元気づけてもらおうと電話したら。
「え?何?ユノ心配してんの?言っとくけど今のユノの実力じゃ、〇〇大なんて、ヨユーだよ、余裕。誰が家庭教師したと思ってんの~^^だから心配しないで、いつも通りやっておいで^^」
驚くほど軽い調子で「余裕だ」と話された。
でもそれが、なにより心強かった。
ジェジュン兄の言葉どおり、いつもの調子でやれば焦りもなく、時間いっぱいを使って見直しも出来た。
合格発表はまだだが、試験が終わった事でジェジュン兄と、ゆっくり会いたかった。
だが、今度はジェジュン兄の仕事が忙しくなってしまい、結局会えなかった。
多分、俺の為に割いていた時間を取り戻すように、仕事に励んでいるんだと思う。
俺は、ジェジュン兄にお礼がしたくて、何かプレゼントをしようと思った。
合格したら、それをお礼に渡そうと考えた。
お小遣いの範囲内だから、大したものは買えないけれど、何かプレゼントをしたかった。
数時間街を歩き回り、やっと見つけた可愛い緑のマフラー。
俺の大好きな緑色で、ざっくりと編んであるマフラーは、きっとジェジュン兄の白い肌に似合う。
ふふ…可愛いだろうな…♡
プレゼント用に包んで貰ったマフラーを膝に置き、俺は祈るように、大学のHPを開いた…。
ユノは、プレゼントするマフラーを持って走っていた。
やった…!やった!合格した!
この喜びを一番に、ジェジュン兄に伝えたかった。
今はまだ仕事中、だけど必ず会社から出てくるんだから、ここで待っていれば絶対会える!
ユノはジェジュンに直接伝えたくて、メールもせず、ジェジュンの会社が入っているビルの近くで待っていた。
小一時間ほど待っていただろうか…。
ビルの向かい側から、背の高いスーツ姿の二人が歩いてくるのが見えた。
遠くからでもすぐ分かる、白い肌のジェジュン兄は光って見えた。
声を掛けようとして、隣にいるのが花火大会で出会ったジェジュン兄の上司だと分かった。
二人は真剣な顔をして、仕事の話をしながら歩いてくる。
二人ともかっちりと着込んだスーツ、ハイブランドの洒落たネクタイ、袖口から見える時計、磨かれた革靴、首から下げた社員証。
目の前のビルは見上げるほどの高層ビル、こんな所で働いているヒョン。
どれもこれも大人の装いであり、二人ともバリバリ仕事をしている社会人だ。
急に、ユノは自分が持って来たジェジュンへのプレゼントが、子供っぽく惨めに思えた。
ジャージ姿の自分が、どれほどこの場で浮いているかやっと自覚した。
ギュ…。
ユノは、プレゼントを握り締め、そのままジェジュンに見つからないよう走って帰った…。
受験が終わり、合格発表が終わり、当然ながら家庭教師も終わった。
今までジェジュン兄に、当たり前の様に会えていた時間もなくなった。
合否の結果にジェジュン兄が電話をくれたが、仕事が忙しいみたいで、落ち着いたら合格祝いしようと言われたきり、一週間が過ぎていた。
大学に合格した事で、〇〇大のテコンドー部から連絡があった。
スポーツ推薦をしてくれようとしていた監督が、自力合格したことを喜んでくれ、すぐにでも大学でトレーニングできるように取り計らってくれた。
優秀な指導者の下、本格的なトレーニングができるようになった。
「受験だったのに体力は落ちてないな。遅れを取り戻せ」
全国大会で優勝し、スポーツ推薦を貰えていたら、もっと楽に今の場所に辿り着いただろう。
だが、ケガをして成績は振るわず、スポーツ推薦も取り消され、学業は底辺でどうしたらいいかもわからない状態だった。
もうダメだ、俺のテコンドーは終わったと思った時、ジェジュン兄が現れた。
中学の問題からやり直し、コツコツ勉強して、少しずつ成績を上げた。
遠回りをしたが、腐らず諦めず努力した事で、自分のメンタルが強くなったと感じる。
自力では〇〇大に合格することは出来なかっただろう。
今、自分がこうして〇〇大のトレーニングを受けることが出来るのも、全てはジェジュン兄のおかげだ。
部屋の隅に、惨めになって放り投げたジェジュン兄へのプレゼントがあった。
カッコ悪くたって、惨めだって、ジェジュン兄へのお礼を渡そう。
そして、心から感謝の気持ちを伝えよう…。
「ゆの!合格祝いしよう!時間取れたからうちにおいで^^」
ジェジュン兄から電話を貰って、すぐさま走ってジェジュン兄の家に行った。ワンワン!
「ゆの~!合格おめでとう~~♡」
ジェジュン兄は自分でケーキを作ってくれていた。
俺が大好きな生クリームといちごがいっぱいのったケーキ。
「ありがとう!わぁ~いちごがいっぱいだ!」
「うふふ♡あとね~…コレ!合格祝い!」
ジェジュンがとりだした黒い箱。
それを開けると、黒くてゴツイスポーツウォッチが光っていた。
「あ!これ!すっげー流行ってんの!日本ブランドでなかなか手に入らないヤツ!」
「そーだろ?でもユノはこれが似合うと思ったんだ~。着けてみて?」
腕にしっくり馴染むスポーツウォッチは、若くいつもカジュアルなユノにぴったり。
自分で言うのもなんだが、カッコ良く決まっている^^
「わぁ~嬉しい!ありがとう!ジェジュン兄!…でも、これ、高いよね…」
「ばーか、俺は社会人だぞ。頑張ったユノに良いものあげたいじゃん。少しぐらいカッコつけさせろよな」
「大事にするよ!あ…俺も…ジェジュン兄に…お礼をって思って…」
「え?なに?プレゼント買ってくれたの?」
モジモジと恥ずかしそうに、ユノは、握り締めていた袋を渡した。
「え~なんだろ?」
がさがさと音がして、中から目が覚めるようなキレイなグリーンのマフラーが出てきた。
「金ねーから…そんな、いいもんじゃ…ないんだけど…」
「え~~♡可愛い~♡すっげー綺麗な色だね!似合うかなぁ…どう?」
ふわりとマフラーを首に巻いたジェジュンは、ユノが想像した通り可愛かった。
「うん…すっげぇ似合う!可愛い!」
「えへ♡そう?自分じゃ買わない色だから嬉しいな。ありがとう、ゆの^^」
良かった…喜んでくれた…。
ちゃんと、お礼言わなきゃ。
「俺、全国で優勝して推薦貰って…そういう未来しか予想してなかったから、まさか自分が推薦貰えないなんて思いもしなかった。自分だけじゃ何も出来なくて、きっと腐って人の事羨ましがるばっかりで、落ちるところまで落ちてたかも知んない。自分一人じゃ絶対合格できなかった。全部、ジェジュン兄のおかげだよ。俺が大学行けたのも、自分の夢諦めずに済んだのも、自分の事嫌いにならずに済んだのも、全部ジェジュン兄がいてくれたからなんだ。本当にありがとう」
深くお辞儀をして頭を上げたら。
ジェジュン兄の目にいっぱい涙が浮かんでいた。
「え…ど、どうしたの?」
「う、嬉しくて…。おれのおかげじゃないよ。全部ユノが頑張ったからだよ。よく、頑張ったね」
「ううん。ジェジュン兄のおかげだよ」
「ふえ…あんな小さかったユノが…こんなに立派になって…」
「ふふっオンマみたいだよ、ジェジュン兄」
ジェジュンの細い体をギュッと抱きしめると、同じようにギュッと抱きしめ返したジェジュン。
「俺…絶対オリンピック行くからね…」
「うん。頑張ってね」
ユノが凄く大人に見えた。
ちゃんと、お礼を伝えてくれて、深々とお辞儀までして…。嬉しい。本当に嬉しい。
それに、ユノがプレゼントまで用意してくれた。
ユノの性格からして、こういうものを選ぶって凄く時間かかったと思う。
俺の為に時間かけて選んで、渡そうかどうか悩んで…。
そういう感覚忘れてたな…すごく嬉しい。
こう言っちゃなんだけど、今まで高級なプレゼントなんて腐るほど貰って来た。
だけど、ユノがくれた可愛いグリーンのマフラーは、見てると微笑ましくなってしまう。
きっと財布とにらめっこして、少ないお小遣いの中から一生懸命選んでくれたんだ。
可愛すぎる♡心がこもってるもん♡
さぁ~~今日はいっぱいアン♡アン♡言っちゃうぞぉ~~←やる気満々
可愛い♡
※※※
ゆの、合格おめでとう^^
ジェジュンはちゃんとユノの想いを受け取ってくれました。
ユノや、大人ってのは意外と「心がこもった贈り物」に弱いもんなんだぜ。
ただ自分がまだまだ子供だと言う事に、気付き始めたユノです。