「おい、ジェジュン‼資料持ったのか?」
「持ちました、足りないのは先輩が用意すると言った資料だけです」
今、ジェジュンは先輩と一緒に、ある病院に営業をかけている。
だがこの先輩、机の上は崩れ落ちそうな資料の山、大事な書類も不要な書類も全て交じり合い、先日も得意先に返却する書類が無くて、一緒に2時間かかって探した。
そのくせ威張る事だけは一人前で、全てをジェジュンのせいにすり替える。
正直一緒になどやりたくはないが、上からの命令なので逆らえない。
言い返せば不機嫌になるし、整理整頓ができず、タスクを溜めまくる先輩と一緒に仕事をするのは、それだけでストレスだ。
やるべきことは後回しにせず、すぐにやれっ!あと、自分のデスクぐらい片付けろっ!もうっ!
ストレスを抱えながらも、何とか仕事を成功させるため頑張っていた。
だがある日、先日先輩と訪問した先から、お怒りの電話がかかって来た。
「先輩、先日あの病院に渡しておくと言った資料、見せてもらえます?」
「はぁ?そんな事急に言われて分かるかよ」
ごちゃごちゃの机を見れば、確かにそうだ。
「パソコンに残っているでしょ?見せてください」
「勝手に探せ」
…ったく、パソコンの中もごちゃごちゃかよ!ちゃんとフォルダに分けろ!
何とか探し、再印刷してみると…。
「先輩!マズいですよ!数値が違ってます。変更になったから自分で直しておくと言ってたじゃないですか!これは以前の数値のままです!」
「は?そんなわけ…」
先輩の顔色がみるみる真っ青になる。
茫然とする先輩を押しのけ、ジェジュンは正しい資料を作り上げ、椅子から立った。
「先輩!すぐにお詫びに行きましょう!早く、用意して!」
「いや…俺、今から、行かなきゃいけないから…お前に任せた」
「先輩のミスなんだから、先輩が行かなきゃでしょ?すぐに部長に報告して…」
「ダメだっ!いいからお前すぐ行って来いよっ!俺とお前で進めてたんだから、どっちの責任とかないだろっ!お前暇なんだからお前が行ってこいっ‼部長には言うなよっ!」
先輩は全てをジェジュンに押し付け、逃げるように会社を出てしまった。←サイテー
ジェジュンはブチギレそうになったが、深呼吸をし、まずは「報・連・相」。
上司であるチャンミンに、報告の電話をした。
「すぐに先方にアポを取って。私が同行します」
「お詫びの電話を入れて、アポは頂いています。申し訳ありませんが、同行お願いします」
先方の病院に着くと、当然のことながら強いお叱りを受けた。
ジェジュンは深く頭を下げ、真摯に謝ったが、先方のお怒りは収まらなかった。
もしかしたら別で何かイラつく事があったのかもしれない。
その説教は続き、どんどんヒートアップし始めた。
資料を机にたたきつけ、謝り続けるジェジュンに、大声で怒鳴り始めた。
キーンと耳鳴りがして、ズクン、ズクンと鼓動に合わせて頭痛がしてくる。
…いやだ…いやだ…怒鳴らないで…。
ジェジュンの頭は、次第に真っ白になり、怒鳴る声が、ぐわんぐわんと頭に響いた。
――ジェジュンッ!酒持ってこいと言っただろう!聞こえねぇのかっ!なんだその目はっ!
もうやめてっ!あなた!
お前の躾がなってないからだっ!
おとうさん!もうやめてよぉっ!お酒、飲まないで…
うるせえっ!ぐずぐず言ってないで早く買って来いっ!おらっ!早くいけぇっ!!ガシャーンッ!!
まったく、間違った資料を渡すなんて初歩ミス、言語道断だが、それにしても怒りすぎだろ。
何があったか知らんが、こんな些末なミスでよくもここまで怒鳴り散らかせるもんだ(呆れ
とは言え、こちら側の落ち度であるから、余計な事を言って怒りに火を注ぐ事は避け、気が済むまで怒鳴らせておこう。
チャンミンが冷静な判断をして、申し訳ないという顔を作っていると、隣のジェジュンがブルブル震えている。
…なんだ?これぐらいのことで。…怖いのか?
いや…様子が変だ、顔は真っ青で、目もうつろだし…どうしたんだ?(先方そっちのけ)
するとジェジュンは、小さく首を振りながら、両手で自分の耳を塞いでしまった。
それを見た相手は、「なんだその態度はっ!」と更にキレてしまった。
すっとジェジュンを背中に隠し、チャンミンは深々と頭を下げた。
「この度は、全てこちら側のミスであり、申し開きもございません。貴重なお時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした。これ以上ご迷惑はおかけできませんので、私共はこれにて失礼いたします。大変!申し訳!ありませんでしたっ!」
話は終わっていない!という相手を残し、くるりと踵を返し、ジェジュンを連れてさっさと部屋を出た。
「…キムジェジュン、大丈夫か?」
チャンミンは、車が置いてある木の下で、まだ震えているジェジュンの顔を覗き込んだ。
「はっ…すみ…ませ…ん」
「構わない。落ち着くまでここにいよう」
心臓がバクバクして暴れ出しそう…!
苦しい…苦しい…!頭の中に嫌な記憶が渦巻いて、パニックを起こしそうだ。
その時、すっと長い腕が伸びてきて、大きな手が優しく背中を撫でてくれた。
シム部長の胸に顔を押し付け、定期的に優しく背中を撫でられると、やっと深呼吸が出来た。
トクン…トクン…。シム部長の胸の音が聞こえる。
優しい風が吹いて、汗で気持ち悪かった空気が、和らいでいく。
カチカチに固まった体から力が抜けていく…こんなに力入ってたんだ…。
助けられた頼もしさに、そっとチャンミンの背中に手を回した。
チャンミンは、ギュッと抱きしめ、何も言わずしばらくそのままでいてくれた。
…シム部長…優しい…。すごく…安心する…。
こんなに安心できたの…初めてかも…。…アッパみたいだ…。
どっと疲れが押し寄せたジェジュンの代わりに、チャンミンが車を運転した。
「あの…すみません。クレームの件も…すみません」
「失敗したのはアイツ(先輩)だろ?分かっている。あの取引先も、もう行かなくていい。実害は出ていないし、クレームと八つ当たりの違いを分からないような所から契約は貰わなくていい。心配するな」
チャンミンは運転しながらも、ずっとジェジュンの手を離さないでいた。
車は、ジェジュンが住む寮に着いた。
「降りて」
「え?でも…まだ仕事が…」
「いいから。鏡で自分の顔を見て見なさい。真っ白でこっちが怖くなる」
シム部長に連れられて部屋に入る。
「もう今日は休みなさい。何か食べられそうか?」
「いえ…寝たいです」
「そうか、じゃあ着替えて寝なさい」
着替え…バスルームでするか…あぁ、シム部長とは一回寝た仲だから、隠す必要もないか…。
あまりにも怠く、チャンミンと寝たと勘違いしているジェジュンは、その場でするする服を脱いだ。
…えっ!キムジェジュン!何と大胆な!こっちが恥ずかしいじゃないか!
思わずジェジュンに背を向けたチャンミンだったが、どうしてもどーしても、もう一度ジェジュンの裸体を拝みたくなった。
シレっと後ろを振り返ると、ジェジュンは不思議そうな顔でチャンミンを見ていた。
「ハハ…何ですか?(どこもかしこも見た事あるでしょう?)」
「いや…(男同士とは言え)照れるよ」
へぇ~…なんか、シム部長、思ってたのと違う…意外と可愛いな~…
スウェットに着替えたジェジュンは、もそもそとベッドに潜り込んだ。
チャンミンはそっとジェジュンの額に手を当て、熱がないか確かめた。
「うん、熱は無いな。眠れそうか?」
「はい…すみませんでした。色々…世話かけてしまって…」
「気にするな。あとの事は任せて寝てなさい」
「自分が…情けないです…」
「そんな事を思うな。自分に優しくしてあげなさい…」
シム部長の優しい言葉が、傷だらけの心に染みわたるようだ。
そっと頭を撫でられて、ジェジュンは、急激に眠くなった。
…シム部長…キスもしないんだ…意外と…紳士だなぁ……スヤスヤ‥・
眠ってしまったジェジュンの髪をそっと撫でながら、チャンミンは思った。
キムジェジュン…君は心に何か抱えているのか…?心配だ…。
君を…守りたい…。
君を…守りたい…
※※※
ユノと同じように「ジェジュンを守りたい」と思ったチャンミン。
チャンミンと寝たという勘違いが、チャンミンを「紳士」に見せています。
頼れる大人のチャンミンに、ジェジュンの心が揺れています。
最近アクセスは十分あるのに「いいね」が伸びなくて…不評なのかな。
でも最後まで走り続けます^^頑張るん♡
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