昼食をシム部長ととったが、シム部長の食べっぷりに驚いた。

 

「すごく食べるんですね…」

「食事は元気の源です。私は食べる事が何より好きなのだ」

「ふふっ…そんな事大真面目に…。シム部長って結構面白い方なんですね」

「面白い事を言った覚えはない。私はいつも真剣だが?」

 

ふふっ。シム部長ずーっと怖かったけど、怖い人じゃないみたい、ちょっとホッとした。

今日の営業先は、今までわが社で誰も契約を取り付けたことがない、大きな病院だ。

ソウル一の大型総合病院の他に、全国12の病院を抱えるパクグループは、間違いなく韓国の医療を牽引するトップクラスの病院だ。

 

まだ新人で何も分からないからこその飛び込み営業だったが、心臓外科のパク先生のお眼鏡にかなった。

そこからコツコツ訪問を重ね、やっと資料を持ってこいと言われ、大きな契約の為シム部長と一緒に営業する事になったのだ。

足掛け2年かかった。

だがこの契約が成功すれば、パクグループに食い込むことが出来る為、社運を賭けた仕事だと言っていい。

 

「キムジェジュン、あまり食べてないな。緊張してるんですか?」

「はい…緊張してます。準備は万端にしたつもりですが、やっぱり緊張します」

「大丈夫です。自社の製品を信じましょう」

 

 

緊張の中、パクグループの総合病院を訪問する。

応接室には、声をかけてくれたパク医師、経理担当部長を初めてとした事務方、次いでグループの理事がずらりと並んでいる。

その前で、何度も練習を重ねたプレゼンをする。

 

資料を片手に説明すると、すぐさま質問が飛んでくる。

答えに詰まるとすぐにシム部長が、滑らかな説明を補足してくれる。

パク医師は機器を導入したい、だが経理・理事たちは、その必要性を何度も問う。

要は、何十億ウォンもかけて機器を導入した所で、採算が取れるのかという金の話だ。

 

「こちらの資料をご覧ください。この機器を導入した場合のシミュレーションを作ってみました。この図の通り、おおよそ6年ほどで採算は取れるかと。失礼ながら現状では、他病院にがん患者が流れています。いわゆる取りこぼし患者を囲い込む事を考えれば、もっと早い段階で…」

「しかし、それはどこも同じだろう。貴社の製品を使うメリットを教えてくれ」

「ご存じの通り、現在韓国では、がん検査を受ける事で保険料が安くなっています。その為がん検査を受ける人が急増しています。この機器を使い検査患者まで取り込むと、かなりの収益が見込めるかと」

「違う違う。簡単に言えば、どれだけ割り引けるのか。まさかこの値段のままで契約するつもりか?」

「…申し訳ありませんが割引は出来ません。相当の値段だと信じております」

「はぁ?どこの機器メーカーも割引しているんだぞ!こちらはどこの製品でもいいんだぞ!」

「申し訳あり…」

 

するとシム部長がすっくと立ちあがった。

 

「他社はどうか知りませんが、私共は自社の製品を信じております。どこの製品より性能が良く、新しい機能も備わっています。失礼ながら今、この機器を導入するメリットが理解できないとなれば、私共としてもお話する理由がありません」

「な、なにィ!」

 

パク医師が可笑しそうに笑いながら、ペンをくるりと回して言った。

 

「医者の立場から言わせてもらうと、この機器を導入することに全く疑問はありません。それどころか今導入しないと、他の病院に出し抜かれますよ。経営陣の無能さを晒すことになりますよ^^」

 

パク医師のダメ押しが効いたのだろうか、院長に確認するという良い返事を貰えた。

 

「わかりました。それではいつ契約書をお持ちすれば?」

 

えっ?シム部長、さすがにそれは急ぎ過ぎじゃ…せっかく快い返事を貰えそうなのに。

 

「性急だな。院長並びに理事長の承認を受けてからだ」

「なるほど、では明日こちらからご連絡しますね。契約の準備に取り掛かります」

「まだ決まったわけではないぞ」

「機器を導入するのにも、時間と整備が必要なのです。どうせなら一日も早くこちらの病院で、がん患者を発見していただきたいですから」

「分かった分かった」

 

会議室から理事や経理担当達が退室し、部屋にはパク医師だけが残った。

 

「いや~いい方向に向かってホッとしたよ。この機器導入は、うちの科の悲願だったからな。まったく無能な奴らばかりで困るぜ。ありがとう、キム君。いいプレゼンだったよ」

「いえ、僕は全然だめで…」

「そんな事無いさ。割引を求めるクズ以外には、ちゃんと伝わっていたよ」

「最後のダメ押しが効いたんじゃないかな。ユチョンのおかげだよ」

「ハハハ、お前の最後のごり押しも効いたんじゃないか?」

 

仲良く笑い合う二人を見て、ジェジュンは目を丸くした。

 

「え…?お二人はお知り合いだったんですか?」

「まぁ知り合い程度だが。ユチョンとは共通の知人がいてね」

「チャンミンとは腐れ縁と言っていいかもな。ハハハ」

 

 

和やかな空気のまま病院を出ると、やっとホッとした。

これまで何週間もかけて用意した資料の数々を思い出し、どっと疲れも出た。

 

「キムジェジュン?どうした寝不足か。目の下のクマがひどい」

「あぁ~…ここの所ずっと深夜まで資料作りしてましたから…」

「分かった。君は助手席へ。私が運転する」

「えっ!いけません!部長に運転させるなんて…!」

「君の運転が怖いから言っているだけだ。いいから助手席へ行きなさい」

 

はぁ~…何てことだ…上司に運転させるなんて、リーマン失格だぁ。

渋々助手席に座ると、シム部長は運転席の椅子をぐっと後ろに引いた。

 

「キムジェジュン、君は脚が短いんだな」

「違います!シム部長が長すぎるんです!」

「ハッハッハ。今日のプレゼンも資料もよくできていた。私が補足することも少なかった。よくやった」

「あ…ありがとうございます。資料もシム部長のご指導があったからだし、プレゼンも部長が隣にいて下さったから安心して出来たんです。一人なら…とても無理でした」

「契約までまだ気が抜けないが、最後までミスなくやり切ろう」

「はいっ!」

 

シム部長、運転うまいんだな…すごく滑らかで…乗り心地が…いい……。

 

運転を始めると、すぐに助手席から安らかな寝息が聞こえてきた。

窓から降り注ぐ太陽の光が、彼の白い肌を滑らかに照らしている。

 

信号待ちになると、眠った彼の顔を見つめる。

少し口を開けて、幸せそうな顔で眠っている。

あぁ…なんて可愛いんだ…!まさに天使!いつまでも見ていたい…♡

 

 

営業に移って、すぐにキムジェジュンの事が目についた。

真っ白い肌に、大きな瞳、人懐っこい顔で笑う彼は、まさに私のドストライク!

だが営業成績は低迷しており、新人の中でもワーストに入る低い成績だった。

 

それまで医療器メーカーの営業は、医者や病院関係者との接待が重要視されていた。

深夜だろうが呼ばれれば犬の様に駆けつけ、浴びるほど酒を飲まされ、日曜は接待ゴルフ、息子さんの塾の迎えまで、奴隷の様に尽くす接待が主流だった。

ちょうどコロナ禍になった事もあり、私はその接待の一切を禁じた。

 

すると不思議な事が起きた。

他の営業マンの成績が一気に落ちた、コロナ禍の影響と呼べないぐらいにガタ落ちした。

反対にキムジェジュンの成績が少しずつ上がって来た。

 

「接待が苦手だったのかね?」

 

面談をしたときにキムジェジュンにそう尋ねた。

 

「あ…ちょっと…面倒な事があり過ぎて。接待を禁じてもらえて助かったというのが本音です」

 

なるほど、言葉を濁したキムジェジュンだったが、彼の真意は読み取れた。

こんなに可愛い子が接待に来たら、面倒事が起こらないほうがおかしい、何故前の部長はそれが分からなかったのか。無能な奴め!

もしかしてわざとそれを利用したのか?尻ぐらい触られて文句を言うな、減るもんじゃなし一回ぐらい寝て来い、とでも言われたとか?(妄想)あぁっ!許せんっ!

 

 

ある日、キムジェジュンがパクグループの心臓外科医に気に入られたようで、資料を作っていた。

パクグループに直接営業に行くバカはいない。

なぜならこれぐらい大きな病院は、すでに多くの契約で縛られているからで、新規参入はまぁ望めないからだ。

何も知らない新人だからこそだろうが、意外と大胆な性格をしているのかもしれない。

とはいえ、どうせスケベな医者が契約をちらつかせて、若い営業をからかっているのだと思ったら。

 

名刺にパクユチョンと書かれていた。

彼とは共通の知人がおり、昔から知っている。

ドスケベのドヘンタイであるが、彼はノーマル、おそらく男相手に邪な感情はないだろう。

 

私は、最低限の助言をする程度で、全てをキムジェジュン一人に任せてみた。

知識不足は否めないが、真面目さと根気の良さでコツコツと前進するキムジェジュン。

彼にとっていい経験になるだろう、自信にもつながるだろう。

そう思った通り、まるで乾いたスポンジが水を吸収するように、彼はメキメキと成長した。

可愛い部下が、これほど成長する姿を見るのは、上司冥利に尽きる。あぁ可愛い♡

 

今回この契約が成功したら、私の手柄にはしない、そうすれば彼は一気に出世コースに乗るだろう。

この調子でビシビシ扱いて、もっと有能な営業マンに育てて見せる!

出来たら違う所も扱いてみたい…♡なんてな^^

 

 

「キムジェジュン、着いたぞ」

「ハッ!…す、すみましぇん…じゅる」

 

落ちそうなヨダレを拭いながら、彼はまだポヤポヤと寝ぼけている。

誰もいない事で興奮し、寝顔を隠し撮りするに飽き足らず、こっそり彼にキスしようとしてしまった…あぁっ上司失格!

だがいつか彼を私に夢中にさせて見せる!それまでは我慢だっ!

 

「あの部長…僕、寝てしまって…本当にすみませんっっ」

「疲れていたんだろう。今日は早く帰って休みなさい」

「でも、契約の詰めがまだ…」

「それは明日でいい。今日は休め、上司命令だ」

 

シム部長…優しいんだな…。カッコいい…。

純粋なジェジュンは、チャンミンの下心に気づくことなく、尊敬のまなざしで見つめていた…。

 

 

 

上司の横でスヤスヤ…

 

 

 

※※※

チャンミンはスーパー上司ですが、ジェジュンをエロい目で見ています♡

ユンジェミン、みんな頭いいし仕事出来るし有能ですが。

3人共エロい事ばっかり考えていますw