チョンユンホ高3の夏。
俺にとって今年の夏は、生まれて初の勉強漬けの毎日、受験地獄の夏になるだろう。
俺は、大学模試の結果を手に茫然としていた。
ひでェ…とてもじゃねーがオンマには見せられない、最悪だ、オーマイガー。
そもそも俺に大学受験など無縁のものだった。
子供の頃から優秀な成績を収めていたテコンドー。
高校でもそれは続き、1年で全国大会準優勝まで上り詰めた。
俺は本気でオリンピック選手になるつもりだったので、勉強より練習にいそしんだ。
2年はコロナ禍で、全国大会は行われなかったが、ソウルでの大会に大学からスカウトが見に来ていた。
このまま全国大会で優勝すれば、大学からスカウトが来て強化選手にも選ばれるだろう。
そうなれば学費もかからず大学に行けるし、オリンピックも目指せる。
今頃はオリンピック強化選手として、朝から晩まで練習の日々、そうなる筈だった。
ケガは大したことなかった、一週間もすれば治るケガ。
だが、なぜ今なんだ。
俺は準々決勝で敗れ、平凡な成績で俺の高校テコンドーは終わりを告げた。
当然、オリンピック強化選手も大学のスカウトも来なかった…。
「だから言ったでしょ!勉強はしとけって」
「うるせーな。オンマもオリンピック行けって言ってただろ」
「まぁ仕方ないわ。今からでも間に合うわよ」
オンマは韓国の受験戦争を舐めてるな、間に合うわけねーだろ。
「って事で家庭教師頼んだから。ちゃんと勉強するのよ」
「え?家庭教師?」
えぇーうぜェ。カテキョとか、マジでうぜぇ。
しかし何を勘違いしたのか、オンマがしたり顔で言った。
「ふっふっふ。残念でしたぁ。先生は男の先生よ。余計な事は考えずに勉強しなさい」
お!ラッキー!オンマの勘違いありがたい!
オンマは知らねーだろうが、俺はゲイだ。
生まれた時から生粋のゲイなのだ。女には爪の先も興味がない。
だけどおっさんの先生は嫌だ、若くてキレイな男がいい。
「昔近所に住んでたキムさんと、この前ばったり会ってね。ほら覚えてない?アンタも懐いていたでしょ?ジェジュン君。今はサラリーマンになってるって」
……え?えぇっ?
マジ?マジ?えーーっ!うそー!ちょーラッキーなんですけどー!オンマグッジョブなんですけど!
ジェジュン兄は俺より10歳年上の、超絶美形の爽やかイケメンだった。
物心ついた頃ジェジュン兄はもう中学生で、よく俺と遊んでくれた。
色白の肌に、濃紺の制服がよく似合っていたのを今でも覚えている。
「ジェー君、ジェー君♡」
「ん?どうした?抱っこか?」
細いのに意外と力持ちのジェジュン兄は、よく俺を抱っこしてほっぺにポッポしてくれた。
俺は子供であることを利用し、よくジェジュン兄に抱きつき、ポッポし、布団に潜り込んだ。
ヒョンは甘くていい匂いがして、その白い肌はオンマよりきめ細かくてつるつるで、とても温かい手をしていた。
眠いと言えば一緒に布団に入れてくれて、俺はヒョンの胸に顔をうずめ眠った。
最高の時間だった。
「へぇ?よく覚えてないなぁ」
「あんなに懐いてたのに?ジェジュン君が家に来たら喜んでずっとくっついてたじゃないの。ジェジュン君が帰ろうとしたらギャン泣きして、毎回困ってたのよ」
「ガキの頃だろ?そんなん覚えてる訳ねーよ」
覚えてる覚えてる♪覚えてるに決まってる、忘れるわけね―よ。
あぁ~ジェー君いい匂いだったなぁ~♪一緒に風呂も入ったよな~。びーちくが綺麗なピンクでビビったよなぁ~。今も綺麗なのかなぁ~♡ウヒョウヒョ。
「仕事終わりに、週二回来てくれるって言うから。ちゃんと勉強すんのよ!」
「へいへーい」
俺は部屋に帰り、さっそく勉強…より部屋を片付けた。
一週間後、ついにジェジュン兄が家にやって来た。
オンマには気づかれていないが、俺は朝から吐きそうなぐらいドキドキが止まらなかった。
チャイムと共にオンマが玄関に迎えに行くと、スラリとしたネクタイ姿のジェジュン兄が入って来た。
「こんばんは、ご無沙汰してます」
「あら~ジェジュン君大きくなって!まぁ相変わらずイケメンね!」
「よしてくださいよ、俺ももう28ですよ」
ひゃぁ~~!白い!キレイ‼めちゃめちゃ可愛い!どんな女よりキレイ!
中学の頃はお人形みたいに可愛いって印象だったけど、今は妖艶で色気たっぷり!
肌は相変わらず真っ白だし、大きな目も変わってないけど、色気ダダ洩れで、それなのに笑うと可愛いなんて!あ~~最高!会えて嬉しい!今まで何してたんだ俺‼匂い嗅ぎてぇ!
部屋の影からちらりと顔を覗かせると、すぐにジェジュン兄が俺に気づいた。
「え…?ユノ?…えぇー?大きくなったなぁ。俺より大きいなんて。ビックリだ」
「…ども」
「あぁ覚えてないか、まだ小さかったもんなぁ。カッコよくなったじゃん^^」
「…ども」
「もう!ちゃんとご挨拶しなさい!仕事で疲れてるのに来てくれたのよ!」
「おばさん、大丈夫ですから。じゃあ、さっそく勉強しようか」
「…うぃっす」
ジェジュン兄が俺の部屋に入って来た…俺の部屋に…あぁ今すぐ押し倒してェ。
カバンを置いて、少しネクタイを緩めるヒョンは、大人の色気があって最高にカッコよかった。
「んじゃぁ…今日は最初だから、どれぐらい出来るか見せて。簡単なテスト作ったからこれやって」
「うん」
後ろからテスト用紙を渡されて、ジェジュン兄のいい匂いがして、ドキドキした。
やっべー、反応しそう…スウェットとか履けねーな。背中に感じる体温、最高だぜ(今夜のおかず決定)
「分かんない所は飛ばしていいから。気軽にな」
「うん」
少し椅子を後ろに下げて、タブレットでメールチェックをするヒョンは出来るサラリーマンみたい。
俺は何とかテストを終えて、後ろを振り返った。
「お、出来た?どれどれ~?」
ヒョンはテストを見て無言だった。
だってそれはそうだろう、ほとんど白紙だったんだから。
「う~ん、そっかそっか、わかった」
「大学とか無理だろ?全然出来ねーもん」
「そんなことないよ、ただちょーっと頑張らなきゃだな」
ヒョンがクシャリと頭を撫でた。
ひゃっほ~い!もっと撫でて!いや、俺が撫でたい!その白い肌を、その柔らかそうな髪を。
撫でて舐めてツッコミたい。←サイテー
はっ!イカンイカン!そんなこと考えたら俺のジュニアが主張を始めちゃう(もう始めてるけど)
ここはオンマの顔でも思い浮かべて平常心を保たねば…。
ヒョンが帰っても、まだ俺は茫然としていた。
「じゃ次は木曜日な」
帰り際そっと俺の耳辺りを撫でてくれたジェジュンヒョン。
その手触りが気持ちよくて、ヒョンの優しい眼差しが綺麗で…あぁ…木曜日が待ちきれない。
「ご飯食べて行ってくれたらいいのに。遠慮したのね。次は絶対って…強引過ぎたかしら」
オンマナイス!俺もジェジュン兄と一緒にご飯食べたい。
本当の事言えば、ジェジュン兄を食べたい…♡
「しっかり勉強しなさいよ!」
「わかってるよ」
自室に戻ると、俺はすぐにズボンを脱いだ。
「……っ!っ!ジェジュン…ヒョンっ」
あぁ…一日でこんなにヌいたのは初めてかも…。
目の前にこんもり山になる使用済みティッシュを見つめ、やっと冷静になった。
机には宿題として置かれた問題集があった。
そうだ…頑張ればヒョンが褒めてくれるかも。
あの頃みたいに「イイ子イイ子」って頭を撫でてくれるかも。
「よく頑張ったね」って抱きしめてもらえるかも…。
よぉぉぉーし!俄然やる気が出てきた!頑張るぞ!
この日から俺は机に向かう日々が続き、オンマは手を叩いて喜んでいた。
※※※
緊張の新連載です。
思春期真っ盛り高校生ユノとサラリーマンジェジュン。
歳の差は10歳あります。
ラストとか全く考えておりませんが。
夏らしい(もう終わるけど)元気が出る小説にしたいです^^