今日は、事務所の幹部が集まり、ユノが言いだした「復活」について議論が行われていた。

幹部と言っても、昔なじみのスタッフが出世した事もあり、殆どの幹部が気心の知れた人間だった。

 

想定通りに、幹部たちが口々に復活の難しさを語り、諦めるよう言って来た。

ユノは先日と同じく腕を組んだまま黙って聞いていたが、ゴホンと咳払いをして手を上げた。

 

「今日は復活の話の前に、幹部の皆さんに聞きたい事がある」

 

なんだ?と顔を見合わせる幹部に、ユノは冷たい声で言った。

 

「今、日本で話題になっているセクハラの問題だ。あれは日本だけの話じゃない、韓国でも…この事務所でもあった事だよな」

 

一斉に会議室が静まり返る。

ユノは端から端まで幹部の顔を見ながら、話を続けた。

 

「俺も…恥ずかしながら最近知った。全てを知ってるわけじゃないが、絶対にあってはならない事だと思う。これからは、絶対そういう事が起こらないように律するべきだ」

 

「ユノ、それはお前が言う事じゃない。お前に言われなくても事務所として色々考えてる。セクハラに対する研修や、罰則の強化、練習生など被害に遭わないようケアするとか…色々…」

 

「この中で、タレントや練習生たちが被害に遭っていたにもかかわらず、何もしなかった、見ないふりをした、面白おかしく噂話にして楽しんだ、そう言う人、いるだろ?」

 

シン…と静まりかえった会議室、誰も口を開こうとしなかった、いや何も言えなかった。

まさにアンタッチャブル、この事務所にいる限り、決して触れてはならない領域だからだ。

 

「そういう事だと思う。何も変わろうとしていない。表面的な事を整えているだけで、意識は変わっていない。あの時も、立場の弱い若い奴らを助ける事もせず、上層部に逆らうのが恐くて、ただひたすら自分の保身に回った。だろ?」

 

「そんな事はない!」「そうだ!お前に何が分かる!」「すぐ売れた奴が偉そうに!それも全部事務所のおかげだ!何でも自分の力でやったと思うな!」

「あいつらだって、売れるために、分かってやってるんだよっ!」

 

ユノの涼やかなアーモンドアイが光った。

 

「そんな事、あるわけねぇだろっっ!!」

 

ユノの怒号が会議室に響き渡った。

 

「…俺は恥ずかしい。何も知らなかった自分も、いい大人が雁首揃えてそんな事しか言えない今のこの状況も、反省すらせず、未だに誰かのせいにするあなたたちにも」

 

何も言えなくなった幹部たちは、苦虫を噛み潰したような顔でユノを見ていた。

 

「あの時、見て見ぬふりをした覚えがあるなら、助けてやれなかったと後悔しているなら。考えて欲しい…今の自分に出来る事を。絶対的権力者を造り出してしまったのはいったい誰だ?俺達だよ、俺たち自身なんだよ」

 

「反論することを恐れ、逃げ続けた結果が今の事務所の状況じゃないか?そのせいで傷ついた人間がいるんだ。もし自分の弱さが誰かを傷つけたなら、今からでも遅くない。俺たちの復活は、その弱さを捨てる第一歩だと思う」

 

あの頃先生の悪行を知りつつ知らないふりをした幹部は、一人や二人ではない。

分かったような事を言い、言い訳をし、声をあげる事を恐れ、自分だけじゃないと逃げ続けた。

 

絶対的権力者に逆らえない空気は、確かにあった。

彼を盲信した俺も、その空気を作り出した張本人であり、責任の一端がある。

なぜ疑わなかったのか、本当に逆らえなかったのか、逃げただけではないのか、力を合わせれば何かが変わったかもしれないのに、それすらしなかった。

それでも後悔したはずだ、そんな自分を情けなく思い、今も心のどこかにその思いがあると信じたい。

ユノの言葉は、全員の心に響いた。

 

横からチャンミンが立ち上がって言った。

 

「僕からもお願いします。あの頃、力が無くて逆らえなかった為に誰かが傷ついた。勇気を出せば止められたかもしれない、そんな風に思っているなら。これはチャンスだと思います。これからの自分が恥ずかしくない人生を歩むための…最後のチャンスです」

 

「変わりましょう、僕たち。若い練習生が心置きなく夢を追いかけられる事務所に。多様化する世の中にいち早く対応しましょう。変われます、僕達なら。今こそ新しい風を吹かせるんです」

 

「もう一度、考えてください。お願いします」

 

ユノとチャンミンの二人は揃って頭を下げた。

 

 

 

「よぉ、ユチョナ」

「ユノ兄、忙しいんじゃないの?俺は嬉しいけど」

 

ユノはユチョンを呼び出し、知り合いの店でご飯を食べた。

 

「事務所は?どんな感じ?」

「まぁ…簡単じゃないさ」

「だろうね」

「でも…変わってきた。少しずつだけど。分かってくれる人も増えたよ」

「そっか」

 

ビールで乾杯しながら、なんだか気恥ずかしくて、しばらくは出された料理の事ばかり話していた。

ユチョンは、ユノが何か言いたい事があるのだろうと、ユノの言葉を待った。

 

「この前な…ジュンスから聞いた。ジェジュンの事…」

「あぁ、俺もジュンスから聞いた。ジェジュン兄には怒られたけど、許してもらったって…」

 

「ありがとな、ユチョナ」

「何が?」

「ジェジュンの事、ずっと助けてくれてたって、聞いた」

「たいしたことは何も出来なかったよ。ただ、傍にいただけだよ」

「それが一番支えられたと思う。お前ら、ソウルメイトだっていつも言ってたし」

 

ユチョンは少し体を背もたれに預け、遠い目をして言った。

 

「俺とジェジュン兄はさ…少し似てるところがあって。自分がスターになりたいと同時に、家族の為に稼ぎたかったんだよ。ホントは二人ともそんなに強くねーのに、必死で強がってさ…。どんなに泥にまみれても、絶対スターになって稼いで、力付けるって。そのパワーみたいなものは誰にも負けなかった」

 

「ヒョンが辛い目に遭った時、ヒョンは俺だけに告白して、助けを求めた。はらわたが煮えくり返ったよ。でも俺は優しい言葉掛けなかった。同情したり優しい言葉掛けたら、この人潰れるって思った。だから言ったんだ」

 

ユチョンの目には涙が滲んでいた。

 

「そんな事なんでもない!立てよ!ヒョンはそんなに弱い奴なの?って。…最悪だよね…ひどい言葉だ…」

 

恐らく初めて人に言ったであろうユチョンの告白は、聞いているだけで痛々しかった。

 

「俺はただ怖かったのかもしれない。ジェジュン兄が潰れたら…俺も立っていられないと思ったから。俺の為にいつも強くいて欲しかったんだ…全部、自分の為…」

 

俯いたユチョンの手の上に、ユノが手を重ねた。

 

「今回の事で、お互い知らない部分が見えた。スターだ、レジェンドだ、なんて言われても、俺達情けなくて、ちっぽけで、力なんて何も持ってないよな。あの頃と変わってない」

 

「うん…」

 

「だからこそ復活したいと思う。一夜だけかもしれない、だけど…今のそのまんまの俺達を見てもらいたいと思うんだ。俺達を知るファンの皆にもありのままを」

 

「そんで後輩たちにも見せてやりたい。人は俺達を成功者だというかもしれない。でも成功なんてどこにもない。何もない。ただ走り続けるだけなんだって。今、この瞬間を一生懸命走るだけだって…」

 

頷いたユチョンとユノは、再びグラスを合わせた。

カチンという音と共に、今度は懐かしい昔話に花を咲かせた…。

 

 

 

あれから、事務所の空気が変わった。

まず、ユノの話を聞いた若いスタッフが共鳴し、力を発揮しだした。

それに倣うように、幹部たちも動きを見せた。

 

「ユノさん、今それぞれの事務所の事務方が、そろって会議してます。テレビより、会場でファンを集めてやる方がいいと仰ってましたよね」

「あぁ、5人でも話してたんだが、収益の一部はチャリティーにすればいいと思う」

「チャリティーか…なるほど。その方が名目が立ちますね!掛け合ってきます!」

 

今から会場を押さえるのは難しいと思われていたが、「5人の復活なら喜んで」と会場側が動いてくれた。それからもいくつかのスポンサーが名乗りを上げてくれたり、「東方神起」を愛したたくさんの人達が「復活」の為に動いてくれた。

無理だ、無謀だと思われた復活、だが皆の小さな想いが幾重にも重なり、どんどんカタチになっていく。

 

「チャンミン……東方神起って…すげぇんだな」

 

「えぇ。僕はこのグループにいる事を誇りに思います。あの時、東方神起を守ろうと言ったユノについて来て、本当に良かったと思います…」

 

ユノとチャンミンは笑いながら、ガチンと拳を合わせた。

 

 

 

あれから4カ月後、ユノ達5人はそろいの衣装を着て集まっていた。

忙しい合間を縫ってリハーサルを重ね、今日歌う曲は全部、あの頃の曲だ。

新曲は用意できなかったが、それは次の楽しみでいいと思う。

 

年に何回もコンサートをやって来た5人も、さすがに緊張の色は隠せない。

だがそこは皆ベテランだ、それぞれのライブ前の準備を淡々とこなしていく。

 

ふと後ろを見ると、ジェジュンが立っていた。

くい、と服を引かれ、誰もいない階段の踊り場まで出てきた。

 

「ゆの…ありがとう。俺の夢を叶えてくれて。最高に嬉しいよ」

 

花が咲くようなジェジュンの幸せそうな顔、ジワリと滲んだジェジュンの嬉し涙をそっと拭う。

あぁ、俺はこのジェジュンの顔を見る為に走って来た、そう思った。

 

「せっかくのメイクが崩れるぞ。まだまだこれからだ。俺たちは決して終わらないんだから‥」

 

そっと抱きしめると、ジェジュンは頷きながらしっかりと抱きかえしてくれた。

 

階段下からチャンミンの無情な声が響く。

 

「ほらー、そろそろいきますよ!二人はどこだぁ!」

 

揃って階段を降りると、チャンミンとジュンスとユチョンが笑って待っていた。

 

「さぁー!行こうか!」「行こう!」

 

円陣を組み、眩いステージに向けて歩き出す。

 

5人で肩を組み、笑顔のまま、新しいステージに足を踏み出す。

 

長い長い時間、俺たちを待ち、歓喜に震えるファンの元へ。

 

一緒に行こう、俺たち。

 

ファンに向けての第一声。

待っていたファンは、俺たちのその声を聞いて一斉に涙した。

 

 

「みんな!…ただいま!」

 

 

歓喜に沸くファンの声は、いつまでも会場を揺るがす様に、止まる事が無かった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

日本の芸能界も問題多しですが、韓国も歪な力関係、謎の風潮が存在します。

その事で悩めるファンが後を絶たない事に胸が痛みます。

今回は5人の復活劇になぞらえて、そんな悪しき風習をぶっ壊すユノを書きたかった。

権力に負けて逃げた、それは芸能界だけの話ではありませんよね。

そして「成功者と人は言うが、そこには実は何もない、今を走るだけ」このセリフを、是非ユノに言わせたかった。

突然書いてしまったAgainシリーズでしたが、自分が思う事をいっぱい書けて良かったです^^

 

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