秋晴れの空の下、相変わらずの3ババは餅屋の前にたむろって、おしゃべりをしていた。

 

「おばさーん、お餅もらえる?」

 

そこにすっぴんのヒチョルがやって来た。

メイクをしていないヒチョルは、ただの綺麗なイケメンだった。

 

普段仲が悪いオカマとオバサンだが、このヒチョルは別。

ヒチョルが醸し出すオーラに、オバサン達も一目置いていた。

 

「この間、大変だったねぇ。リョウクを丸坊主にしたってホントかい?」

「ふふっ‥落とし前はつけないとね♡」

「相変わらず綺麗な顔してコワイねぇ」

 

そこへジョンファンが爪楊枝でシーハーしながらやって来た。

 

「よー、おばさんとオカマが仲イイ事で~へへっ」

 

からかうようにガニ股で歩いていくジョンファンの後姿を見ながら、おばさん達が忌々しそうに言った。

 

「ケッ!チンピラめ…。ジェジュンが拾ってくれたからこの街で暮らせてるくせに…」

「そういやヒチョルさん、あのチンピラがどうやってジェジュンの所で働くようになったか知ってるの?」

「そうよ~ジェジュンは何にも言わないからさぁ~」

 

ヒチョルは美しい顔で、ニヤッと笑って言った。

 

「あら、知りたい?」

 

キラン☆と3ババの目が光り、どーぞどーぞとヒチョルを餅屋の中へ案内し、冷たいお茶や、梨を出してもてなした。

 

「あら、美味しそうな梨ね。頂くわ♡」

 

「…それで?いったいジョンファンはどうやってジェジュンの店に?」

 

「何から話せばいいかしら…。もともとジョンファンはね、昔は全羅南道一帯を治めていた光栄会、またの名を東方派っていうヤクザの下っ端の下っ端のチンピラだったのよ」

 

当時ソウルで東方派の若頭を張っていたシウォンは、ヒチョルがソウル時代に勤めていたお店の常連だった。

ヒチョルは若い頃、アイドルを目指していたが、デビューする寸前に事務所が潰れ、デビューの夢は潰えた。

 

シウォンは、東方派でエンタメの興行などの仕事もしており、まだ練習生だったヒチョルの事も、その頃から知っていた。

 

「へぇ~ヒチョルさんアイドル目指してたんかい。でも分かるわ、事務所の事が無かったら、アンタ絶対スターになってたよ!」

 

「昔は芸能界とヤクザって濃い繋がりがあったからね、若頭のシウォンの事はアタシもよく知ってたの。結局デビューがなくなって、どうせなら自分に正直に生きようと思って、ドラァグクイーンになったの。その時のお店にもシウォンはよく来てくれたのよ」

 

そんな下っ端の下っ端のチンピラだったジョンファンは、この街の鼻つまみ者だった。

大した根性もないくせにイキがって、他人に迷惑ばかりかけるジョンファン。

おばさん達の忠告も聞かず、誰彼構わず怒鳴るジョンファンを、誰も相手にしなかった。

 

「ちょうどジェジュンがチルソクで働き始めた時、ジョンファンがいつものようにイキがってチルソクで暴れたのさ。それにジェジュンが猛烈に怒ってねぇ…」

 

ジェジュンは、ジョンファンの首根っこを掴み、怒鳴りつけた。

 

「今からお前の親分の所に行く!東方派って言ったよね。そこ、行くから!」

「バーカ!お前みたいなもんが会えるわけねーだろ?」

 

ジョンファンの事を、東方派の幹部が知っているはずはない。

ジョンファンはいつも、東方派の名を借りてイキがっていただけなのだから。

 

「お前らヤクザは親子の契りを交わすんだろ?子の不始末は親が付けるもんだ!」

 

本当に自分を東方派に連れて行きそうな勢いのジェジュンに、ジョンファンはビビった。

そして、ジェジュンは本当に東方派の幹部の元へ、ジョンファンを連れて行ったのだ。

 

「その時、たまたまシウォンがこの街にいてね、ジェジュンに聞かれたからあっさり言っちゃったのよ。駅前のホテルにいるわよーって」

 

「そ、それで?どうなったんだい?」

 

おばさん達は前のめりになってヒチョルの話を聞いていた。

 

ジェジュンは、ジョンファンの首根っこを掴んだままホテルに向かった。

ジョンファンは何度も逃げようとしたが、意外に力持ちのジェジュンから逃げられなかった。

最初は門残払いだったが、ヒチョルの名前を出したことで、あっさりシウォンの元に行くことが出来た。

 

スィートルームのソファに腰掛けたシウォンの元に、ジェジュンはズカズカと歩いて行った。

 

「あなたが若頭のシウォンさん?このジョンファンはあなたの所の子だって聞いたんだけど」

「あ?…誰だ?コイツ…。知らねぇなぁ」

 

「知らないの?じゃあこの子は僕がもらい受けて構わない?」

「勝手にすればいい。俺は知らん」

 

「じゃあこの子は今日から僕の所で働きます。それをあなたが見届け人になって下さい」

 

「なんで俺が…」

 

シウォンは呆れてしまったが、ふと考えた。

ヤクザの若頭の所にたった一人で乗り込み、チンピラを自分が雇うから見届け人になれと、おかしな事を言う。

ジョンファンって奴はビビっちまって、俺と目すら合わせることが出来ねぇっつーのに。

 

あぁ…なるほど…こいつはヤクザにもなれない半端モンだが、一応こいつにもプライドがある。

それを立ててやるために、わざわざここへ来て「上からの命令で堅気になった」というストーリーを作ってやったんだな…。

やせっぽちで女みたいな顔をしながら、堂々と胸を張り、真っ直ぐに自分を見る…なかなか大した度胸だ。

 

「…お前、名前は何という?」

「ジェジュンです」

 

シウォンは立ち上がり、ジョンファンの前髪を掴み上げると低い声で言った。

 

「分かった。今日からお前はこのジェジュンさんの所で働け。俺が見届け人だ。いいか?お前、このジェジュンさんに迷惑かけやがったら…その時は…」

 

シウォンの鋭い眼光に、ジョンファンは震えあがった。

 

「わ、分かりました…」

 

シウォンは、周りに立っていた子分たちに言った。

 

「お前らも!分かったな!こいつは今日からジェジュンさんのモンだ!」

「うっす!!」

 

シウォンはニヤリと笑って言った。

 

「ハハハ、あんたおもしれーな。どこの店なんだ?」

「チルソクという食堂です。シウォンさん達も一度食べに来てくださいね」

「あぁ…そうしよう」

 

 

ヒチョルから話を聞いた3ババは、ひょえーと声を上げて驚いた。

 

「ジェジュンったら、女の子みたいな顔してるって思ったけど…なかなかやるもんだねぇ」

「そーよ。シウォンも驚いてたわ。アレは、超一級の度胸の持ち主か、バカかどっちかだって」

「バカの方なんじゃないの~?アッハッハ!」

 

 

その日から、ジョンファンはチルソクで働き始めた。

街の鼻つまみ者だったジョンファンは、その日から変わった。

バカでお調子者なのは変わらないが、ジェジュンのいう事は聞くようになった。

 

真面目に働くようになって、街の人達もジョンファンの見方が変わった。

 

ミョンスンは、身を呈してジョンファンを堅気にしたジェジュンを見直した。

そして、この噂はたちまち、町中に広がった。

 

 

 

「え?執行猶予?」

「初犯だからな、示談も成立した」

 

ユノは、セジョンの話を聞いて険しい顔をした。

 

「…逆恨みとか…ありませんかね」

「…ないとは言えんな…」

 

この前、ジェジュンが捕まえた痴漢が、執行猶予で釈放された。

実家が金持ちらしく、弁護士を立て示談も成立し、素早い解決だった。

 

「お前、チルソクに通ってるよな。気を付けてやってくれないか」

「もちろんです。巻き込んだのは警察ですから、責任を取らないと!」

「一人で夜出歩かないよう言ってくれ」

 

その日から、ユノはジェジュンに張り付くようになった。

もっとも、ユノは仕事と言い訳して、買い物やジュンスの塾の送り迎えに同行し、店に入り浸ることが出来たので嬉しかった。

 

今日も張り切ってジェジュンに張り付くユノがいた。

 

 

 

 

ジェジュンは俺が護る…

 

 

 

 

※※※

懐かしい名前が出てきましたね。

そうです「Thank U~君の元へ」で出てきた東方派ですね^^

そしてあの時の痴漢野郎が早くも釈放へ。

むむ…危険な香りが…。