「いらっしゃ~~い!!」

 

相変わらずの野太い声と、濃いメイクのクイーンに迎えられ、「ショートバス」での二次会が始まった。

「ちょっと―!セジョンさん久しぶりじゃないのよー」

「また今度来るっていつぶり~?まぼろし~?」

「ウニョク~今日は帰さないわよ~ん♡」

 

賑やかな接客に、ゲラゲラ笑いながら刑事たちは楽しい二次会を始めた。

 

「皆さん…ようこそ、ショートバスへ…」

 

今日も美しいヒチョルがしなを作って挨拶した。

その美しさはそこら辺の女性よりずっと綺麗だ。

刑事たちからも、おぉ…と感嘆の声が漏れる。

 

「さぁ~今日はじゃんじゃん飲んじゃうわよ~!ヨイショヨイショヨイショ~!」

「今日の主役はユノでしょ?さぁ駆けつけ三杯よ~!」

「単価上げていくわよ~!単価!単価!」←商売上手

 

いつの間にかできていた爆弾酒を、ずらりと並べられて、にぎやかなコールの中ワンショット(一気)合戦が始まった。

 

「早く飲め~早く飲め~手が痛い~早く飲め~」

「洗浄、洗浄、腸内洗浄、ハイ、イっちゃって~イっちゃって~イーっちゃってぇ~♪」

「テクマクマヤコン、テクマクマヤコン、みんなまとめてホモになれ~♡」

 

少々雑なコールの中、どんどん酒が空いていく。

 

「きゃーやだぁーセジョンさん吐くならトイレで!」

「ウニョク!てめぇ若いくせに飲め~!」←男が出てる

「シンドンさん、重いってぇぇぇ!」←地獄絵図

 

「ぐへっ…ぐふっ…」

 

遠い目をしながら、ニヤニヤ思い出し笑いしているユノを見て、ヒチョルがいつもの赤いセンスをバタバタやりながら言った。

 

「ちょっとー、さっきから気持ちの悪い微笑をたたえてるこの男は何なの?」

「それがさ、聞いてくれよヒチョルママ。さっきチルソクに行ったんだけど…」

 

ウニョクはヒチョルの耳元で囁いた。

 

「はぁ?ユノがジェジュンとチューしたの?」

「ユノが酔って転びそうになってジェジュンとぶつかって、ぶちゅっとな」

「ユノはああいう可愛いタイプがお好みだったってわけ?意外だわね」

「まぁジェジュンはな、誰が見たって可愛いからな。俺だってじっと見てるとおかしな気分になるよ」

 

そこへシンドンが大きな体を割り込ませながら言った。

 

「結局男はみーんな、ああいう可愛い子に行くのよね!アタシなんていつも独りぼっちよ!ねぇ~うにょく~あたし寂しいわぁ~♡」

「ハハハ…シンドンさんハウス!」

 

 

盛り上がった飲み会だったが、ヒチョルたちのワンショット合戦に、刑事たちもシンドンやウニョクも酔いつぶれてしまった。

唯一潰れなかったのはユノとヒチョルだけで、二人はカウンターでチビチビやっていた。

 

「あら意外と強いのね。まだ飲む?」

「いや…」

 

さっきとは違い少し元気がないユノに、ヒチョルは水を差しだした。

 

「何よ…どうかしたの?」

「うん…」

「ジェジュンの事?」

 

ユノは水が入ったグラスをくるりと回した。

 

「…驚いたよ。まさか、子供がいたなんてなぁ~…」

「落ち込んでるって事は…アンタの天使はジェジュンだったのね?」

「まぁな~…はぁ…16の時の息子って…まじかよ」

「私たちだって驚いたのよ。当時16歳だったジェジュンが乳飲み子を抱っこしてこの街にやって来て。弟か?って聞いたら僕の子ですって…」

 

漁師町のソジャンは保守的な街だ。

華奢を通り越して細い棒きれのようなジェジュンが、乳飲み子だったジュンスを抱いて、ここソジャンへやってきた。

まるで子供が子供を抱いているような姿に、みんなが驚いた。

 

そして誰も知り合いのいないこの街で暮らしたいという。

栄養の足りていない白い顔をして子供を抱えたジェジュン、どう見ても「訳アリ」だ。

最初はみんな、面倒事が嫌で、誰も受け入れなかった。

 

「16で子持ちって…結婚できたのか?親は?」

「結婚はしたのか知らないけど…確か親はいないって。施設で育ったらしいわ」

「そのジュンスの母親は?」

「ジュンスを産んですぐ死んじゃったらしいわ。その人も天涯孤独だったみたいで。可哀想にね、若かっただろうに…」

 

ヒチョルが飲んでいたロックグラスの氷がカランと揺れた。

 

「ジェジュンの店のチルソクは、昔も食堂だったの。もっと汚くて、おばあさんが一人でやってる、しなびた食堂だったけどね」

 

食堂を営むウニばあさんが、唯一ジェジュンを受け入れ、ジェジュンは住み込みで働き始めた。

 

「そこで一生懸命働きながらジュンスを育ててるジェジュンを見て、みんな少しずつジェジュンを受け入れていったの。ジュンスも可愛かったしね。何よりジェジュンがいつも笑顔で、頑張ってたからね」

「そうか…」

 

ジュンスをベビーカーに乗せて、こんにちはと挨拶しながら商店街を歩く16歳のジェジュン。

ピカピカした笑顔を見せるジュンスに、おばさん達は話しかけていった。

ジェジュンは、ひょいとジュンスを抱き上げて、おばさんたちに挨拶をした。

 

会う人、会う人、みんな判で押したように同じことを言った。

 

「アンタ随分若いのに、子供が子供作っちゃって!ちゃんと育てられるの?」

ジェジュンは困ったように頭を掻いた。

 

「僕、施設で育ったから…。たくさんの赤ちゃんの面倒見てて。赤ちゃんの世話は得意なんです」

「施設?親はいないのかい?」

「はい。事故で亡くなって…。小さかったから両親の記憶もあまり…」

「この子の母親は?」

「ジュンスを産んですぐに亡くなってしまって…」

「そうかい…。苦労したんだね」

 

小さな部屋で住み込みで働き始め、少しずつ少しずつジェジュンは街に馴染んでいった。

あの優しさが伝わったからこその今があるのだ。

 

「だからね、ジェジュンはやめなさい。アンタが軽々しく遊ぶような子じゃないんだから」

「俺を犬野郎みたいに言うな。それに俺はノンケは嫌いだ。ジェジュンは傍で見ているだけで癒される、まさに俺の天使なんだ!」

「天使だか何だか知らないけど、あの子を傷つけないでね」

「俺の天使を傷つける奴は、俺の方が許さんっ!」

「あ~ハイハイ、天使ね、ハイハイ」

 

そうかぁ…親もなく施設育ち、彼女の方も天涯孤独だったなら、早く家族が欲しいと思っても不思議じゃないよな…。

でも彼女は子供を産んですぐ死んだのか…。

 

ニコニコとみんなに笑顔を振りまいていた可愛らしいジェジュンの顔が思い浮かんだ。

 

まるで苦労するために生まれてきたような人生だな…。

そんな素振りまるで見せずに…あの華奢な肩に随分重たいものを…。

はっ!いかん、いかん!

ヒチョルの言う通り、俺なんかが手を出していい人間じゃない、ジェジュンは誰より幸せにならなきゃいけない人なんだ…!

 

ユノはジェジュンの前では、見守るだけの優しい大人になろうと心に誓った←出来るのか?

 

 

 

店の片づけをしながら、ジェジュンはふと、唇に触れた。

 

…ビックリした…まさか、唇が当たっちゃうなんて…。

 

「…あ!ご、ごめんなさいっ!」

「いや、こちらこそ。ケガしなかったかい?」

 

にっこりと笑ったユノが下から起き上がると、ぐんと顔が近づいた。

涼し気な目元が柔らかく微笑んでいて、自分をそっと腕だけで支えあげ、よいしょと立ち上がらせた。

見た目の細さよりずっと逞しくて、背も高くて、無駄のない綺麗に筋肉がついたカッコいい人だった。

 

ふとジェジュンは自分の細っこい体を見て、がっくりした。

 

あぁ…あんな風にカッコいい大人になりたいなぁ。

この女の子みたいな顔立ちと華奢な体は、市場に行っても舐められっぱなしで困っちゃう。

商店街のおばさんたちにも、全然言い返せないし…←それはユノでも無理!

僕はジュンスのアッパなんだから、しっかりしなきゃ!

 

ガシャガシャと洗い物をしながら、ふと頭によぎった。

 

…あれ…?これって…キス…?

 

そう言えば…キスなんて…何年ぶりだろう……。

 

ジェジュンの頭に一人の人物が思い浮かんだ。

 

ジェジュンは慌ててブンブンブン!と頭を振った。

僕ったら…バカみたい…!いつまでも昔の事を…!

さっさと片付けて、ジュンスとアイスを食べようっと!

 

ジェジュンは高速で洗い物を終わらせ、ジュンスと一緒にテレビを見ながらアイスを食べた。

 

 

 

 

 

まるで苦労するために生まれてきたようだな…

 

 

 

 

※※※

今日もショートバスは賑やかです^^

ジェジュンの背景を知り、見守るだけの優しい大人になると誓うユノ。

ホントに出来るんか?ww

苦労だらけの人生を歩んできたジェジュンですが、あれ?キス?とやっと気づく天然です。