ジェジュンとユチョンの店がオープンした。

 

最初はBarだけの予定だったが、場所もいいし昼はカフェで、夜はBarの営業にした。

 

木を基調とした落ち着いた内装で、緑をふんだんに取り入れた安らげる店だった。

通りに面した大きな扉は開閉可能で、外はオープンテラスもあり、風通しの良い店だった。

メニューもカフェでバイトしたユチョンの意見を取り入れ、スイーツメニューも充実させた。

 

夜は、席ごとにキャンドルを灯し、柔らかい光を演出した。

夜のフードメニューはジェジュンが考案したが、若い女性をターゲットにしているにも関わらず、がっつりしたメニューを多く揃えた。

だが意外にもそれは人気で、女性はあまり食べないというのは、男の幻想なんだよとジェジュンが言った。

 

昼間のカフェはジェジュンが担当し、夜の部をユチョンが担当する。

ただ、オープン時はしばらく、ユチョンもカフェに顔を出し、ジェジュンもバーに顔を出した。

 

カフェにはオープンと同時に若い女の子がどっと押し寄せた。

ユチョンがバイトしていた時のお客もいたが、あのCMモデルをやっていたジェジュンが開いた店という口コミが広まり、連日満席状態の日々が続いた。

ジェジュンは慌ててバイトを増やし、それに応えた。

ユノは嬉しそうにくるくると働くジェジュンを見て、モデルをやっている時よりずっとイキイキしていると思った。

 

夜のバーにはヒチョルやジュンスも訪れ、シンドンさんも来てくれた。

あちらにはジェジュンがCMの時に出会ったホンさんや、YMカンパニーのホジュンやスンホンの姿があり。

勿論、ユノもヒョヌや会社関係の人を連れて店に訪れてくれたし、ホスト時代のお客さんも顔を出してくれた。

 

ユチョンは、我が兄ながらジェジュンの顔の広さ、交友関係の広さに驚いた。

 

さすが一人で弟二人を育ててきただけの事はあるし、誰もがジェジュンの優しさや懐の深さに親しみを持っていて、心から店のオープンを喜んでくれていた。

ユチョンは、ジェジュンのそういったところを素直に尊敬し、そして見習おうと思った。

 

 

店は昼の部も夜の部も順調に売り上げを伸ばしたのだが。

 

ここへきて、ユチョンの才能が花開いた。

 

ジェジュンの客も多かったが、ユチョンは商才を持っていたようで、どんどん客足は伸び、半年もすると店に入れず断らなければならないことも増えてきた。

 

ユチョンはすぐさま、バーだけの2号店を出すことを決め、今度は自分一人で場所決めから、内装から奔走しだした。

今回はユノを頼らず、ユチョンが自分で開拓したお客の協力を得て、サクサクと自分の理想を形にしていく。

 

「いいのか?ユチョン一人に任せて」

 

「いいんだ。もともとそのつもりだった。こっちの店はカフェだけにするつもりだよ。ユチョンはね、きっとこういう世界が向いてるって思ってたんだ。きっとすぐ3号店、4号店を出せるようになるよ」

 

ジェジュンのいう事は当たっていた。

 

ユチョンが自分のセンスで出した店は、特殊な照明を使った洗練されたスタイリッシュな店で、センスのいい曲を流し、オシャレに敏感な若者の心を掴んだ。

そこで写真を撮ると、きれいに映ると評判になり、女の子が押し寄せると、そんな女の子目当てに勝手に男も集まりだした。

 

連日ファッションや音楽のオシャレの最先端を好む人で店はいっぱいになり、雑誌などでも取り上げられた。

店の客の中には、ヒチョルをはじめとした有名モデルや、今流行のラッパーなどの芸能人の顔もあった。

 

あっという間に3号店を手掛けたユチョンは、今度はデートに使いたい人や大人が好む、席数を抑えた落ち着きゆったりとした店を出すのだと言う。

 

チャンミンも時々ジェジュンのカフェに足を運び、ジェジュンの料理を堪能し、勉強も頑張っているようだ。

 

 

 

そんな時、ユチョンのバーに懐かしい人が訪れた。

 

「やぁユチョン、すごいな。いつの間にこんなことになってんだ?」

「ヒョンジュン兄、ずいぶん久しぶりだね。どうしてたの?」

 

ヒョンジュンは、日本の大学に留学していた。

あの頃、弟達の為に身を粉にして頑張っているジェジュンに影響され、自分ももっと頑張らなければと思ったのがきっかけだった。

 

「しばらく韓国を離れていたら、ジェジュンはモデルになってCMてるし、ヒチョル兄もモデルやってるし、チャンミンは医大生で、今度はお前もジェジュンも店のオーナーだし…。俺は浦島太郎の気持ちがよくわかるぞ」

 

「ウラシマ…?なにそれ?」

「日本の昔話だよ。それより、俺がいない間に何があったのか、詳しく教えろ」

 

「教えてもいいけど…泣かないでよね」

「は?どういう意味だ?」

 

ユチョンは、ジェジュンがCMに出ることになったいきさつや、自分たちの事を、かいつまんで教えた。

 

そしてジェジュンが、ユノと付き合うようになったことも…。

 

「マ、ジか……」

「うん。やっぱりそうなったよ」

 

「そう…か…。やっぱり、そうなっちゃったかぁ…」

 

今日はとことん付き合うよ、とユチョンがウィスキーを自分のグラスへとついだ。

 

ヒョンジュンは目を伏せて笑い、目の前に置かれた自分のグラスとユチョンのグラスをがちんと合わせた。

しばらく物思いにふけりながら飲んでいたヒョンジュンが、ぽつりと呟いた。

 

「お前は…最初からあのユノって奴を応援してたよな…なんでだ?」

 

「…ジェジュン兄に幸せになって欲しかったから」

 

「ジェジュンは今…幸せか?」

 

「うん、とてもね。…だからヒョンジュン兄には悪いけど…そっとしてあげて欲しいって思ってる」

 

はぁ~っ…とヒョンジュンは大きなため息をついて、ユチョンを恨めしそうに見た。

告白すらさせてくれないってか…はぁ…。

 

「ユチョン…お前は、ひどい奴だなぁ~…」

 

「うん。俺はジェジュン兄の為なら、ひどい奴にも鬼にもなるよ」

 

「そっか…」

 

ヒョンジュンはユチョンが作ったウィスキーのロックをグイッと喉に流し込んだ。

喉が焼ける様に熱く、出るため息も熱かった。

 

「お前の言いたいことは分かった。でも一度だけ、あのユノって奴と話してもいいだろ?」

「あぁうん。ユノ兄には何でも言っちゃっていいよ」

 

「くくっ…お前が鬼になるのはジェジュンの為だけで、ユノって奴には容赦ねーな」

「そう。俺たちのジェジュン兄をかっさらってくんだから、それぐらいは、ね」

 

ユチョンはグラスを拭きながら、ウィンクをしていたずらっぽく笑った。

 

 

 

ヒョンジュンは緊張した面持ちで、駅前のカフェにいた。

ユチョンから連絡先を聞いて、ここでユノと会う約束をした。

まだ頭の中は整理で出来ていなかったが、言いたいことは言わせてもらおうと思っていた。

 

カラン…。

 

店のドアが開いて、スーツを着たユノが入ってきた。

あたりまえのようにスーツを着こなし、ブリーフケースと図面ケースを肩に、今日は黒縁の眼鏡をかけていた。

 

いかにも仕事中時間を割いてきました、忙しいビジネスマンだと言う雰囲気。

さりげなくつけている高級時計、磨かれた靴、洒落たネクタイ、全てが悔しいぐらい大人で、カッコいい。

 

「お待たせしてすみません。何か頼まれましたか?」

「えぇ、コーヒーを」

「すみません、僕にもコーヒーを」

 

そう言って席に着いたユノは、かけていた眼鏡をはずし、くっと眉間を摘まんだ。

 

「お忙しそうですね」

「まぁ…しかし忙しくない方が問題なので…」

 

ハハハと笑いながら、ユノは運ばれてきたコーヒーを一口飲んだ。

そしてヒョンジュンの顔を見て、言いたいことがあるんだろ?どうぞという顔をした。

 

「…正直、驚きました。俺が日本に留学している間に…あなたとジェジュンが付き合うことになったと聞いて」

「…日本に留学してたんですね。僕も短期ですが日本に留学しました。日本はとても美しい国です」

 

「え、えぇ。僕は一年間いましたけど、街はきれいだし、人も礼儀正しいし、皆が規律正しくて、気持ちのいい国だと思いました」

「将来は日本で仕事を…?」

まだ分かりませんが、それも考えています」

「一年ですか…羨ましい。僕は費用が用意できなくて半年もいられなかった…」

 

こほんとヒョンジュンが咳払いをした。

 

「あぁ、そうですね。どうぞ。私に言いたいことがあったのでしょう?」

 

ヒョンジュンは一息ついて話し始めた。

 

 

 

 

※※※

ヒョンジュン、何を言うつもりだ?

 

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