<最終話>

 

「ユノー、テーブル、どこに並べる?」

「それ重いから俺がやる。ジェジュンは、料理の準備して」

 

俺達はジェジュンが退院後、郊外に一軒家を買った。

アメリカ人が住んでいたという、大きな庭のある開放的なレンガ調の家で、一目見て気に入り即決で買った。

 

ジェジュンは、あれから治療を続け、腫瘍はかなり小さくなった。

だが完全に消えたわけではないので、様子を見ながらの社会復帰となった。

以前のような働き方はやめ、吟味したオファーだけを受けて、ゆっくりと仕事をしている。

 

俺は家の近くに小さな法律事務所をかまえた。

 

「ユノは何のために弁護士になったの?ずっと考えてたんだろ?本当にやりたい事をやりなよ」

 

ジェジュンはそう言って、俺の本当にやりたかった仕事 「困っている人の為に働く」 という事を理解してくれた。

やりがいはあるだろうが、収入は多く望めない、そう思い悩んでいると、ジェジュンが言った。

 

「お金は俺が稼ぐから。ユノは好きな仕事をしてほしい」

 

サラリとそう言ってのける俺の奥さんは、誰よりカッコイイ。

 

今日は、結婚して2年目の記念日。

 

お世話になったみんなを呼んで、食事を振る舞い一緒に記念日を祝いたいとジェジュンが言いだした。

ジェジュンが望むことは何でも叶えてやりたい。

朝から、庭で行うバーベキューの準備に追われて大忙しだった。

 

続々と招待客が集まり、ささやかなパーティーが行われた。

リビングの大きな窓を開け放ち、庭のウッドデッキと一続きにし、どちらでも寛げるようにした。

 

ヒチョル兄やヒョンジュンさん、チャンミンやシンドンさんも忙しい中来てくれて、医者になって忙しいドンへ兄も顔を出してくれた

 

そして…俺の両親も参加してくれた…。

 

「ジェジュン、お前ら結婚したんだってな。何ですぐ言わないんだ?水臭い奴だな」

「ヒチョリ、来てくれてありがとう。ごめんね言うの遅くなって。入院してたりしてたから。それに結婚って言っても届けだすわけじゃないしね」

「それでも結婚は結婚だろ?よかったな。おめでとう」

「ありがとう。ヒチョルも結婚したんだよね。子供生まれたって?」

「あぁ」

 

そっけない返事。

確かに結婚は義務だって言っていた。

愛していないのかと問う事は愚問だと思い、ジェジュンは黙っていた。

 

「ジェジュンおめでとう」

「ありがとう。ヒョンジュン。ヒョンジュンも結婚したんだって?みんな言ってくれないんだからなぁ。人の事言えないけど…」

「ハハハ、俺たちの結婚は企業合併みたいなところあるから…」

 

「ヒチョリも、ヒョンジュンも…今、幸せ?」

 

ジェジュンの問いかけに、ヒチョルもヒョンジュンも、微笑んでいたが答えなかった。

ジェジュンは、少し寂し気がしたが、それ以上は言わなかった。

 

「ユノ!久しぶりだな」

「ドンへ兄!お久しぶりです。今日はわざわざ来てもらってすみません」

「お前らが結婚するとはなぁ」

持っていたシャンパンで乾杯したドンへは、遠い目をして言った。

 

「…以前、ヒョンが俺に言った事、覚えてるでしょうか。お前はジェジュンの最後の砦になれってやつ」

「あぁ…そんな事言ったなぁ」

 

「えぇ。ジェジュンの頭に腫瘍が見つかって、ジェジュンが死ぬかもしれないと思った時、やっとその言葉の意味を理解したんです。あの頃の俺は、本当に子供で…ヒョン達がいてくれなかったら、どうなっていたか…」

 

「俺達だって無力なガキだったよ。それでも必死だった。なんとかジェジュンを救いたかった。俺はあの時の事を今でも思い出す。患者の家族は、あの時の俺達だ。必死なんだ。それを忘れちゃいけないってな」
 

向こうでヒチョルがいたずらっぽく笑いながら手招きをしている。

あぁ、これはたっぷりとからかわれるんだろう。

 

「あっちで鬼が嬉しそうな顔で呼んでます」

「あぁ。今日は多分、しつこいぞ」

 

ユノとドンへは苦笑しながらヒチョルの方へ向かった。

 

 

「やーチングやー」

「ユチョン、いらっしゃい」

2人が抱き合ってあいさつした後、ユチョンの後ろに若い男が見えた。

 

「ん?こちらは?」

「あぁ、彼はキムジュンスだよ、ぜひジェジュンに挨拶したいって」

 

まだ学生ぐらいの年の彼は、緊張した面持ちでジェジュンの前に立ち、腰を深く折って挨拶をした。

 

「あっあの!ジェジュン先生!ぼ、僕、先生に憧れてるんです!今日はお会いできて光栄です!」

 

ジェジュンは目を丸くして驚いた。

 

「ジェジュン先生…?」

「ジェジュン先生に憧れてる人は大勢います!先生が作った曲も全部好きです!いつも聞いてます!」

「あ、ありがとう…」

 

ジュンスの気迫に押されながらも、ジュンスが持つ明るい雰囲気と特徴的な声が気になっていた。

 

ユチョンは、プロデューサー業を休業してからしばらくロスに住んでいた。

そこでゆっくり自分の行く道を考え、帰国した時にジュンスに出会ったらしい。

 

「初めて会ったのは、小さなバーだったんだ。バーテンとして働いてるジュンスに、お客がリクエストして、一曲歌ったんだ。その時、体にビリビリって衝撃が来てね。ジェジュンに会った時以来だよ、こんな感覚」

 

「へぇ…バーで歌ってたの」

ジェジュンはいつかの自分を思いだし、ふふっと笑った。

 

「ジェジュン、ピアノ弾いてよ。ジュンスが歌うから」

 

余興にと、ジェジュンがリビングのピアノの前に座る。

ジュンスに何を歌うかと聞くと、ジェジュンが作った歌を歌いたいと言う。

 

ジェジュンのピアノの前奏が流れ、わいわいと喋っていたみんなが注目する。

ジュンスが歌いだした。

 

それは素晴らしい歌声だった。

ハスキーで伸びやかでたっぷりとした声量、耳に響く心地よい声、確かな音程、感情の込め方、ビブラートの使い方もいい。

 

ジェジュンは、ピアノを弾きながら、知らず知らず微笑み、自然にハモっていた。

二人のハーモニーは美しく、とても初めて一緒に歌ったとは思えないほど、声が馴染んでいた。

 

演奏が終わり、ジュンスは涙目で「ジェジュン先生と一緒に歌えるなんて…幸せでした」と言った。

 

ユチョンがピアノの前に凭れる様に立って、ジェジュンの顔を見ていた。

 

「ふふっ…名プロデューサー、俺に何をさせようとしてるの?」

「分かってるだろ?ジェジュン」

「あぁ…。ユチョンの気持ちが、よく分かったよ」

 

ジュンスの曲を書きたい、俺が書いた曲をあの子が歌ったらどんなふうになるだろう?

ワクワクする、金の卵を手にしたような感覚、心が躍る。

 

こんな気持ちになれるなんて…ジェジュンは幸せだと思った。

 

 

ユチョンが連れてきた新人の伴奏をジェジュンが買ってでた。

相変わらず、ピアノを弾いているジェジュンは綺麗で、うっすら微笑みながらとても楽しそうだ。

 

今まで自分たちを支えてくれた人たちが、みんな楽しそうに笑っている。

 

俺の両親とジェジュンが、にこやかに話している。

 

こんな日が来るなんてな…ジェジュン……俺達、幸せだよな。

 

ユノは、今まであった出来事を思い出し、こみ上げた涙をぐっとこらえた。

 

 

 

明るい若草色の芝生の上、白いシャツを着た君が立っている。

 

柔らかい風が吹く中、昼下がりの陽を浴びて、君が立っている。

 

 

「ジェジュン」

 

名前を呼べば、くるりと振り向いて。

 

優しい風に、ふわりと髪がなびく。

 

 

俺の顔を見ればほら。

 

 

君は、花が咲くように笑ってくれるんだ……。

 

 

 

 

 

 

※※※

うわぁぁ~終わったぁ~(>_<)

はぁ~頑張りました!無事完走できました!ありがとうございます!

最後の最後にジュンス登場。彼は希望の象徴の様です。

 

最後まで読んだよと、一言頂ければ、本当に嬉しいです。

それだけが書くモチベーションになります。よろしくお願いします^^

 

明日は、あとがき、次回作のお知らせなどをお送りします。