※当ブログに掲載されている小説の登場人物は、実際の人物、団体等と一切関係ございません。
完全に作者の妄想小説であり、そういったものが苦手な方は読むことをお控えください。
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その日の夜は、ジェジュンを抱きしめて眠った。
愛を囁き、ジェジュンの体に触れたが、ユノはどうしても最後の一線を越えられなかった。
ジェジュンの頭にある腫瘍の事を考えると、とても自分の欲をぶつける気にはなれなかったのだ。
ジェジュンは何も言わず、何度もユノの体を手でなぞり、すべてを覚えておくんだと、ユノの体中に唇を落とした。
ジェジュンを腕の中に閉じ込めて、ジェジュンの匂いに酔いしれながらこれからの事を考える。
怖いのは、俺よりのジェジュンの方だ…。
それでもこうやって自分の腕の中で、安心したように眠ってくれるというなら。
俺はそれを守ろう。
『チョンユノ、約束できるか?お前は何があってもジェジュンの味方でいろ。ジェジュンのあるがままを受け入れ、決して諦めるな。例えジェジュンが病院に行くことになっても、お前に会わないと言ってもだ』
いつだったか、ドンヘ兄が自分に言った言葉だ。
ドンヘ兄は、俺に『お前はジェジュンの最後の砦になれ』と言った。
その言葉の本当の意味を、今ようやくユノは理解した気がした。
次の日、朝食を食べ、宿を出る準備をする。
帰る前、女将が礼を言い、外まで送ってくれた。
「今回のご旅行はどうでしたか?楽しんでいただけましたか?」
「えぇ、素晴らしい景色でした。お料理もおいしくて、お風呂も最高で…忘れられない時間を過ごすことが出来ました」
ジェジュンはニッコリと笑って答えた。
それはよかったと、従業員も総出で見送ってくれた。
「またいつか、お越しくださいませ。私どもも、ここの景色も、変わらずお待ちしています
…ここの景色をもう見ることはできないんだろうな…。
女将の言葉に、ジェジュンはきゅっと唇を結び、そして笑顔で答えた。
「えぇ、いつか、また」
その笑顔は、少し哀しそうな笑顔に見えた。
車を走らせていると、ふとジェジュンに元気がないように思えた。
「ジェジュン、どうした?具合悪いのか?」
「…ううん」
「でも、お前…どうしたんだ?具合悪いなら隠さず言えよ」
「そうじゃなくて…、しょや…」
「は?」
「だから、初夜!結婚式した夜は、初夜でしょ?それなのに、何もなかった…」
プッ!
ユノは思わず噴き出した。
あんなに何度も身体を重ねた二人なのに、初夜に何もなかったと拗ねている。
ってか、今日は初夜だと思いながらベッドに上がったのかと思うと、可愛らしくて泣けてくる。
「な、なんだよー。笑うなよっ」
「悪い、悪い」
ユノは止まらない笑いを押さえながら、ジェジュンの頭を撫でた。
「俺は嬉しかったよ。何もしなかったけど、お前の事腕に抱きしめて眠れたことが。お前の匂い嗅ぎながら、お前のぬくもりを感じながら。こうやって生きて行こう、お前を抱きしめて生きて行こうって思った」
「ゆのぉ~~~」
涙目になったジェジュンが、ユノの手をぎゅっと握りしめた。
ユノは、よしよしとジェジュンの頭を撫でた。
短い旅が、終わろうとしている。
これから自分たちは、現実に向かい合わなければならない。
とても厳しく、辛い現実。
だが、きっと乗り越える、乗り越えられる。
そう思えるのは、こうやって二人の時間を作れたからかもしれない。
「ありがとな…ジェジュン」
「ん?」
「旅行、行こうって言ってくれて。最高の時間だった」
「うん。楽しかった」
一度も曇り空にさえならなかった快晴続きの旅行は、二人に元気を与え、これから迎える現実への力になった気がした。
病院に戻り、検査を受け、また病室に戻ってきた。
「はぁ~病室に戻ってただいまって…なんか侘しいなぁ。俺達一応新婚なのに…」
「どこだって同じだよ。俺はジェジュンがいれば、そこが家だ」
「ユノったら~いいこと言うねぇ」
旅行で撮った写真たちを眺めながら、楽しかったねと笑い合っていた。
コンコンと、扉がノックされ、主治医が入ってきた。
「ジェジュンさん、旅行はどうでしたか?」
「はい、とても楽しかったです。とても…」
ジェジュンはユノを見上げながら、とても幸せそうに微笑んだ。
「それは良かった」
主治医はニッコリ笑い、楽しい時間に申し訳ないのですがと、前置きした。
「ジェジュンさん…先ほどの検査結果の事でお話が…」
手にしていた、書類とCT画像を見せた。
検査結果…それはジェジュンとユノにとって、死刑宣告を受けるかのような気分だった。
ジェジュンとユノに緊張が走る。
でも、今の自分達なら大丈夫。
ジェジュンは、きゅっとユノの手を握った。
ユノはその倍の力で握り返した。
担当医は、CTを窓の光に透けさせながら、ジェジュンの腫瘍がある部分を指差した。
「これによるとね…ジェジュンさんの腫瘍が、小さくなっていました」
「え…?」
「それは…どういう事…?」
思いがけない主治医の言葉に、二人とも声が上ずった。
「放射線治療の効果が出ていたんです。思ったより時間がかかったようです」
「え…それじゃあ…」
「このままいけば、手術はしなくてもいいと思います」
「じゃあ、視力は失わずに済むんですか?ジェジュンは元気になるという事ですか?」
「えぇ、そうです」
ユノの問いに、担当医は大きく頷いた。
「薬物治療をしながら経過を見ましょう。おそらくこのままいけば、思ったより早く退院できます。社会復帰も出来ますよ」
ジェジュンが口元に手を当てたまま、震えている。
「それじゃあ…俺は、ずっとユノを見ていられる?ピアノを諦めなくてもいいの…?また、仕事ができるの…?」
「えぇ。きっと出来ます」
「ユノォ!」
ジェジュンが、体ごとぶつかるように抱きついてきた。
ユノはそれをしっかりと受け止めた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!先生!」
「僕に礼を言う必要はありません。ジェジュンさんが辛い治療に耐えたからです。よく、頑張りましたね…」
ユノのシャツを握りしめ、ジェジュンがこらえきれない涙を零した。
「良かったな!良かったジェジュン!」
主治医は詳しい検査結果と治療計画を知らせてから、病室を出た。
良かったな、ジェジュンと何度も抱きしめて喜んでくれるユノに、ジェジュンはどれだけユノが心配し、心を痛めてくれていたか実感した。
※※※
良かった!良かった!
ワタシは悪魔ではありませんでした(*^_^*)
でも死ぬかもしれない、失明するかもしれないと思った時、二人の愛がより一層深まりました。
もう何があっても大丈夫。共に生きて行ってくれるでしょう。
次回、最終回です。