※当ブログに掲載されている小説の登場人物は、実際の人物、団体等と一切関係ございません。

 完全に作者の妄想小説であり、そういったものが苦手な方は読むことをお控えください。

 

◆◆◆

 

その日の夜は、ジェジュンを抱きしめて眠った。

 

愛を囁き、ジェジュンの体に触れたが、ユノはどうしても最後の一線を越えられなかった。

ジェジュンの頭にある腫瘍の事を考えると、とても自分の欲をぶつける気にはなれなかったのだ。

 

ジェジュンは何も言わず、何度もユノの体を手でなぞり、すべてを覚えておくんだと、ユノの体中に唇を落とした。

 

ジェジュンを腕の中に閉じ込めて、ジェジュンの匂いに酔いしれながらこれからの事を考える。

 

怖いのは、俺よりのジェジュンの方だ…。

 

それでもこうやって自分の腕の中で、安心したように眠ってくれるというなら。

俺はそれを守ろう。

 

チョンユノ、約束できるか?お前は何があってもジェジュンの味方でいろ。ジェジュンのあるがままを受け入れ、決して諦めるな。例えジェジュンが病院に行くことになっても、お前に会わないと言ってもだ

 

いつだったか、ドンヘ兄が自分に言った言葉だ。

ドンヘ兄は、俺に『お前はジェジュンの最後の砦になれ』と言った。

 

その言葉の本当の意味を、今ようやくユノは理解した気がした。

 

 

次の日、朝食を食べ、宿を出る準備をする。

帰る前、女将が礼を言い、外まで送ってくれた。

 

「今回のご旅行はどうでしたか?楽しんでいただけましたか?」

 

「えぇ、素晴らしい景色でした。お料理もおいしくて、お風呂も最高で…忘れられない時間を過ごすことが出来ました」

ジェジュンはニッコリと笑って答えた。

 

それはよかったと、従業員も総出で見送ってくれた。

 

「またいつか、お越しくださいませ。私どもも、ここの景色も、変わらずお待ちしています

 

…ここの景色をもう見ることはできないんだろうな…。

 

女将の言葉に、ジェジュンはきゅっと唇を結び、そして笑顔で答えた。

 

「えぇ、いつか、また」

 

その笑顔は、少し哀しそうな笑顔に見えた。

 

 

車を走らせていると、ふとジェジュンに元気がないように思えた。

 

「ジェジュン、どうした?具合悪いのか?」

「…ううん」

 

「でも、お前…どうしたんだ?具合悪いなら隠さず言えよ」

「そうじゃなくて…、しょや…」

 

「は?」

「だから、初夜!結婚式した夜は、初夜でしょ?それなのに、何もなかった…」

 

プッ!

ユノは思わず噴き出した。

 

あんなに何度も身体を重ねた二人なのに、初夜に何もなかったと拗ねている。

ってか、今日は初夜だと思いながらベッドに上がったのかと思うと、可愛らしくて泣けてくる。

 

「な、なんだよー。笑うなよっ」

「悪い、悪い」

 

ユノは止まらない笑いを押さえながら、ジェジュンの頭を撫でた。

 

「俺は嬉しかったよ。何もしなかったけど、お前の事腕に抱きしめて眠れたことが。お前の匂い嗅ぎながら、お前のぬくもりを感じながら。こうやって生きて行こう、お前を抱きしめて生きて行こうって思った」

 

「ゆのぉ~~~」

 

涙目になったジェジュンが、ユノの手をぎゅっと握りしめた。

ユノは、よしよしとジェジュンの頭を撫でた。

 

短い旅が、終わろうとしている。

これから自分たちは、現実に向かい合わなければならない。

 

とても厳しく、辛い現実。

だが、きっと乗り越える、乗り越えられる。

そう思えるのは、こうやって二人の時間を作れたからかもしれない。

 

「ありがとな…ジェジュン」

「ん?」

「旅行、行こうって言ってくれて。最高の時間だった」

「うん。楽しかった」

 

一度も曇り空にさえならなかった快晴続きの旅行は、二人に元気を与え、これから迎える現実への力になった気がした。

 

 

 

病院に戻り、検査を受け、また病室に戻ってきた。

 

「はぁ~病室に戻ってただいまって…なんか侘しいなぁ。俺達一応新婚なのに…」

「どこだって同じだよ。俺はジェジュンがいれば、そこが家だ」

「ユノったら~いいこと言うねぇ」

 

旅行で撮った写真たちを眺めながら、楽しかったねと笑い合っていた。

 

コンコンと、扉がノックされ、主治医が入ってきた。

 

「ジェジュンさん、旅行はどうでしたか?」

「はい、とても楽しかったです。とても…」

 

ジェジュンはユノを見上げながら、とても幸せそうに微笑んだ。

 

「それは良かった」

 

主治医はニッコリ笑い、楽しい時間に申し訳ないのですがと、前置きした。

 

「ジェジュンさん…先ほどの検査結果の事でお話が…」

 

手にしていた、書類とCT画像を見せた。

 

検査結果…それはジェジュンとユノにとって、死刑宣告を受けるかのような気分だった。

ジェジュンとユノに緊張が走る。

 

でも、今の自分達なら大丈夫。

 

ジェジュンは、きゅっとユノの手を握った。

ユノはその倍の力で握り返した。

 

担当医は、CTを窓の光に透けさせながら、ジェジュンの腫瘍がある部分を指差した。

 

 

「これによるとね…ジェジュンさんの腫瘍が、小さくなっていました」

 

 

「え…?」

「それは…どういう事…?」

 

思いがけない主治医の言葉に、二人とも声が上ずった。

 

「放射線治療の効果が出ていたんです。思ったより時間がかかったようです」

 

「え…それじゃあ…」

 

「このままいけば、手術はしなくてもいいと思います」

 

「じゃあ、視力は失わずに済むんですか?ジェジュンは元気になるという事ですか?」

 

「えぇ、そうです」

ユノの問いに、担当医は大きく頷いた。

 

「薬物治療をしながら経過を見ましょう。おそらくこのままいけば、思ったより早く退院できます。社会復帰も出来ますよ」

 

ジェジュンが口元に手を当てたまま、震えている。

 

「それじゃあ…俺は、ずっとユノを見ていられる?ピアノを諦めなくてもいいの…?また、仕事ができるの…?」

 

「えぇ。きっと出来ます」

 

「ユノォ!」

 

ジェジュンが、体ごとぶつかるように抱きついてきた。

ユノはそれをしっかりと受け止めた。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!先生!」

 

「僕に礼を言う必要はありません。ジェジュンさんが辛い治療に耐えたからです。よく、頑張りましたね…」

 

ユノのシャツを握りしめ、ジェジュンがこらえきれない涙を零した。

 

「良かったな!良かったジェジュン!」

 

主治医は詳しい検査結果と治療計画を知らせてから、病室を出た。

 

 

良かったな、ジェジュンと何度も抱きしめて喜んでくれるユノに、ジェジュンはどれだけユノが心配し、心を痛めてくれていたか実感した。

 

 

 

※※※

良かった!良かった!

ワタシは悪魔ではありませんでした(*^_^*)

でも死ぬかもしれない、失明するかもしれないと思った時、二人の愛がより一層深まりました。

もう何があっても大丈夫。共に生きて行ってくれるでしょう。

 

次回、最終回です。