※当ブログに掲載されている小説の登場人物は、実際の人物、団体等と一切関係ございません。

 完全に作者の妄想小説であり、そういったものが苦手な方は読むことをお控えください

 

◆◆◆

 

俺は学校が終わるのを待って、部活を休んで足早に学校を出た。

携帯を掴むと、懐かしい声の主へ電話をかけた。

 

「久しぶりですねユノ兄。どうしたんですか?珍しい。雨でも降るんじゃないですか?」

いつもは顔をしかめる毒舌も、今日はなんだか優しく聞こえる。

 

「チャンミ~ン!」

ハグをしようとしてさらりとかわされる。

変わってない。

でもそんな変わっていないチャンミンが嬉しくてたまらない。

 

「なんですか?高校に入って変になりましたか?おっ?」

歯に衣着せずズバズバ言われて、それでも俺は嬉しかった。

 

しばらく見ない間にまた背が伸びた。

もうすぐ追い抜かされそうに背が高く、端正な顔立ち、見た目がまるで中学生に見えない俺の幼馴染。

 

「久しぶりだし飯でも食いに行くか?

「冗談言わないでください。僕は受験生ですよ」

「チャンミンならどこの高校だって余裕だろ?」

「ええ、それは否定しませんけど、それも毎日の成果があってこそです。僕は塾に行くので、ご飯はお一人でどうぞ」

 

「何だよー。じゃあ何しに来たんだよー」

「アンタが呼びだしたからでしょーが。気づいてないんですか?死にそうな声出してましたよ」

「え?そんなに?」

「ええ。何かあったんですか?」

「な、何って…う…ん…」

 

ちらりと俺を伺い見る、バンビのようなくりくりとした大きな目。

そこは子供の頃から変わってない。

 

「何ですか?」

「そう言われると、何て言っていいのか…」

「僕に許された時間はあと5分です。言いたくないならこれで」

「あぁぁぁ!ちょっと待って!」

「言うのか?言わないのか?」

「言います…」

 

俺は時間がないチャンミンに、あらかたの流れをざっと話した。

チャンミンは、相槌を打つではなく、うんうんと頷きながら、俺の話を聞き終えた。

 

「なるほど、で?」

「で?って?」

「ユノ兄はどうしたいんですか?」

「どうしたいって、それは…」

 

チャンミンは盛大に溜息をついてから、子供に言い聞かせるように言った。

 

「いいですか?その人を理事長の息子に取られて悔しい、何とかしたいなら、まず彼と話すべきです。自分の気持ちを伝えるんです。もし、そうじゃないなら、そのままでいいじゃないですか?今まで通り友人って事で」

 

「う~でもよォ~…」

 

「その理事長の息子って、金持ちなのを良いことに、人の気持ちを動かそうとするような悪い奴ですか?」

「いや…そんな事はないと思う」

 

「金を持っている、父親が権力者だ、それ以外に彼にいいところがないような人ですか?」

「いや…全国トップクラスの成績で、人望も厚いし、偉ぶっているわけでもないし、誰かの為に自己犠牲も厭わない人だよ」

 

「ほう…完璧じゃないですか。はて、ユノヒョンに勝ち目はあるんでしょうか?」

「お前なぁ~~~」

 

苦虫をかみつぶしたようなユノの顔を見たチャンミンは、ハハハと満足そうに笑った。

 

「冗談はさておき、なんだかんだいっても結局それしかないでしょう?まずは彼に自分の気持ちをぶつけてみる事ですね」

 

彼に自分の気持ちをぶつけてみる事ですねって、かるーく言ってくれるぜ。それでフラれたらどーしてくれんだよ、まったく。ってか男同士なんだよっ!ハードル高ぇんだよっ!他人事だと思ってズバズバ言ってくれるぜ。この毒舌ヤロー。

 

「毒舌で悪かったですね。ってか僕が言わなきゃずっとウジウジしてんでしょーが、アンタは」

 

あれ?チャンミン俺の心の声、聞こえた?

 

「チャンミン…俺、今までこんな風に何かに迷ったり悩んだりした事ないんだ。割とすぐに答えが出てた。でも、そいつの事になると、まるっきりどうしていいかわからなくなるんだ…」

 

ユノ兄のこんな表情は初めて見た。

子供の頃からいつも僕の前を歩いていたユノ兄。

いじめっ子や、上級生が来ても一歩もひるまず、何があっても友達や、自分達下級生を守ってきたユノ兄。

快活で、突き抜けた様に大きな声で笑い、いつも堂々とした豪放磊落な人だった。

だが今日のヒョンは、どこか遠くを見るような、色気を含んだ影を纏い、たった一人の誰かを思い悩んでいる。

 

あなたのような人を、これほどまでに悩ませる人はどんな人なのか。

それが男の人だというのだから、興味がわきます。

理事長の息子がどんなもんか知りませんが、アナタだって結構いい男ですよ。

恥ずかしくて口が裂けても言いませんけど。

 

あなたは神を深く信じている人だから、今回の事も心のどこかで罪深い事だと思っているんでしょう。

 

だからね、僕があなたを解放してあげますよ。

 

人が人を愛することに、罪などないのですから。

 

 

「それが答えなのでは?」

「え?」

 

「その人が大切だから、好きだからこそ悩み、迷うんじゃないですか?嫌われたくないから、どうしていいかわからなくなる」

 

俺はチャンミンの言葉にはっとした。

そうだ…俺はジェジュンに嫌われるのが、今の関係が壊れてしまうのが、怖いんだ。

嫌われるぐらいなら、自分の心にフタをしてでも今の関係を壊したくない。

だけど…出来るなら、ジェジュンを自分のものにしたい…。

 

 

「でもお前、俺が男に惚れたって聞いて何も思わなかった?何で男?とか、気持ち悪いとか…」

チャンミンはフッと鼻で笑った。

 

「ユノ兄は男が好きなわけじゃないでしょう?その人だったから好きになったのでは?」

 

「…そうかも。うん、そうだ。ジェジュン以外の男には全く興味ない」

 

そうだ…ジェジュンだから好きになったんだ。

 

ユノはさっきまでモヤモヤとした気持で一杯だったのに、霧が晴れた様にスッキリしていた。

 

 

「誰かが誰かを思う気持ちは自由です。正解も不正解もありません。ユノ兄が初めてそこまで好きになった人です。そんな人に出会えた事を喜んでもいいと思います」

 

「そうか…」

 

薄く微笑んでいたチャンミンがいきなり立ち上がった。

 

「答えが出たようですので、僕はこれで」

「チャ、チャンミン!もう行くのか?」

 

「えぇ、タイムリミットです」

「そうか…またゆっくり話そう。今日はありがとな」

「いえ、僕も久しぶりに会えて嬉しかったです」

「ホントか?そうは見えなかったけど…。それで?お前どこの高校受けるの?」

「東方学院ですけど?」

「え?そうなのか?じゃあ後輩じゃねーか」

「まだ受かってません」

「受かるだろ」

「えぇ。そのつもりです」

 

チャンミンは、小さく手を振ると塾へと急いで行った。

 

「はぁ~あいつさすがだな…」

 

驚くほど淡々と、人の心を暴き出しやがった。

チャンミンの言葉に、嘘や虚栄心や媚びは無い。

薄っぺらい慰めや、あまったるい優しさも無い。

それはいっそ清々しく、いつも俺の心をクリアにしてくれる。

だからチャンミンと話すのは好きだ。

 

明日は、ちゃんとジェジュンと話そう。

少し足取りが軽くなったユノは、明日の事を思いながら家路を急いだ。

 

 

 

※※※

チャンミン一旦退場。

なーんですかっ?また乙ですかっ?おぉっ?