※当ブログに掲載されている小説の登場人物は、実際の人物、団体等と一切関係ございません。
完全に作者の妄想小説であり、そういったものが苦手な方は読むことをお控えください
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夕方、部活を早めに切り上げて、ジェジュンの部屋に向かった。
チャイムを押そうとして、ふと眠っているかもしれないと思う。
玄関ドアに手をかけると、カギがかかっておらず、俺はそのままそうっと家に入った。
ジェジュンの部屋中から誰かの話し声がする。
「…昨日はごめん。バイトの代わり探させて」
「いいさ。休むとうるせーからな」
この声は…ヒチョルさん?
「ヒチョリ~もうバイト止めた方がいいんじゃない?バレたらシャレになんないでしょ?ドンヘ兄も心配してた」
「俺がそんなヘマするかよ。お前とは違うのー」
「俺の事気遣ってくれるのは嬉しいけど、そのせいでヒチョリが…なんかあったら…困る…」
「か~わいいいなぁお前は!でも大丈夫だよ。俺にとっても息抜きなんだ。その場所を奪うな」
「それは…分かってるけど、でも…」
「ってかお前さ、何で俺の事は呼び捨てなくせに、ドンへはヒョンなんだよ?」
「え~だって、ドンへヒョンは優しいしー、いつも俺の事心配してくれるしー、頭いいしー、かっこいいしー」
「俺だって、あいつより優しいしー、いつもあいつよりお前の事心配してるしー、あいつより頭いいしー、あいつよりかっこいいけどー?」
「あ、ホントだねぇ~」
「こいつー」
クスクスと笑いあう声。
俺、邪魔…だよな?もしかしなくても。
そうっと帰ろうとした時、ふいに自分の名前が話題に上った。
「ジェジュン、お前チョンユノの事はどう思ってるんだ?」
「ど、どうって…?」
「言葉通りだよ。お前にとって、チョンユノはどういう存在なんだ?」
思わず聞き耳を立てる。
ジェジュンが俺の事をどう思っているのか、すごく気になる。
「………」
「分かった。そうだろうなとは思ってた」
ヒチョルの声が聞こえてきたが、ジェジュン何を言ったのかは聞き取れなかった。
「どっちにしろ、俺は明日宣言するから」
「ダメだよ!ヒチョリが変な事に巻き込まれるのは嫌だ…」
ヒチョルのため息が聞こえ、低い声が告げた。
「いいか、ジェジュン。状況はお前が思うほどぬるくない。もう待ったなしの状況だ。昨日みたいな事はもうごめんだ。だからお前は、明日も休め」
昨日ジェジュンは3年の男に襲われそうになった。
きっと彼氏としてそれはもう嫌だと言う事か。
宣言すると言うのは、自分とつき合っているからジェジュンには手を出すなと宣言するのか?
身体が冷えて行く。
昨日あれほど熱い気持ちを確認したのに、どんどん俺からは熱がひいて行く感覚がした。
俺は気付かれないようにそっとジェジュンの家を出た。
「…はぁ…」
きっと俺だけだったんだろうな、あんな気持ちになったのは。
ジェジュンにとってはただのきまぐれ、もしくは寂しかったから、体調が悪かったから気の迷い。
どんどんネガティブになってゆく自分の思考を止めることもままならないまま、俺はトボトボと家路に就いた。
ユノが去っても、まだジェジュンとヒチョルは話を続けていた。
ジェジュンはベッドの上で座り、ブランケットを肩から掛け、俯きながら言った。
「ユノ…きっと誤解するだろうな…」
「仕方ねぇ。ま、ちょっとの間の辛抱だ。お前が俺のお手付きだって噂が流れりゃ、寄ってくる奴もいなくなるだろう。その後、ユノでも何でも好きにすりゃいい」
「ヒチョリ、やっぱり駄目だよ。そんな噂立てたりしたら、ヒチョリがお父さんに叱られる」
「お前が心配する事じゃねえって。それより、今は無事に卒業することだけを考えろ」
「…一つ聞いていい?」
ジェジュンは、ヒチョルの方を向き直って言った。
「ヒチョリは、何でここまでしてくれるの?俺、ヒチョルに何にもしてあげられないのに…」
ヒチョルは、う~んとふざけたように首をひねり、何と答えようか考えていた。
「それはぁ~お前の事がぁ~好きだから?」
ふふっと笑ってみても、ジェジュンは笑わなかった。
「またふざけて…本気で聞いてるのに…」
「…またいつか答えてやるよ」
ヒチョルは、そう言ってはぐらかした。
ジェジュンは不思議だった。
ヒチョルが自分を可愛がってくれている事は分かっていたが、バイト先を自分に合わせるなど、度を超えた優しさにいつも疑問を抱いていた。
もしヒチョルがゲイバーでバイトしているなんてことが理事長である父親にばれたら、高校でヒチョルが男と付き合っていると噂されている事がバレたら、それにもしそんな噂が外部に漏れたら。
考えただけで、ゾッとする。
もしかして自分はヒチョルに対して疫病神以外の何物でもないのではないかと。
それでも何も言わず優しく笑ってくれるヒチョルに、自分は何が返せるのだろうかと不安になった。
ヒチョルはジェジュンの事が好きだからと言ったが、ヒチョルは企業家の息子だからか、いつもどこかで損得勘定を頭に入れて行動している。
それは尊敬している父親の教えであり、小さい頃から刷り込まれたヒチョルのポリシーでもある。
つまり可哀想だからとか、好きだからといったような感情で動く人物ではない。
だったら何故なのか。
何故ヒチョルはこんなも自分を可愛がってくれるのか…。
ジェジュンは知りたいような、知りたくないような複雑な気持ちだった。
「それより、親父さん相変わらずか?帰ってこないのか?」
「うん…学費だけは納めてくれてる。仕事してくれてるだけいいよ。贅沢は言えない。生活費ぐらい自分で稼ぐよ」
「…まぁ頑張って奨学金枠取れよ。ちゃんと大学に行って、自分の道を見つけろ。自分で生きられるようになれば、親の事なんて考えなくてすむ」
「うん…。ヒチョリありがとう。ヒチョリがいなかったら、俺この学校にも入れなかった。ヒチョリが勉強見てくれたからだよ…それにきっと今頃…」
「考えるな。今は自分の事だけを考えろ。それがお前の生き残る道だ」
「うん…ありがとう」
ヒチョルは、そっとジェジュンのおでこにキスをすると、またなと言って帰って行った。
次の日、学校中を噂が駆け巡った。
「「キムジェジュンは、どうやらキムヒチョルとつき合っているらしい」」
聞きたくなかった噂が、否応なしに耳に入ってくる。
俺はそれを聞きたくなくて、逃げようとしたが学校の中はその噂でもちきりで、逃げ場はなかった。
生徒の間でまたたく間に広まった噂で、皆興味シンシンだった。
がっくりとうなだれるもの、ショックで早退するもの、保健室に運ばれるもの、学校内がざわついていた。
さすがに学校の空気の変化を感じた教師たちが、その理由を問いただそうと生徒たちに詰め寄った。
しかし、その噂を誰も話す事はなかった。
ここは名門東方学院。
その生徒である自分たちが、こんな下世話な噂をしていると教師に伝わる事は避けたかったし、何より、皆はキムヒチョルを恐れていた。
「キムヒチョルって、そんなに影響力あるのか?」
俺はそこでまさにジェジュンの噂をしている奴を捕まえて聞いてみた。
「は?ユンホ、お前マジで言ってる?キムヒチョルは、学院理事長の息子だよ」
「え?」
「あ~あ。キムヒチョルが相手じゃ、太刀打ちできねーじゃん」
「はぁ?いつからお前、ジェジュンの事そんな風に」
「思ってない奴いないんじゃね?あいつはみんなのアイドルだったのによ~」
「3年の奴らの悔しそうな顔見たかよ。ゼって―モノにするって息巻いてたけど、もう終わりだな」
…はっはぁ、それでか。
ジェジュンを襲った奴を「退学になるかも」ではなく、「退学にする」と言い切ったのはそういう理由か。
ただ息子というだけでなく、キムヒチョルは良くも悪くも、学院の生徒に多大な畏怖の念を植え付けているようだ。
ジェジュンの姿は見えなかった。
きっと今日も休みなのだろう。
ジェジュンに連絡を取ろうかと考えたが、それはやめた。
聞きたくない事を聞きたくなかったから。
※※※
次回、チャンミン登場。
おせーです。忘れてましたか?おっ?