※当ブログに掲載されている小説の登場人物は、実際の人物、団体等と一切関係ございません。
完全に作者の妄想小説であり、そういったものが苦手な方は読むことをお控えください。
「よぉ、ジェジュン」
後ろから知らない声が降ってきて振り返る。
まるで綺麗な女性のような風貌に、少しひねくれたようなキツイ視線。
彼は確か、2年のキムヒチョル。
後ろに控えるようにして立つ、2年で生徒会長のイドンへ。
そしてそのまた後ろに数人が連なるように立っていた。
キムヒチョルは、学年1位の秀才で、全国でもトップクラスの成績を誇るという噂。
生徒会長に推薦されたが「んなもんやってられっか」と一蹴した伝説の人物らしい。
実家はこの国の人間なら誰もが知る大企業で、政界にも太いパイプを持つ財閥だ。
俺も入学して間もないから詳しくは知らないが、先輩が教えてくれた。
この学校にいるなら知らない人はいない、そんな人物。
はじめて実物を見たが、性別すら飛び越えたような、その垢ぬけたスタイルは、ほかの生徒とは違う雰囲気。
それは、どこかジェジュンにも共通しているところがあった。
「あ!ヒチョリ!なんでここに?」
俺はぎょっとした。
先輩であり、伝説と謳われる人を愛称で呼ぶなんて・・・しかも相手はキムヒチョルだぞ。
だが、キムヒチョルは、そんな事気にせず問いかける。
「あ?何でって…俺、ここの生徒なんだけど?」
「え?そっそうだったっけ?」
「ったく、お前のそれは天然かよ」
え?知り合い?と驚いていると、キムヒチョルが俺に興味を示した。
「あ、お前確か、チョンユンホ、だっけ?」
「何でヒチョリがユノを知ってるの?」
「こいつ有名だもん。スポーツ推薦をけって、入学したエリートだって」
「エリート?」
ジェジュンが目を丸くして俺を見ていた。
「そ、そんな大したもんじゃ・・・」
「いやいや~空手で全国優勝したのっておまえだろ?」
「え、ええまぁ・・・」
「ええええー!!ユノ全国優勝したの?すっごー」
ジェジュンが口に手を当てて、目を真ん丸にしてキラキラした目で俺を見ていた。
「なんでそんなエリートが、ジェジュンみたいな味噌っかすと一緒にいるんだ?」
「味噌っかすって…ヒチョリ、ひどい」
「味噌っかすじゃねーか。お前みたいにドンクせーやつ、俺見たことねーよ」
「…俺のことそんな風に・・・」
うるうるとした目をして泣きそうな顔でヒチョルを見るジェジュン。
ヒチョルが楽しそうな顔でカっカっと笑い、ジェジュンの頭をクシャッと撫でた。
「こーら、あんまいじめんな」
後ろから声をかけたイドンへが、優しくジェジュンの頬を撫でた。
「あ、ドンへヒョン。久しぶりだね」
「あぁ。ジェジュン、学校には慣れたか?」
「うん」
にっこりとほほ笑みあう、ジェジュンとドンへ。
くるくると表情が変わるジェジュン。
そんなジェジュンを面白そうに笑いながらからかうヒチョル。
ポンとジェジュンの肩をなでると、ヒチョルは、じゃなと、ユノに言い去って行った。
後ろに続くドンへもジェジュンに優しく微笑んで去って行った。
「ひでーや、ヒチョリったら・・・」
しょんぼりとうつむいたジェジュンは、唇をムニムニと摘まんでいた。
「何でキムヒチョルを知ってるんだ?しかも呼び捨てだし」
「え?あぁー・・・んーちょっとね」
「イドンへは?彼は生徒会長だろ?何で知ってるんだ?」
「えぇ~っとドンへ兄は、ヒチョリからの繋がり……かな?」
「ふう~ん。だったらキムヒチョルは?何で知ってるんだ?」
「あぁ~…んっと…」
「なんだよ、気になるじゃん。中学が一緒とか?」
「んー近所・・・なのかな?」
「ふーん、幼馴染とか?」
「えーと、えーと・・・」
……全くウソをつくという事が下手すぎる。
キョロキョロと目を動かし、しきりに唇をペロペロ舐めている。
それはそれで可愛いけど、キムヒチョルが言った、味噌っかすの意味がちょっと分かった気がした。
「けど、二人ともすごいお前の事可愛がってるんじゃね?ドンへさんなんてずっと微笑んでたぜ」
「ドンへ兄はいつも優しい。大好きだよ」
「キムヒチョルは?キムヒチョルもお前の事可愛くてしょーがないって感じだったぞ?」
「えー?でも味噌っかすって・・・」
「可愛いからだろ?」
「可愛いって…俺、男だし・・・」
「男だって可愛いもんは可愛いじゃん?」
顔を上げると、ジェジュンがほっぺをぷくーと膨らまして無言の抗議をしている。
「な、何だよ」
「ユノまで、俺の事可愛いって言うなよ」
「は?何で?」
「俺、こんなだから、いつも可愛いって馬鹿にされて・・・ジロジロ見られて…だから、嫌なんだ」
そんなほっぺして何が可愛いが嫌だよ、そう思ったが、ふとあることに気が付いた。
あぁ…ジェジュンは気が付いていないんだ。
自分がやっていることが、どんなに可愛らしく映るのか、それを全く理解していない。
人が彼に見惚れたり、惹かれたりして、ついつい照れ隠しの為に言った言葉が、ジェジュンにとっては,バカにされて、ジロジロ見られているってことか。
「ははは、そーか」
「な、何だよ」
「いーや、すこーしだけお前の事分かった」
「どういう事?」
「教えてやんね」
「なんだよー」
「それより、俺まで可愛いっていうなって?俺までってどういう意味?」
「・・・そりゃ・・ユノは初めての友達だし、俺の事バカにして欲しくなくて・・・あっ!」
また慌てて口に手をやり、難しい顔になる。
俺も一緒に難しい顔になる。
「もしかして・・・俺だけなのかな、友達って思ってるの・・・」
しおしおと花が萎れて行くように俯くジェジュン。
彼にシッポがあったなら確実に垂れ下がっている。
なんでこいつはこんなに自分に自信がないんだ?
ジェジュンくらいの容姿があれば、もっと自信持って高飛車になるんじゃないのか?
「もちろん、俺はジェジュンの事友達だって思ってたよ!当たり前じゃんか」
ジェジュンの顔がぱあああっと明るくなる。
うふふとこらえきれないのか、いつまでも笑っている。
「何だよ、そんなに嬉しかったの?俺と友達になったのが?」
「うん。あ、別にユノがエリートだからじゃないよ?」
「じゃあなんで?」
俺は嬉しくなって、身を乗り出してジェジュンの答えを待った。
「えーなんて言うかー、ユノってさ、かっこいいじゃん。いつもビシッと姿勢もいいし、背も高いし、顔小っちゃいし、勉強できるし、スポーツも出来るし、友達多いし。力も強いのに、いっつも柔らかく笑ってて、男らしいっていうかさー」
人にこんなにストレートに褒められたのは初めてだ。
恥ずかしくって、くすぐったくて、顔の熱がどんどん上がる。
赤い顔をした俺に気が付いたジェジュンが、やっと自分が言った事を理解したようで、ジェジュンも赤くなる。
「いや、なんてーか、ハハハ、そんな風に言われると恥ずかしいな・・・」
「いや・・ごめん…俺、何言ってんだろ・・・・・はじゅかしい・・・・・・」
ジェジュンが耐えきれず顔を両手で覆い、真っ赤になった耳だけがのぞいていた。
※※※
味噌っかすじぇー。味噌っかすって最近あまり言わないか。