※当ブログに掲載されている小説の登場人物は、実際の人物、団体等と一切関係ございません。

 完全に作者の妄想小説であり、そういったものが苦手な方は読むことをお控えください。

 

◆◆◆

 

それから彼の事が気になって仕方がなかった。

それは俺だけではないらしく、よく見てみればチラチラとキムジェジュンを盗み見する奴がたくさんいた。

 

男だらけのその粗暴な場所に、一人天使が迷い込んでしまった、そんな印象を受けた。

それほどにキムジェジュンは儚げで、危うい

 

入学して2週間が過ぎ、俺はまだキムジェジュンに話しかけられないでいた。

彼の声が聞きたいと思うのに、なかなか声がかけられない。

それは、彼が学校をよく休む事と、人を避けているかのように思えた事が原因だった。

 

今日も机に突っ伏して眠っている。

さらさらで柔らかそうな茶髪は、日の光に透けて金色に光り輝いている。

 

あの髪に触れてみたい・・・・・・。

 

ふとそんなことを考えてしまった自分に驚く。

 

俺は、いったい…何を・・・?

 

それでも彼への興味は日に日に増していくばかりで、それなのに話しかけることが出来ずにいた。

 

普段うじうじ考えるぐらいなら、すぱっと行動してしまえ!がモットーな自分のはずなのに。

まったくらしくない、こんな自分は初めてだ。

そんな悶々とした日々が続いた。

 

 

ある日チャンスがやってきた。

 

俺は学級委員を命じられ、学校を休むことが多いジェジュンに、ある書類を出すよう言わなければならなかった。

これはチャンスだ、いいきっかけだ。

よし行くぞ。

空手の試合でもこんなに緊張しないのに、俺の心臓はバクバクと音を立てている。

俺はふうっと息を吐いて意を決し、昼休み机で突っ伏している彼に声をかけた。

 

「キムジェジュン」

 

「ん・・・」

 

寝ぼけ眼で顔を上げたジェジュンは、思ったより幼く見えて、なんだか可愛かった。

 

「ん・・・誰?」

「俺はチョンユノ。お前と同じクラスだ」

「あ・・・そう。」

「この書類、まだ出してないだろ?」

 

書類を見せると、ボーっとした顔でうんと頷いた。

 

「早く出せって担任が」

「あぁ。うん」

 

分かっているのか分かっていないのか、彼はまた机に伏せようとする。

このままだと、この会話はもう終わりだ。

俺はせっかくの機会を逃したくなくて、伏せた彼にもう一度声を掛けた。

 

「昼飯・・・もう喰った?」

「・・・え?」

「食ったの?」

「・・・いや・・・」

「だったら一緒に喰おうぜ?」

 

は?という顔をして俺を見ている。

何で俺がお前と?そう言わんばかりの顔だ。

俺は萎えそうになる心を立て直し、彼に精いっぱいの笑顔を見せた。

 

「早く行こうぜ、俺腹減った!」

 

「………」

 

何かを言いたかったらしいが、強引な俺に引きずられるように彼は教室を後にした。

 

俺達は学食に向かった。

その間にたくさんの人の視線を感じた。

ジェジュンはその事に気づいているのか分からなかったが、眠そうな顔をして俺についてきた。

 

俺が大盛り飯の定食を手に座ると、彼はサンドイッチとパックジュースだけだった。

 

「それだけ?」

「そんな食欲ねーし・・・」

と、俺の大盛りにしたご飯を見て、プッと吹き出した。

 

その瞬間、大きな目が弓なりになり、あっは!とジェジュンが大きな声で笑った。

初めて見た笑顔は、子供みたいに幼くて、本当に可愛らしかった。

俺は嬉しくなって、思わず赤くなった頬を隠しながら、何で笑うんだよと拗ねて見せた。

 

「だって、そのご飯…あっは!喰いすぎじゃね?」

 

最初のとっつきにくい印象はどこへやら。

いつまでも俺の大盛りご飯を指差して、アハアハと笑っている。

 

「な、なんだよっ!これぐらい普通だよ!」

「ふつーじゃねーって!あーっはっはっは!」

いつも俯いて寂しげに見える彼だったが、実際の彼はとても人懐っこくて、笑顔が最高に可愛くて、笑い上戸の明るい男だった。

 

ジェジュンの笑顔に見とれていると、学食にいたほとんどの生徒が、ジェジュンを見ていた。

いや、正確に言えば、その前からみんながチラチラとジェジュンを見ていた事に気づいていた。

 

ジェジュンが、花が零れるように笑った事で、その全員が彼に見惚れたという事だった。

 

「あ~ユノって案外面白い男だったんだな」

「ジェジュンこそ。そんなに笑い上戸だとは思わなかったぜ」

 

俺達は自然と名前で呼び合う様になり、まるで昔から知っているかのように仲良くなった。

 

 

その日からジェジュンを取り巻く環境は一変した。

みなどこかでとっつきにくいという印象を持っていたのが、あんなに可愛らしい顔で笑うんだ、という事に気が付いたのだ。

いつも誰かしらがジェジュンに話しかけ、いつもジェジュンの周りには人がいるようになった。

 

 

良かったな・・・そう思う心となんだか寂しい気持ちが混同していた。

楽しげに、俺以外の人間と笑うジェジュン。

それを見て、俺は言いようのない焦燥感に襲われていた。

 

「ユノ、昼飯行こうぜ」

 

ジェジュンは昼時になると必ず俺を迎えにきた。

なぜ彼が俺と一緒に昼飯を食べようと思うのかわからなかったが、俺は嬉しくて快諾した。

 

「なぁジェジュン・・・なんでいつも昼来るの?」

「え?」

「嫌とかじゃねーよ?でもなんで俺なのかなーって」

 

俺は気になっていることを聞いてみた。

ジェジュンは、え~・・・と照れ臭そうに頭をかいて、小さな声で答えた。

 

「だって最初に誘ってくれたじゃん。アレ…嬉しかったから・・・」

 

頬をほんのり桜色に染め、視線を忙しく泳がせている。

 

可愛い・・・・可愛すぎる・・・・・・。

 

あ!と何かに気づいたようにジェジュンが難しい顔をする。

俺も一緒になって難しい顔になる。

 

「ぁ…でも、お前、ほかのやつと一緒に食べたかったんじゃ…・・・」

 

みるみる暗い顔になり、すまなそうな顔をしてうつむいてしまう。

 

だから可愛い・・・可愛すぎるんだって!

 

「んなわけねーじゃん。俺だって、誘われて嬉しかった・・・んだし・・・」

 

そこまで言って照れてしまい、顔を赤くして鼻をすすると。

 

「ホント?よかったぁ~」

 

手を口に当て、うふふとまるで少女のように可憐にほほ笑む。

落ち込んだり、可愛らしく笑ったりと、コロコロと表情を変えるジェジュン。

その可愛らしさに見惚れていると、ほかの生徒たちの痛いほどの視線が気になった。

 

そんな顔して笑うなジェジュン・・・・・・・。

 

そんな可愛い顔、誰にも見せたくないんだ…。