※当ブログに掲載されている小説の登場人物は、実際の人物、団体等と一切関係ございません。
完全に作者の妄想小説であり、そういったものが苦手な方は読むことをお控えください。
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穏やかな朝日を受け、川のせせらぎがきらめいている。
川辺に立つ柳がゆらゆらと揺れ、それと重なるようにしだれ桜がしなり、揺れている。
緑の柳の合間から見える、濃いピンクが映える。
通り過ぎる車に、散った花弁が舞い上がった。
長い冬を超え、やっと見せたその風景は。
うららかで、匂い立つ、春そのもの。
今日は高校の入学式だ。
俺、チョンユンホは、これから始まる高校生活に胸を躍らせながら、重厚な門をくぐった。
私立東方高等学校。
西洋的な作りのこの学校は、壁に煉瓦を使い、モダンな外灯があったり、校内に並木道があってベンチがあり、大きくて絵画が飾られた玄関には赤いじゅうたんがひかれていたりと、ちょっとした洋館のような作りになっている。
文武両道を掲げた、スポーツも学力も名門男子高校。
スポーツでは毎年全国大会に名を連ねる選手が大勢でているし、そのままプロに転向する人もいる。
俺は空手をやっていて、中学生の部で優勝した。
スポーツ推薦で受験することは可能だったが、敢えて他の学生と同じように受験した。
スポーツ推薦で入学すれば、入学金は免除、スポーツ推進課に入り思い切りそのスポーツに専念出来る。
しかし、高校生活を空手一色に染めたくなかった俺は、練習後猛勉強して一般入試を合格した。
友達はもったいないとか、バカみたいと言ったが、スポーツの世界は厳しい。
怪我は付き物だし、何よりスポーツ推薦科にいれられれば、結果を出す事を求められる。
勿論空手部に入るつもりだし、結果を求めるつもりだが、それは自分の意思で求めたい。
そして何より。高校生活を楽しみたい、そんな気持ちがあった。
スポーツも有名だが、学力でも都内有数の進学校を誇る、東方高等学校。
毎年現役で、有名国立大学に何人も入学している。
学力組の生徒も部活を行っていたが、優先すべきは勉強の為、スポーツ組との温度差は否めない。
生徒はスポーツ組が3割程度で、後は一般の生徒。
スポーツ組はほとんどがスポーツ推薦で入学しているため、スポーツ組かそうでないかは、一目瞭然だった。
スポーツ組はスポーツ推薦科に配属し、授業数も一般の生徒とは違う。
有名大学を目指す生徒と、スポーツだけを追い求める生徒たちは、あまり交流する事もない。
偏差値が違うのだ。
話が合うはずもなかった。
男子校だけに、校内に黄色い声があるわけもなく、粗暴な空気は否めなかったが、それでも男だけという気楽さや楽しさもあり、俺はこの学校の空気が気に入っていた。
俺は、スポーツ推薦科に進まなかった、唯一のスポーツ組。
そんな奴は俺しかいなかった。
だが、部活で友人はたくさんできたし、学力組の友人もたくさんできた。
それぞれ違った面白さがあり、俺はどちらの友人も大切にしていた。
入学して2カ月が過ぎ、学校にも慣れてきた頃の事だった。
俺は同じクラスの一人の生徒が気になっていた。
そいつは、よく学校を休んだ。
遅刻も多かったし、学校に来ても机に突っ伏してよく寝ていた。
もう脱落したのか、そうやってよく休むため友達もいないらしく、いつも一人で過ごしていた。
とはいえ、そういう生徒は珍しくない様だった。
名門高校である為、入学したはいいが、スポーツでも学力でも早々に躓いてしまう生徒は必ずいる。
毎年、入学後半年以内に数人が学校を去るんだと、先輩が教えてくれた。
俺が気になっている生徒は、スポーツ組ではないため、学力で躓いたのだろうか。
成績は分からないが、あまり学校が楽しそうではなかった。
俺がその生徒を気にするようになったのには訳がある。
あれは、入学して間もない時の事、オリエンテーションを済ませた俺達1年生が、教室に戻ろうとした時、奴の姿が目に付いた。
まだクラス全員の顔を覚えたわけでなく、誰とも親しくなってはいなかった時だ。
それは他の奴も同じで、ぞろぞろと誰かと話すわけでもなく教室に戻っていた。
教室の一番後ろの席だった奴の事を、俺はまだそれほど認識していなかった。
その時、小さな噂声が聞こえてきた。
「あれだろ?キムジェジュンって」
「あぁやべえな。やっぱ可愛いわ。そこらへんの女より綺麗じゃね?おれ、ずっと見ちゃったよ」
「おう。あれだったら、俺、いけそうだな」
「バカ、男だっての!」
「いや~もう先輩たちの間では有名らしいぞ」
「何が?」
「誰がキムジェジュンをおとすか」
「おお~男子校っぽいな。ってか、あいつもまんざらじゃないんじゃね?」
「男が好き~ってか?」
下品な噂話に、眉がひそむ。
実はこんなうわさを聞いたのは初めてではない。
噂話に疎い俺でも知っている、噂のキムジェジュン。
彼は、1年だけじゃなく学校中の注目の的だった。
これ以上言ったら注意しようかと思った時、視線の端にキムジェジュンの姿が目に入った。
あぁ彼が、キムジェジュンか…。
横顔でもわかる、彼の整った顔は俺の興味を引いた。
ふと俺のぶしつけな視線に気づいたのか、彼の顔がゆっくりこちらに向けられた。
その瞬間、俺の身体に電流が流れたように、ビリビリとすごい衝撃が走った。
さらりとした癖のない茶髪の間から、大きくて零れそうな切れ長の目が覗いている。
すっと通った鼻筋に、綺麗にかたどられた、男にしては赤い唇。
何よりその雪のように白い肌は、透きとおるように滑らかで、陶器のように艶やかだった。
背は高く肩幅もあるのに、その腰と足の細さが、儚げで繊細な雰囲気をだしている。
色素が薄いのか、髪も肌も透けるようで、瞳の色も薄く透明感がある。
まるでそこだけふんわりと別の世界のような雰囲気を醸して出している。
ぷっくりとした唇を少し開け、眩しそうに窓の光を見浴びるその姿は、まるで人ではないように美しい。
「綺麗」という言葉以外見つからなかった。
男に対して使う形容ではない事は分かっている。
だが、その言葉しか見つからない。
男でも女でも、あんなに綺麗な人を見たのは初めてだ………・・。
思わず茫然と彼を見つめてしまい、時間を忘れた。
キムジェジュンは、誰もが認める「綺麗な男」だった。