記念式典の演説で 政権の成果を誇示
文在寅大統領は3月1日、1919年の「三一独立運動」記念式典で演説を行った。
三一独立運動は、日本に併合され、支配された中で、民族の自尊心を発揮し、日本に抵抗した歴史の象徴である。これは韓国人にとってのプライドを意味する。
演説では、この運動が起きた前年の1918年にはスペイン風邪、翌年にはコレラの流行で、それぞれ14万人、1万4000人が命を落としたが、そうした中で家族と隣人、共同体を守ったのは三一独立運動として覚醒した韓国国民自身であったとして、民族の誇りを強調した。さらに現在は、新型コロナ対応と医療分野で韓国が先駆的な役割を果たしていることを誇らしげに語った。
現在の政府の政策は新型コロナを除き八方ふさがりの状況にある。文大統領としては、三一独立運動家の行動を引き合いに出し、自身の政権の成果を誇示したかったのであろう。
この演説文全体の中で、日本の歴史に関する部分は10%強である。その意味で、日本への抵抗を主題とする三一節の演説としては、日韓関係に関するトーンを抑え、むしろ国内向けに文政権の業績を広報することを主眼としているといえるだろう。
歴史問題の解決のカギは 日本側にあるとの姿勢
文大統領は演説で、「韓国政府はいつでも日本と向き合い対話をする準備ができている。過去の問題もいつでも賢明に解決できると確信している」と述べ、日本に対話を改めて呼びかけた。
さらに未来の日韓関係についても前向きの姿勢を示した。文大統領は「過去に足をとらわれず、未来志向の発展に力を注ぐ」「(日韓)両国の協力は北東アジアの安定と共同繁栄に役立ち、韓米日3カ国の協力にも役立つ」と指摘した。
これまで、過去の問題に縛られることなく、未来志向の日韓関係を発展しようといってきたのは日本の方である。その意味で文大統領の発言は、その線に沿ったものと言える。しかし、文大統領はこれまで過去の問題に執着しすぎた。
この演説でも日韓間の不幸な歴史に言及し、「加害者は忘れられようが、被害者は忘れられない」と述べた。文大統領は、「過去と未来の問題を分離できず、未来の発展に支障を招いている」「過去の過ちから教訓を受けることは、恥ずかしいことではない。過去の問題は過去の問題として解決し、未来志向的な発展にさらに力を注がなければならない」とも述べた。これは、歴史問題解決のカギは日本側にあるとの姿勢を改めて明らかにしたものである。だが、日韓の過去を横に置き未来志向で発展させることは、問題を先延ばしにするだけである。
元慰安婦や徴用工に問題については直接名指しで言及しなかったが、「韓国政府は常に被害者中心主義の立場で知恵を絞り解決策を模索する。被害者らの名誉と尊厳の回復のためにも最善を尽くす」と暗にこれらの問題について言及した。
今回の演説では総論を述べたが、日韓の過去史問題を乗り越える具体的な考えも道筋も示さなかった。1月の記者会見時と比べ、日本企業の賠償を強く求める元徴用工の立場に寄り添う姿勢を改めて示すなど、むしろ後退したかのような印象も与える。
歴史問題への言及は 強硬姿勢から軟化へ
文大統領の過去史問題に関する発言は就任当初と比べ軟化している。これは日韓関係に向き合う姿勢の変化を表していることは確かだろう。最初の三一節演説となった2018年、元慰安婦問題を「反倫理的人権犯罪行為と規定し」「加害者である日本政府が『終わった』というべきではない」と強硬な姿勢で日本政府の姿勢を非難した。
文大統領は、2017年に発足した韓日慰安合意検討TF(タスクフォース、作業部会)が同年12月に、「合意は被害者中心主義に外れる」と発表したのを受け、「内容と手続きにはどれも重大な欠陥がある」「該当の合意によって慰安婦問題を解決することはできない」と述べていた。
さらに2018年8月14日の慰安婦の日には「(慰安婦問題は)両国間の外交的解決で解決される問題ではない。日本が深く反省して初めて解決できる問題」と断言していた。
文大統領は、2019年の光復節(8月15日)では日韓両国の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)終了決定日を1週間後に控えていたこともあり、日本政府の態度変化を期待して「過去の省察は過去を踏んで未来に進む」とやや穏健な発言を行った。
2020年には慰安婦の日の演説で、「政府はおばあさん方が『もういい』と言うまで解決方法を探す」とあくまでも被害者中心主義が最も重要な原則であることを再確認している。
日韓関係をめぐる 文大統領の姿勢に変化
昨年11月以来、文大統領の日本に対する姿勢に変化を見ることができる。朴智元(パク・チウォン)国家情報院長と金振杓(キム・ジンピョ)韓日議連会長が相次いで訪日し、菅首相に会って、小渕・金大中両首脳の戦略的パートナーシップ宣言方式による解決、東京オリンピックの際の日米韓朝首脳会談開催案を提案してきた。これはバイデン氏の大統領当選を意識し、米韓関係のためにも日韓関係の改善が不可欠と意識した結果であろう。
バイデン政権を意識した対日姿勢の軟化は、1月の新年の記者会見で、慰安婦の日本政府を訴えた裁判で日本政府の賠償責任を認めたことについて「正直困惑している」「2015年の慰安婦合意は公式的な合意であるが、元慰安婦が受け入れられる解決策を日本と協議していく」と述べたことに表れている。徴用工についても「日本企業資産の現金化を望ましくない、外交的な解決方法を探ることがさらに優先」と述べている。
こうしたバイデン政権を意識した姿勢の軟化を踏まえた中で行われた三一節の演説であり、日韓関係にどのように言及するか注目されていた。
発言内容は穏健でも 基本的な立場は変わらず
今回の演説は、元慰安婦問題、元徴用工問題と名指しで日本を批判することは控えた穏健な内容であった。
その一方で、「加害者は忘れられようが、被害者は忘れられない」(「加害者側が終わったというべきではない」と同じ趣旨)「過去と未来の問題は切り離せず、未来の発展の障害となっている」「過去の過ちから教訓を得ることは、恥ずかしいことではない」(「日本が反省して初めて解決できる問題」と同じニュアンス)「過去の問題を解決していきながら、未来志向的な発展に力を注がなければならない」「韓国政府は被害者中心主義の立場で、解決策を模索していく(元慰安婦がもういいと言うまで解決策を模索するという意味)」「被害者らの名誉と尊厳の回復のために最善を尽くしていく(名誉と尊厳を解決するため日本側も努力してきた、今更という感じ)」と述べ、過去の問題にもこだわる姿勢を示している。
こうした発言内容は、文大統領の歴史問題に対する基本姿勢に大きな変化がないことを物語っている。
文大統領の歴史認識は そもそも間違っている
慰安婦問題の本質は、これが既に解決した問題だということである。1965年の日韓請求権協定で日韓間の戦後補償に関するすべての問題は解決済みであったが、元慰安婦が戦後においても非常に気の毒な境遇に置かれていたため、日本としても人道的見地から、償い金を渡し、首相直筆の謝罪の手紙もこれに添付した。しかし、この日本の努力を妨害したのは挺身隊問題対策協議会(以下「挺対協」。「正義連」の前身)である。
さらに2015年の日韓合意では当時存命中の46人の元慰安婦のうち76%に当たる34人が合意を受け入れた。この時も挺対協が合意を妨害している。その後明らかとなったことは、挺対協・正義連は元慰安婦問題を利用し、寄付金集めをしていたということであり、この問題の真の解決を望んでいなかったということである。
要するに、日本はこれまで誠意を尽くして、元慰安婦の人々の気持ちに寄り添おうとしてきたが、挺対協はその都度日本の誠意を否定する行動を取ってきたということである。
日本はこの問題を「忘れようとしている」のではなく、「既にやるべきことをやってきた」ということである。
「過去の過ちを認めることは恥ずかしいことではない」と言うが、過去の過ちを認めたからこそ償い金を支給し、首相の謝罪の手紙を贈ったのではないか。
「元慰安婦の名誉と尊厳の回復」についても、首相の謝罪の書簡を渡し、元慰安婦の苦悩に報いようとしたが、挺対協が受け取らせなかっただけである。
日本の誠意ある努力を否定され、日本の努力が足りないと言われても、日本が納得できるわけがない。
文大統領は被害者中心主義と言うが、元慰安婦のために集めた寄付金の一部しか慰安婦のために使わず、これを着服してきた挺対協、正義連に対する告発をできる限りうやむやにしようとする文政権が、被害者中心主義を声高に主張できるのだろうか。
文大統領のこうした誤った認識は全く変わっていない。
国際司法裁判所への付託を求める 元慰安婦の提案に応えるべき
文政権は「日本政府と対話の準備ができている」という。
だが、そもそも請求権協定の解釈に疑義がある場合は、仲裁によって解決すると規定している。対話する場合にはこれをベースとすべきである。
2月16日、元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)氏は「もう時間がない」として国際司法裁判所(ICJ)で決着すべきと提案した。李容洙氏は必ずしもICJでの完全勝利を目指すものではなく、慰安婦問題の事実を明らかにしたいということである。ICJの判決であれば、日韓両国としても納得できるのではないか。
しかし、文政権はICJの判断に自信がないのか、ICJに付託する様子は見えない。
文大統領が「日本政府と対話の準備ができている」というのはあくまでも、韓国の裁判所の判決を前提に、それを元慰安婦が納得する解決策を日本政府にのませようということである。
こうした文政権の本質が変わらない限り、元慰安婦問題さらには元徴用工問題で前進はなく、それは未来志向的な日韓関係の障害となり続あろう。
ソウル大学の朴喆熙(パク・チョルヒ)教授は「慰安婦合意に関する文政権の立場は破棄と尊重を行き来し、事実上、自己否定に近い姿を見せた。関係改善のためには韓国が韓日関係の復元を望むという真意の入ったメッセージを正確に伝えなければならない」と述べた。まさに日韓関係改善の決め手はそこにある。
(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)
・・・いわゆる従軍慰安婦問題を捏造した朝日新聞とその植村元記者など、韓国だけでなく日本の反日勢力にもこの問題は利用されてきた。これは歴史問題ではなく、ただの政治問題に過ぎない。
