前回の記事で日航ハンガー計画の詳報と予告しましたがまだ書いている途中です。

一旦別のを挟みます。

さて、737-800に乗ったことはありますでしょうか。

都市間の移動が多い人は乗る機会が少ないかもしれませんが、全国飛び回る人はお世話になることが多い飛行機です。

自分の乗った飛行機なんてどうやったらわかるのさ、という人は座席ポケットの「安全のしおり」の上帯に書かれているので見てみてください。

さて、今日は日本で約150機と最も多数が飛ぶ737-800の沼に浸かってみましょう。

もう737-800は何かという話はトバします。ここに書くよりwikiを見る方が早いでしょう。

で、沼はなにが沼かというと仕様のバリエーションの豊富さです。

あまりにも多いのでEASAの型式証明書などトンデモナイ分量のページになっています。

海外のものも含めると書き終えられないので日本に絞りました。

さて、一つずつ見てみましょう。

まずは標準仕様。

こちらが原型(写真の機体は超短所厳密には細かなオプション適用。後述)。

ここからどんどんオプション仕様を紹介していきます。

最初のオプションは、かの有名なウイングレット。

燃費向上を目的にオプション品として設定された正式名称ブレンデッド・ウィングレット。スカイマークが日本で初めて738が導入された頃にはまだオプションだったので日本の国内線事情を考慮*(注1)してか装備しない仕様で導入を続けました。しかし、まもなくウイングレットは標準装備品となったため、スカイマークの初期の機体以外は全てこれを装備しています。

※1…ウイングレットの燃費削減率は横軸を距離とした場合の一次関数的に上がっていく。

日本の国内線は距離が世界的に見ても短いため費用に対して効果が薄かったと考えられる。

さて、続いてのオプションもまだ界隈では有名なBSI(Boeing Sky Interior)。

これがBSIのキャビン。明るい白色のLED照明を採用しています。

こちらが非BSIのキャビン。蛍光灯の暖色系照明が使われています。

2枚の写真はエアラインが違うので座席やカーペットの違いはさておき、天井部の設計が大幅に変更されているのがわかります。こちらは全日空・日航では基本的には採用されず、スカイマークの比較的新しい機材と、JTA自社導入分とソラシドエア・春秋航空日本の全機が採用するに留まっています。

続いてのオプションは知名度がやや低いのですがPIPです。

PIPは燃料消費の削減(=低燃費)を目的として各種モジュールの換装が行われました。

2011年に数ある改良品のうち実用化したものから随時適用しはじめました。

燃費対策なので、基本的には空気抵抗の削減がメインです。

↑非PIP機

↑PIP機

PIPでは主脚格納部前方の排気口が丸型から四角型へと変更されました。また主脚も格納後は格納部とタイヤの隙間を極力埋めるよう設計が改良されています。

スポイラーなど各種動翼の後縁を薄くするなどの工夫もなされていますが至近距離から見比べないと違いはわからないです。

設計が改良されたうちの大きな変化が衝突防止灯。従来は上写真のように円筒形をしていましたが、

PIPでは滴型に変更されました。

小さな変更ですが、これらの工夫を合わせただけでもプログラム化するほどの削減効果があるということです。

エンジンを供給するCFM社もPIPを施したCFM56-7BEを開発しました。こちらは空力的改善というよりも燃費改善の意味が強めです。

これが従来のCFM56-7B26ですが、中のタービンブレードなどが改良されました。わかりやすいところでは排気口の設計が変更されました。

外見的には短くなった排気カウルが識別点です。

777-300ERのPIPで行われたようなテイルスキッドの撤去は行われずそのまま残されました。

なお、このPIP仕様は全日空・日航・スカイマークの後期導入機、ソラシドエア・JTAの全機が対象です。

さて、紹介する仕様の最後はSFPです。

アルファベットばっかりで頭混乱しそうですがSFPはShort Field Performance=短距離離着陸性能強化型です。

元々はブラジルのGOLの要望で開発されたモデルですが、滑走路が短い空港や積雪でブレーキ性能が低下する空港が多い日本でもこれは十分な導入意義があります。

このSFPはPIPと違い標準仕様ではなく現在もオプションとして取り扱われています(一部機能が他派生型において標準装備されている場合はある)。

まずSFPの最大の特徴としてスポイラーの動作角度増大が挙げられます。こちらはFSPの標準装備です。

着陸時に主翼の揚力を失効させるスポイラーは、その角度が大きくなるほど効果が大きくなります。最もストレートな対策ですね。

格納時には一段下げを挟んでから完全に格納します。一度で格納しない理由は分かりません。

スラットの動作などにおいて空力的性能強化が図られています。こちらは外見から識別はつきづらいですが着陸速度の低下を実現しています。もう一つのわかりやすい改良がテイルスキッドにあります。

上がSFP、下が非SFPです。

SFPで低速進入を行うと、フレアのタイミングでテイルストライクを起こす可能性が高まります。このためSFPでは着陸時にテイルスキッドが2段階で展開する仕様になっています。接地後、もしくはそれ以降のゴーアラウンド後5秒でリトラクトされます。これはSFPで標準のスポイラーと異なりオプションとなっているため全てのSFPが装備しているわけではありません。

日本のエアラインではスカイマーク以外は全てSFPを採用していますが、この2段テイルスキッドを装備したのは全日空、日航、ソラシドの3社に留まっています。

SFPではFMCも変更されていますが今回は「中の方」はトバします。

最後に主翼の塗装バリエーションを見てみましょう。

737NG全般に言えることですが、主翼はライトグレー1色塗りで、737CLのようなインスパートエリアを違う塗料で塗る仕様ではありません。

ですが、エアラインや機体によって細かな標識類の位置・サイズが異なるのでこれを見ていこうと思います。

・基本デザイン (JA737N以外のスカイマーク、春秋航空日本)

こちらが最もシンプルなデザインです。非常口からの脱出経路案内の矢印が引かれ、すぐその外から主翼半ばまでCSFFを示す黒枠が引かれています。CSFFとは、「ここに浮き出た燃料が霜になってても着氷扱いしなくていい(=除氷の必要なし)エリア」のことですが、厳冬で2時間を超えるフライトの際に役に立つそうなので日本ではめったにお世話にならないことになります。

・デザインA

基本デザインのCSFFから先、主翼端まで黒線が引かれているパターンです。こちらはウォークライン(主翼の構造材が通り、人が上を歩いてもいいエリア)です。

この仕様は日本ではJA737Nだけですが海外では極めて一般的なデザインです。

・デザインB

全日空のデザインで、基本デザインに着氷確認シールが貼られたスタイルです。日の丸を左主翼に描き込んでいます。

・デザインC

日本航空グループのデザインで、基本デザインのCSFF胴体寄りを突っ切るように黒い着氷確認線が引かれています。なおJTAも同じ仕様です。日の丸は機番に寄せて右主翼に描かれているのが特徴的ですが、これは737に限らず殆どの日航機がそうなっています。

・デザインD

ソラシドエアのデザインで、デザインBを基本にしつつも着氷確認シール無し、日の丸も小さくなっています。また、避難誘導もやや小型化したものになっています(JA67AN除く)。

さて、できるだけ見た目に分かる違いで737-800の仕様を挙げてみましたがどうだったでしょうか。案外多いな、と思っていただけたなら、空港で見る737-800も「PIPかな？SFPかな？」と少しマニアな目で眺めてみてください。新たな発見があるかもしれませんよ。

ちなみに、海外の機体ではここにない仕様もあります。併せて観察してみてください。

【沼】日本の737-800