とある街角。
彗と円花、制服姿の二人は帰路に就いていた。
彗の手に二つ、円花の手に一つ、それぞれ近所のスーパーの袋を提げている。
「いやぁ、ギリギリタイムセールに間に合ってよかったですねー」
「だな。まぁ、途中でカプのアホに引っかからなきゃ余裕で間に合ってたわけだけど」
溜め息を吐く彗に、円花の顔にも苦笑いが浮かぶ。
「まぁまぁ。カプさんも暇だったんですよ、きっと」
「そもそも、今あいつの店営業中だろ。なんで店員が街中ウロチョロしてんだよ……」
「どうせなら、帰りに寄っていきます?」
「時間帯が微妙すぎるだろ。今食べたら晩飯に響くし、晩飯にするには早い」
「別に私は大丈夫ですよ?」
「そりゃまぁお前はそうかもしんないけどさ……」
苦い表情を浮かべる彗に、円花は一つ頷いた。
「彗さんがそう言うなら構いませんけどね。ところで、今夜のおかずはなんですか? 麻婆豆腐ですか? 麻婆豆腐ですよね?」
「なんでマーボー一択なんだよ」
「食べたいからです!」
「うん、まぁ知ってた」
いつも通りのやりとりに、彗の表情に変化はない。
そんな折。
ふと。
すれ違う。
「……ん?」
彗は振り返った。
たった今すれ違った、高校生と思しき男女。
その少年の方も、ちょうど振り返っていた。
目が合う。
一秒にも満たない間、視線を交わしあう。
「彗さん?」
「ん……」
円花の呼びかけに、彗は視線を前に戻した。
最後に、同じタイミングで少年も前に向き直るのが見えた気がした。
「どうかしましたか?」
「あー……」
どこか奇妙な感覚に、彗はポリポリと頬を掻いた。
「いや、別に」
しかし結局その感覚に名前をつけることができず、そう答える。
「そうですか?」
「あぁ」
「そうですか」
首をかしげていた円花も、それだけで納得したようだ。
「で、晩飯の話だったか」
彗自身先ほどの感覚を気のせいだと切り捨て、話題を戻す。
「まぁ豆腐も買ったし、別に麻婆豆腐でもいいけど。一応、予定では唐揚げだったんだが?」
「じゃあ唐揚げでいいです!」
「切り替え早っ!」
「唐揚げ好きです!」
「うん、だからまぁ知ってたけどさ」
そして二人は、家へと帰り行く。
すれ違う。
「……あれ?」
なんだか奇妙な感覚に襲われて、振り返ってみた。
さっきすれ違った男女、その男の人の人の方もちょうど振り返っていたようだ。
少しの間、目が合う。
「リク?」
「あ、ごめん」
華さんの呼びかけに、慌てて前に向き直った。
俺が立ち止まっていたせいで少しだけあいてしまった距離を、すぐに詰める。
「知り合い?」
「いや、知らない人……だと、思う」
「?」
歯切れの悪い俺の言葉に、華さんは首をかしげた。
しかし俺自身、よくわからないのだから仕方ない。
「知らない人だと思うんだけど、なんか妙に先輩的なものを感じたというか? 異世界の住人に見えたっていうか?」
「はは、リクは時々変なことを言うな」
「……ですよねー」
自分で言ってても、正直意味がわかりませんもの。
「けどさっきの女の人、可愛いかったな」
「あー、だったねー」
チラッと見ただけだが、確かに可愛い人だった。
たぶん、美少女っていうのはあぁいう人のことをいうんだろう。
「リクは、あぁいう人が好みかな?」
「え? い、いやそんなことは!」
予想外の問いに、慌てて手を振って否定する。
「ふふ……別に、そんなに否定しなくてもいいよ。見知らぬ誰かに嫉妬するほど醜くはないつもり」
「あ、はは……」
クスクス笑う華さんに、俺は苦笑いで頭を掻く。
「あーあ、でもやっぱりうらやましいな」
コンと、華さんは足元の小石を軽く蹴った。
「うらやましいって……さっきの人が?」
「うん。私もあれくらい可愛かったら、もっと遠慮なくリクにアタックできるのに」
うわぉ、てことは現状あれでも遠慮してるってわけですか華さんマジビックリですよ。
……と、いう思いはとりあえず胸の内にしまっておく。
「いや、でも……」
さすがに、気恥ずかしくて。
「華さんも、負けてないと思うよ」
そのセリフは、ポツリと呟くように小さくなってしまった。
「うん?」
首をかしげる華さん。
たぶん、俺の意図は伝わっていないのだろう。
「ほら。華さんも、すごく可愛いから」
なので、もう一度わかりやすく言い直す。
「ん……」
華さんの顔が、赤く染まる。
「……ありがとう。リクにそう言われると、すごく嬉しい」
照れの混じった、しかし眩しいくらいの笑顔が咲いた。
それは本当に華さんらしくて、とても可愛くて、動悸が三倍ほどに跳ね上がった気がした。
「えーと……そういえばさっきの二人、恋人同士だったのかな? 仲良さげだったよね」
照れ隠しに、あからさまな話題転換。
「だな。恋人同士っていうか、仲のいい熟年夫婦みたいだった」
華さんもそれに乗ってくれる。
「私たちも、あんな風になれたらいいな!」
「あ、はは……」
相変わらずストレートな華さんの言葉に、俺は曖昧に笑っておくことしかできないヘタレなのだった。