昔あるところに、彗と円花という仲の良い二人がいました。
 ある日のこと、彗と円花は共に暮らしている朱麗に言われます。
「さて彗君に円花君。君たちももうそろそろ大人と呼ばれる年齢に近づいてきた。そこで、君たちには森に住むという魔女を退治に行ってもらい……」
「いやちょっと待て。なんかいきなり話の方向性が大分違わないか?」
「ふ……心配せずとも、装備を揃えるための資金100ゴールドはあげるさ」
「何の話!? ここ貧しい家だから100ゴールドとかないし! あんたは貧しさのあまり子供達を森の中に捨てていくんだよ!」
「む? 私の役割は、16歳になった君たちに自分が勇者であることを知らせることではないのか?」
「それやっぱ確実に違う話だよ! しかもそれだったらなんでさっき100ゴールドあげようとしたんだよ! 100ゴールドあげるのは王様の仕事だろうが!」
「まぁ、結果的には同じことだろう。さっさと森の中の魔女を倒してくるといい」
「いや確かに最後はそうなるけど……こんな物語の始まり方あるのかよ……」
 多分に納得のいかないところはありましたが、始まってしまったものは仕方ありません。
 彗は、円花と共に森に向かいました。
 しかし、森は鬱蒼と生い茂り迷子になりかねません。
 そこで、彗はパンをちじって地面に落としていくことにしました。
 ちなみにこのパンは、結局朱麗にもらうこととなった100ゴールドで買ったものです。
「ま、これでとりあえず退路は確保できたな……」
 安心して彗は歩いていきます。
 しかししばらくして、彗がふと後ろを振り返った時のことです。
 なんと、自分が残してきたはずのパンくずがなくなっているではありませんか。
「……げ、小鳥にでも食べられたか?」
「まさか、そんな勿体ないことしませんよ」
「……は?」
 彗は、自分の後ろをついてきていた円花の方を見ます。
 ちょうど、先程彗が落とした分のパンくずを円花が口に入れたところでした。
「犯人お前かよ!」
「あ、大丈夫ですよ。ちゃんと3秒以内に拾いましたから」
「今時3秒ルール!? ていうかなんで食ってるんだよ!」
「だって、どうせ小鳥に食べられるんですし私が食べても一緒じゃないですか?」
「だからなんでお前ら登場人物のくせに物語の先の話を知ってるんだよ!」
「それより彗さん、早くお菓子の家を目指しましょう」
「一応言っとくけど、本来ならお前はこの先にお菓子の家があるってことも知らないんだからな!?」
 彗と円花は、てくてくと歩いていきます。
 迷子になっているにしては行き先を知っているような妙に確信に満ちた足取りでしたが、それは気にしてはいけないところです。
「さて、そろそろお菓子の家が見える頃ですね……」
「だから、そういうことは本来知らないはずなんだって……」
 果たして円花の言う通り、お菓子の家はすぐに見えてきました。
 彗は、クッキーでできた扉をノックします。
 ボス、ボス、という音しか鳴らず、とても中の人に聞こえるとは思いませんが、物語のあらすじ上ここで悪い魔女が顔を出すはずです。
「……あれ、おかしいな」
 しかし、しばらく待ってみても中から人が出てくる気配はありませんでした。
「どうする? とりあえず入ってみる……って……」
 円花の方を振り返り、彗は途中で言葉を止めます。
 なぜならば、円花はもう全力でお菓子の家を食べ始めていたのです。
「なんでもう食っちゃってんだよ! まだ中の人の了承得てないだろ!?」
「いいじゃないですか、どうせ許可もらえるんですし」
「その先読みいい加減やめろよ!」
 そんなことを言っている間にも、円花はもりもりお菓子を食べていきます。
 数分が経つ頃には、もうお菓子の家は3分の1ほどが円花の胃袋の中に消えていました。
「おいおい、どんだけ食うんだよ……」
 彗がそんなことを呟いたときです。
 グラリ、とお菓子の家が傾きました。
「……え?」
 呆気にとられる彗の目の前で、お菓子の家はガラガラと崩壊していきます。
「あれ、随分と脆い家ですねー。今流行りの手抜き工事ですかね?」
「この時代に手抜き工事は流行ってねぇよ! つーか明らかにお前が食いすぎたからだろ!」
「えー、それはさすがに関係ないですよー」
「さすがにってなんだ!? 関係ないはずがあるか!」
 言っている間にも、円花は瓦礫であるお菓子を食べ続けました。
 二人の前に魔女が現れたのは、そのときだったのです。


 つづく