昔あるところに、彗さんという漁師がいました。
 ある日のことです。
 いつものように浜辺を歩いていると、彗さんは子供達が何かを取り囲んでいるのを見つけました。
 少し気になった彗さんは、子供達の方に近づいていきます。
 するとどうでしょう、なんと子供たちは一匹の足の生えた金魚をいじめているではありませんが。
 そこで、彗さんは足の生えた金魚を助けてあげることにしました。
「……ってちょっと待て。あんな生物に関わっちゃダメだろ。見なかったことにしていつも通り漁に……」
 首を振り、回れ右をしようとする彗さん。
 ところがどっこい、そうはいきません。
 物語という名の強制力が、彗さんの足を無理矢理に子供達の方に向けます。
「うぉ、なんだこれ……足が勝手に……」
 そして、彗さんは子供達に言います。
「これこれ、生き物をいじめてはいけないよ……って、口が勝手に! なんだよこれ!」
 足の生えた金魚をいじめていた子供達は、彗さんに目を向けました。
 そして一人で「口が勝手に……」などとわけのわからないことを言っている彗さんを気味悪げに見つめます。
 やがて子供達は、精神に異常をきたしている可能性のある彗さんを恐ろしく思いさっさと逃げ去っていきました。
 こうして、彗さんは足の生えた金魚を助けたのです。
「結局助けちゃったよ! しかも助け方最悪だな!」
「いやはや……助かりました。ありがとう、親切な人」
 むくりと起き上がった足の生えた金魚は、丁寧に彗さんに頭を下げ……ようとしたのでしょうが、魚の体構造上それは不可能でした。
「親切な方、お礼に竜宮城へとお連れいたしましょう」
「いやいいよ……気持ちだけもらっとく」
 足の生えた金魚の申し出を断りさっさとこの場を離れようとする彗さんですが、しかしすばやく回り込まれてしまい逃げることはかないません。
「いやいや、遠慮せずに」
「別に遠慮じゃなくて……ホントにいいって」
 足の生えた金魚はヌラヌラした肌で、グイグイ彗さんを押しとどめようとします。
 その見た目と感触は果てしなく嫌でしたが、彗さんも必死で抵抗を試みました。
 このまま流されれば大変なことになるであろうと、彼の冴え渡る第六感が全力で告げていたのです。
 やがて、足の生えた金魚は諦めたように力を抜きます。
 彗さんも、ほっとした表情になりました。
「そうですか……仕方ありませんね」
「あぁ、悪いけどまた今度の機会にでも……」
「ネリチャギ!」
「ぐぼ!?」
 明らかに限界可動領域を超えた動きで、足の生えた金魚は見事な踵落としを彗さんに決めました。
 油断したところに叩き込まれ、彗さんは綺麗に気絶します。
 そんな彗さんを、足の生えた金魚は腕もないのに器用に背中に乗せました。
「よし。それでは、竜宮城へ参りましょうか」
 何事もなかったかのように、足の生えた金魚は海の中へと入っていきます。
 彗さんに拒否権はありません。
 こうして、彗さんは竜宮城へと拉致監禁されることとなったのです。



つづく(可能性もある)