「で、秋乃君。君は彗君に惚れているんだったかな?」
「ぶふっ!」
 開口一番の朱麗の言葉に、秋乃は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
 なんとかそれは回避し、真っ赤になった顔で朱麗に言葉を返す。
「い、いきなりなにを……」
「ふふ……実にわかりやすくていいな」
 秋乃の反応に、朱麗は満足げに笑う。
「というか、なぜ私は街中でたまたま会ったというだけで喫茶店に連れ込まれているんですか」
「はっはっは、まぁいいじゃないか。死神というものは、仕事をしていない時は結構暇なのだよ」
「私はそんな言うほど暇でもないんですけど……」
 先ほどの言葉のせいか、若干むくれた様子で秋乃が小さく言う。
 それを気にしているのかいないのか、朱麗の方は相変わらず楽しげな笑みを浮かべている。
「まぁそう言うな。せっかくだからアドバイスでもしようと思ったんだよ」
「アドバイス……?」
「仕事柄、他人の恋路に首を突っ込むことが多くてな。何千何万ものカップルを成立させてきた私のアドバイスだ、それなりに信憑性はあるぞ?」
「何千何万……本当ですか?」
 秋乃の興味が動く。
「まぁ、何千何万はさすがに誇張しすぎたがね。百を越えるカップルを成立させてきたことは確かだ」
「……………………」
 あごに指を当て、秋乃は考える。
 が、ものの数秒で答えは出た。
「……お願いします」
 その表情に、先ほどまでのむくれた様子は一切ない。
 冗談を一切含まない、真剣そのものの顔だ。
「ふむ。まずはだな、相手の印象に残ることが第一だ。まぁ、その点では君は既に大丈夫だろうが」
 言われて、考えてみる。
 確かに、彗とはそれなりに様々な場面を共に経験した。
 彗の中に、秋乃の印象は結構強く残っていると考えていいだろう。
 が、しかしその内容は?
 自転車でぶつかってみたり、飛び蹴りを顔面に入れてみたり。
 秋乃の頬を、嫌な汗がつぅと伝う。
「あの……あんまりいい印象持たれてない気がしてきたんですが」
 秋乃の様子に、朱麗はクスリと笑う。
「それは問題じゃないさ。まずは記憶に無ければ話にならんからな。むしろ悪印象を持たれていた方が、ギャップがきいていいかもしれないぞ?」
「な、なるほど」
 メモをとらんばかりの勢いで、秋乃は朱麗の話に聞き入る。
 もっとも、今の話は一字一句余すことなく秋乃の脳に記憶されているため実際にメモをとる必要などはないが。
「で、次に自分を売り込む方法だがね。これには、夢枕に立つのが一番だ。深層心理に、直に印象を植え付けるわけだからな。これはきくぞ」
「夢枕……?」
 秋乃が眉をひそめる。
「あの、夢枕に立つのってどうするんですか……?」
「簡単だ。相手の寝ているところに行って、直接魂に話しかけるイメージで話せばいい。こちらはむき出しの魂なわけだから、たやすく夢に入ることができる」
「むき出し? 魂?」
「さて肝心の告白だが、これは夜道にいきなり現れてやるのがお勧めだ。つり橋効果で、成功率は……」
「あの、朱麗さん」
 調子よく話していた朱麗の言葉を、硬い表情の秋乃が遮る。
「いったい何の話を?」
「む? だから恋愛成就までの……」
 と、そこで言葉を切って朱麗は秋乃の顔をじっと見つめる。
「……………………」
「……?」
 しばらく怪訝な表情の秋乃を見つめた後、朱麗はポンと手を打った。
「そうか、そういえば君は生きていたのだったな」
「今まで私は死んでる扱いだったんですか……」
「はっはっは、すまないな」
「まぁ別に構いませんけど……」
 再び少しむくれた表情になる。
「で? まさか、こっちが幽霊でないとダメなんてことはないんでしょう?」
「無論だ」
 自信ありげに朱麗は頷く。
「相手が見えないことには話にならないからな。まずは相手の墓にお供え物などを……」
「あの!」
 今度は早期の段階で言葉を遮る。
「昇神先輩も、生きてるんですが」
「む……」
 そうだったな、といった表情で朱麗は言葉を切る。
「……………………」
「……………………」
 少しの沈黙。
 秋乃が何かを口にしようとしたところで。
 朱麗が、ふ……と笑った。
 それはそれは清々しい爽やかな笑みで。
「生きている人間同士は、私の専門外だ」

 秋乃の恋愛成就は、まだまだ遠そうだった。