「あの……真さん、実は折り入って話があるんですけど」
 縮こまるような体勢で、かろうじて真に聞こえる程度の声で円花は言う。
 場所は1年6組襟木真机付近、時間は昼休みも終盤に差し掛かろうかという頃。
「ダイエットの話?」
「実は私、最近体重計が……って、なんで話す前から知ってるんですか?」
「なんとなく」
「そうですか……」
 元からそういう性格なのか、それとも語る内容ゆえか、あるいは既に慣れたのか。
 真の”そういう”ところは、軽くスルーする。
「で、ですね。何かいい方法を知りませんかね……?」
「ていうか、別に太ってないと思うよ。1週間前からしたら確かに500gほど増えてるけど、そのくらいはこの世代じゃ……」
「な、なんでそんなことまで知ってるんですか!」
「なんとなく」
「そ、そうですか……」
 明らかに『なんとなく』ではありえないのだが、言ったところでどうしようもないのでやはりスルー。
「いやぁ、彗さんのお弁当がおいしいもんで、ついつい食べすぎちゃうんですよねぇ。今日もちょっと……アレな感じで」
「うん、そろそろ来るだろうと思って用意しといた」
 相変わらず予言者じみた用意のよさで、真はビンを円花に手渡した。
「これは……?」
「香辛料。そのあまりの辛さに食欲は失われ、ついでに新陳代謝が活発になって体重そのものを減らす効果もあるって言われてる」
「わ、もらってもいいんですか?」
「うん。僕も興味深いし」
「?」
「死之神円花さんなら大丈夫だとは思うけど、かけすぎには注意……」
 と、そこで昼休み終了5分前の予鈴が鳴る。
「あ、と。じゃ、私はこれで。どうもありがとうございます!」
 嬉しげな笑みで、円花は自教室に戻っていく。
「あれ? 今の死之神先輩?」
 ほとんど入れ違いで、秋乃が教室に入ってきた。
「何してたの?」
「一振りで人を気絶させる威力があると言われる、伝説の香辛料」
「?」
 唐突な真の独り言のような言葉に、秋乃は首を傾げる。
「僕の予想では、死之神円花さんなら大丈夫なはず」
 そして、真は自前のノートパソンにタイプする。
 『実験開始』、と。


 そして次の日。
「いやぁ、真さんあれおいしいですねぇ。なんかもう、ご飯が進んじゃって進んじゃって。昨日で使い切っちゃいましたよ。もう1個あったりしません?」
「……………………」
「?」
 無表情が、円花を見つめる。
 それに円花が首をかしげた頃、真は昨日と同様ビンを差し出す。
 もっとも、大きさは昨日のものよりも随分と大きいが。
「あ、どうもありがとうございます!」
 満面の笑みで受け取ったところで、予鈴。
「あ、じゃあ私はこれで。本当にありがとうございます!」
 去っていく円花の背中を少しだけ見送り、真はノートパソコンに打ち込む。
 『思ってた以上に大丈夫だった』。


 ちなみに。
 当初の目的が達成されていない。どころか、むしろ逆効果であると。
 そう円花が気付いたのは、真にもらったビンの中身が再び空っぽになる頃だった。