彗くんたち一向は、ついに鬼が島にたどり着きました。
「……………………」
しかしせっかく鬼が島に到着したというのに、彗くんはなぜか不満げです。
「どうしたんですか、彗さん? せっかくの鬼が島です、テンション上げていきましょう!」
「どうしたってお前……」
死神見習いにチラリと視線をやった後、彗くんは後ろを見ました。
一つ「はぁ」とため息を吐いた後、全力でソレを指差します。
「飛行機で鬼が島入りする桃太郎がどこの世界にいるんだよ!」
彗くんの後ろにあるのは小型ジェットでした。
無表情の持ってきたオーバーテクノロジーの産物が変化したものです。
最初の方こそ馬車でちんたら走っていた一行ですが、しばらくして無表情が(勝手に)小型ジェットに変化させ飛んでいったのです。
着陸場所があるのかどうかは心配されていましたが、鬼が島にはちゃんと空港も整備してあり、結果的には無用の心配だったようです。
「平行世界のどこかにはジェットで鬼が島入りする人もいるんじゃない?」
「いねぇよたぶんそれが桃太郎である限り!」
「ていうか彗さん、桃太郎じゃなく彗さんじゃないですか」
「ぐ……桃から生まれたのに桃太郎って名前をつけてもらえなかったんだから仕方ないだろ……」
痛いところを突かれ、彗くんのトーンが若干下がります。
しかし、今更朱麗さんのネーミングセンスを恨んだところで仕方はありません。
彗くんたち一向は、鬼が島の奥の方に進んでいくことにしました。
「しかし、このメンツで本当に大丈夫なんだろうか……」
成り行き上鬼が島にきてしまったはいいものの、彗くんは後ろを振り返ります。
ついてくるのは、死神見習いと無表情でした。
犬・猿・雉にかすってもいない上、一匹分足りません。
あるいは小型ジェットが雉に相当するとでもいうのでしょうか。
飛ぶ以外何の接点もありませんし、生き物ですらもないというのに。
さてそんなことを考えながら進んでいるうちに、一向はどうやら鬼の集落らしいところに到着しました。
「んな……!?」
その場にあったのは、凄惨な光景でした。
この世のものとは思えない地獄絵図に、彗くんも思わず息を詰まらせます。
「た……助けて……」
彗くんたちに気付いたのか、一人が助けを求め手を伸ばします。
この島の本来の主たる……鬼、が。
「ん。なんだ、ようやく着いたのか」
死屍累々たる鬼たちの中心に立つのはただ一人でした。
紅く染まったその身体に、しかし自身の血は一滴たりとも混じってはいません。
しかしそれでも、その凄惨たる場面に一人立ち、それどころか恐らくはその光景を作り出した本人であろうというのに。
その美しさは何ら損なわれるどこか、むしろ一層輝いて見えたのです。
「やぁ、彗君。遅かったじゃないか」
そこに立つのは家で彗くんの帰りを待っているはずの死神、朱麗さんでした。
彗くんたちの姿を発見し、にこやかに手など振っています。
そこで、彗くんはようやく自我を取り戻したのです。
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? なんでこんなところに!?」
「走ってだ」
「手段じゃねぇよ!」
朱麗さんは死神なので、普通の人よりも何倍も早く走ることができるのです。
その気になれば、途中で小型ジェットを使ったとはいえそれまでちんたら歩いてきた彗くんを追い抜くことは容易かったのでしょう。
「なぜに鬼が島にいるんだよ!」
「うむ、やはり私も鬼退治とやらに参加しようと思ってな。なにせ、フィナーレも私がいなければ締まるまい」
ふふ……と笑い、朱麗さんはビシッと先を指差します。
「さて、では行こうか。いざ鬼退治!」
「いや、鬼全部あんたが退治しちゃってるじゃん!」
「む……?」
彗くんの言葉に、朱麗さんは小さく首をかしげました。
「私が? いつそんなことをしたんだ?」
「恐らくついさっきだよ! あんたの足元に転がってんのが鬼だから!」
「む……」
朱麗さんは、再び短くうなって足元を見ました。
なるほど、確かに足元に転がっているのは赤かったり青かったりで頭に角が生えている人型の物体です。
しばらくそれを見つめた後、朱麗さんはポンと手を打ちました。
「なるほど、これが鬼だったのか」
「気付いてすらなかったの!? じゃあなんで全滅させちゃってんだよ!」
「とりあえず、鬼を倒す前の準備運動に……と思ったんだが。まさか、こんなのが鬼だったとはね」
「あんたの中で鬼はどんだけの戦闘力持った民族だったんだよ!」
「ふむ……しかし、やはり鬼退治は君がやらねば物語を終えることもできないしね……よし」
朱麗さんは数歩進み、倒れている鬼の頭をガッシと掴みました。
先程彗くんに助けを求めていた鬼です。
「ひっ!?」
朱麗さんに頭を掴まれ、鬼は赤オニなのに真っ青になりました。
朱麗さんはそんなことを気にすることもなく、鬼を彗くんに突き出します。
「さぁ彗くん、退治するがいい」
「いや、それもう完全に退治されてるだろ!」
「安心するがいい、たぶんとどめを刺した者に一番多く経験値が入るシステムだ」
「経験値の問題じゃねぇよ! ていうか経験値とかもらえないし!」
「まぁ遠慮するな」
「遠慮とかじゃ……ぐほぁ!?」
朱麗さんは、彗くんに向かって鬼を投げつけます。
軽く投げたように見えてえらいスピードで射出された鬼は彗くんにぶつかり、双方もんどり打って転がります。
「よし、これで鬼退治は完了、と」
「おーい、こんなんあったでー」
何かをやり遂げた表情で朱麗さんが満足げに頷いた時、奥の方から聞こえてきたのはカプタインさんの声でした。
姿を現したカプタインさんは、大きなリアカーを引いています。
そしてそのリアカーには、金銀財宝が沢山積まれていました。
「ほほぅ、なかなかいいものが落ちているもんだな。さすがはラストダンジョン。遠慮なくもらっていくとしよう」
「勝手に乗り込んで行って財産奪っていくって、完全に強盗じゃねぇか! しかも相当性質悪いぞ!?」
「失礼な。ダンジョンに落ちているものを貰えるのは勇者の特権だろう」
「落ちたんじゃなくて鬼が溜めてたものだろ! そしていつから勇者になったんだよ!」
彗くんの必死の正論を、朱麗さんは右から左へと聞き流します。
「さて……それでは最後に一つ」
朱麗さんは足元に目をやりました。
そこには、気の毒なことにこのタイミングで目を覚ましてしまったらしい鬼がいました。
必死に気絶したふりをしていようといたらしいですが、朱麗さんは全てお見通しだったのです。
鬼の耳に口を近づけ、朱麗さんは静かに。
しかしゾッとするような冷たい声で言います。
「もしも次に人を襲うようなことがあれば……わかっているね?」
「は、はい!」
あまりの恐怖ゆえか、鬼はそれだけ言って再び気絶してしまいました。
そんな鬼をポイと捨て、朱麗さんは満足げに頷きます。
「うむ、これで一件落着だな」
「なんか、子供に聞かせられない話になってしまった気がするんだが……」
とにもかくにも、これっきり鬼が都で暴れるようなことはなくなりました。
こうして、鬼を退治した朱麗さんたちは(鬼の財宝を持って)家に帰りました。
それから宣言通り一生ついてくるつもりらしい死神見習い、なぜだかはわからないけれどついてきた無表情と共に、みんなは末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
「いや俺の活躍とかは!?」
めでたしめでたし、なのでした。
お わ り