昔々あるところに、朱麗さんとカプタインさんが住んでいました。
「ふむ……なぜ私がお婆さん役なんだ?」
「そら、やっぱ年長組やからちゃう?」
「ん……? む……そういえば、私は生きてる中じゃ歴代登場人物で最年長か」
「そゆこと」
「なるほど」
 朱麗さんが納得したところで、カプタインさんは山にラーメン屋のバイトに、朱麗さんは川に霊を成仏させに行きました。
 朱麗さんが川の付近でターゲットを探していると、どんぶらこ、どんぶらこ、と川から大きな桃が流れてきました。
 しかし朱麗さんは、川から流れてきた桃を食べようとするほどさもしくはありません。
 カプタインさんの昔の蓄えにより、朱麗さんは比較的裕福な暮らしをしていたからです。
 第一川から流れてきた桃など、どんな雑菌や寄生虫が付着しているかわかったものじゃありません。
 しかし、朱麗さんは流れてきた桃を拾い上げました。
「ふむ……川に生ごみを捨てるとは、けしからんな」
 なぜならば朱麗さんは、積極的に公園の掃除なんかをすることはないものの、たまに気が向けばそこら辺に落ちているゴミをゴミ箱に捨てる程度にボランティア精神溢れるタイプの死神なのです。
 朱麗さんは、拾った桃を家に持って帰ることにしました。
 なぜならば今日は月曜日。
 ここら辺の普通ゴミの回収日が水曜日であることを、朱麗さんは知っていたのです。
 そこらのゴミ箱に捨てて帰っては、ゴミの回収車が来る前に桃が腐って異臭を放ってしまうかもしれません。
 それではご近所の方に迷惑がかかってしまいます。
 朱麗さんは、ご近所への気遣いも忘れないタイプのできた死神さんなのです。
 桃を持ち帰ることを正当な理由として、朱麗さんはさっさと仕事を切り上げ帰ることにしました。
 そこら辺が自営業の強みです。
 朱麗さんが家に帰ると、客が来ないことを理由にさっさと店を閉めてきたらしいカプタインさんが既に帰っていました。
 そこら辺が田舎のお店のいい加減なところです。
 ただしカプタインさんはただのバイトであり勝手に店を閉める権利など存在しないのですが、それはまた別のお話ということでした。
 とにもかくにもカプタインさんは、お土産代わりとばかりに大きな桃を持ってきた朱麗さんに大層驚きました。
 それはそうです。
 仕事を早引きした上、びしょ濡れになった桃を持って帰ってくるなど正気の沙汰とは思えません。
「何なん、そんな桃なんて持って帰ってきて。もしかして、トチ狂った?」
 そしてカプタインさんは、自分の感情を素直に表現するタイプの人間でした。
 しかし朱麗さんも、その程度で怒るほど心の狭い死神ではありません。
「いや何、君に食べてもらおうと思ってね」
 朱麗さんの復讐はせいぜい、あからさまに安全性の確認がとれていない桃を食べさせようという、とてもささやかなものでした。
 もちろん、朱麗さんに殺意などはありません。
 もし命に関わるような症状が出たならば、ちゃんとお医者さんを呼んであげようと思っていた程です。
「でもそれ、めっちゃ濡れてない?」
「はは、それはさっき川で洗ってきたからさ。やはり衛生面が不安だからね」
 朱麗さんは、即座に鮮やかな言い訳を何のうそ臭さもなく言い切りました。
「いや、でもなんか嫌な感じがすんねんけど」
「気のせいだろう。ほら私が切ってあげるから、食べるといい」
 有無を言わさず、朱麗さんは死神の鎌を手の中に出現させました。
 とりあえず勢いで、考える前に食べさせてしまおうという作戦です。
 朱麗さんは実は策士だったのです。
「ではいくぞ……ふっ!」
 まるで人を相手にするように、朱麗さんは全力で鎌を振り抜きました。
 それは、朱麗さんなりの桃に対する敬意の評し方なのです。
 拾ってきた桃といえども大地の恵み、朱麗さんは決して蔑ろにはしないのです。
 中に人が入っていたときのことなど、考えもしません。
 それはそうです、桃の中に人など入っているはずがないのですから。
「お……?」
 しかしなんということでしょう。
 朱麗さんは、桃の中に赤ん坊を発見したのです。
 赤ん坊は、桃の中で限界まで縮めて鎌の軌道をギリギリで避けていました。
 赤ん坊はほんぎゃあと泣くことさえも忘れたように朱麗さんを見つめています。
 朱麗さんはふと、赤ん坊の目に驚きと恨みの混じったような感情が宿っている気がしました。
 しかしそれはきっと、危うく赤ん坊を切り裂くところだったという罪悪感が作り出した幻想に違いありません。
 だってもし悪者を探すのだとすれば、それは桃を全力で切り裂いた朱麗さんではなく、世間一般の常識も考えず桃の中などに入ってた赤ん坊の方なのですから。
 それなのにさも自分が悪いかのように心を痛める朱麗さんは、なんと心優しいのでしょう
 実際はきっと、赤ん坊は幼いながらに朱麗さんの美しさに見とれてしまっていたに違いありません。
 朱麗さんは村でも評判の美人さんなのです。
「ふむ……そうだな、君を彗君と名づけよう」
 朱麗さんは、すぐさま赤ん坊の名前を決めました。
 桃から赤ん坊が生まれたことなど歯牙にもかけません。
 朱麗さんは、生まれがどうであろうと差別をするような心ない死神ではないのです。
「うん、えーんちゃう? よろしくな、すーやん」
 カプタインさんも、あっさりと承諾して赤ん坊……彗君に、笑いかけました。
 カプタインさんの場合は、単に性格が大雑把なだけです。
 こうして、満場一致で彗君は朱麗さんとカプタインさんに育てられることになりました。
 もちろん彗君本人の了承をとったわけではありませんが、もし問うたところできっと彗君も了承の返事を返したに違いありません。
 その証拠に、朱麗さんの腕の中にいる彗君はとても幸せそうな顔をしています。
 もしもその表情が引きつっているように見えたなら、それはきっとあなたの心が汚れているからでしょう。
 しかし実はこの彗君こそが、後に鬼退治に行くことになる悲しき宿命を背負った赤ん坊なのでした。




つづく(かもしれない)