「すーいちゃん、お買い物行ってきてちょうだいな。豆腐と糸蒟蒻。特価品のやつね」
「あいよー」
 そんなやり取りを経て、買い物に出た彗。
 無事に買い物を終えた、スーパーからの帰り道である。
「ん……」
「あれ?」
 双方、同時に気付いた。
「昇神先輩!」
「よ、井上」
 嬉しそうに顔を綻ばせた秋乃に、彗は軽く右手を上げて挨拶する。
「部活帰りか?」
 制服姿の秋乃を見て、そう当たりをつける。
「はい、そうです」
「そか。大変だな」
「いえ、好きでやってることですから」
 そんな雑談の最中、秋乃の目が彗の買い物袋に向く。
 一番上で目立つのは、豆腐と糸蒟蒻だ。
「今夜はスキヤキですか?」
 その食材から思い浮かぶ、最もポピュラーなメニューを口にしてみる。
「ん、そうだよ」
 果たして、彗もあっさりと頷いた。
「いいですねー、スキヤキ」
 ごくごく普通の会話の最中。
 秋乃は、ふと何かに気付いたような表情に。
「そ、そうですかー。スキヤキ、ですかー」
「あぁ」
「スキヤキ、なんですねー」
「……? うん」
 急にモジモジしだし、しかも同じ話題を繰り返す秋乃に、彗は首をかしげた。
「スキヤキ、ですねー」
「うん」
 しかし、秋乃はまだまだ繰り返す。
「スキ、ヤキ、ですよね」
「うん」
 疑問符を浮かべながらも、彗も律儀に返事する。
「スキ! ヤキ! です」
「うん」
 いつの間にやら、秋乃の声は大声と称していいほどに。
 人通りが少ない道だったのが、双方にとって幸いである。
「スキ! ヤキなんですけど」
「うん」
 やがて、最初の部分とは対象的にヤキの部分の声が小さくなっていく。
「スキ!!! ヤキ、なんですけどいいですよね!?」
「は、はい」
 秋乃の勢いに押され、なぜか彗の返答も敬語になっていた。
「……えへへ」
 とても嬉しそうに、秋乃ははにかむ。
「どうもありがとうございました」
「……どういたいしまして?」
 何に礼を言われているのか全くわからず、しかし彗はテンプレ通りにそう応えておいた。
「それでは先輩、失礼しますね」
「ん、あぁ。気をつけて」
「はい」
 踵を返し、秋乃はその場を後にする。
 踊るようにステップを刻み、その歩みは鼻歌と共に。
「言っちゃった~♪ 言っちゃった~♪ いっぱい言っちゃった~♪」
 自作の歌と共に軽やかに、大変楽しそうに秋乃は去っていく。
「……?」
 何のことやらまったくわからず、彗は狐につままれたような表情でそれを見送るのだった。