「なぁ、弓」
「うん?」
 弓の、振り向きざま。
「……っ?」
 グイと、体が彗の方に引き寄せられる。
「すーちゃん……?」
 戸惑った様子で弓は首をかしげる。
「どうかした? もしかして、なんか攻撃とか来てた?」
 キョロキョロと周りを見回す。
 しかし、それらしき攻撃の跡は見当たらない。
「いや、そんなんじゃない」
 あれだけの剣術を駆使しているとは思えないほど細い弓の腰に、彗の腕が回る。
 一方の彗は、トレーニングの成果なのか見た目の印象よりも逞しい。
「それとも、何もないのにこんなことするのは変か?」
「それは……」
 真っ直ぐ弓を見つめる瞳。
 そこに魅入られかけて……ハッとなり、弓は目を逸らす。
「へ、変だよ。絶対変だ」
 その頬には、少し赤みが増していた。
「そうか?」
 彗の指が弓の顎にかかった。
 そして、顔を強制的に彗の方へと向き直らせる。
「あ……」
 再び二人の視線が交差した。
「……やだよ、すーちゃん。からかっちゃ」
 恥ずかしそうに、弓はまた顔を逸らそうとする。
 しかし、顎にかかった彗の指がそれを阻んだ。
 逆らうこともできただろうに、弓はただその強引さに従ってしまう。
「そんなに、おかしいか?」
 一部のふざけた調子もない視線が、弓を射抜く。
「それは……」
 今度は、目を逸らすこともできない。
「それ、は……」
 熱に浮かされたように、弓の目が虚ろとなっていく。
「もしかすると、おかしくない……の、かも」
 その言葉が、最後のキーだったかのように。
 二人の距離は、ゼロへと近づいて……




「!?」
 ガバッと勢いよく弓は身体を起こした。
「……?」
 一瞬状況がわからず、周りを確認する。
 いつもの、自分の部屋だった。
「……なんだ、夢か」
 ほっと弓は胸を撫で下ろす。
「まったく、まいったよ。なんだってあんな夢……」
 苦笑いで、先ほどの夢の内容を思い出す。
 まだ温もりさえも思い出せそうな、夢。
 彗の、温もり。
「あ、はは……あんな、夢……」
 思い出す弓の頬に少し赤みが差し、動悸が速くなる。
 その事実には、当の弓本人さえも気付いていない。
 そして、それが何を意味するのか。
 それは、神でさえも知らない。