http://mobile.nytimes.com/blogs/krugman/2014/05/07/three-charts-on-secular-stagnation/?from=krugman

クルーグマンのblogから。

アメリカで大きな話題となっている「長期的停滞(secular stagnation)」論に対して、クルーグマンが3つのグラフ(チャート)を示し、持論を展開しています。

ひとつ目は、アメリカの実質金利の長期推移。景気のサイクルと共に実質金利は上がったり下がったりしているのですが、平均を取ると低下を続けていることが分かります。
金融緩和論者のクルーグマンですが、「金融緩和が景気を引き上げる力は失われている」ことを認めています。

二つ目のチャートは、アメリカの家計部門の負債率の推移。サブプライムバブルで膨らんだ家計部門の負債は、まだ十分に下がりきっていません。
家計部門の負債は、消費を阻害し、経済成長を阻害します。

最後が、人口動態を示すグラフです。
アメリカは日本と違い、これからも人口が増え続ける国ですが、その増加率は確実に落ちていくことが示されています。
人口増こそ、総需要と総供給を高める経済の妙薬。その妙薬の効果は、アメリカにあっても薄れていきます。

これら3つのチャートを紹介した上で、クルーグマンは、長期的停滞は「起こるだろう」と結論付けています。

これまで、金融緩和&財政政策万能論の立場を取り、それらによってアメリカ経済は第二次大戦後のあの経済成長を再現することすらできる、と主張していたクルーグマン。
しかし、現在の見解は、金融&財政政策では変えられない長期的傾向があることを認めた点で、“水野和夫”的になっています。

経済論戦の中では、クルーグマンの威を借り、水野和夫らの運命論的長期デフレ論を否定するエコノミストも多かっただけに、今回のクルーグマンのコメントにはインパクトがあります。

ある意味で、人口減に起因する長期的停滞をいち早く経験していた日本の方が、クルーグマンより早く、secular stagnationに気づいていたと言えるのかもしれません。

ただし、水野和夫のように金融緩和や財政政策を否定するのもやはり行きすぎでしょう。

金融&財政政策による経済のコントロールは、長期的な環境変化の中でかつてよ効力を失いむつあるものの、止めてしまったら結果は更に悪化します。

この意味で、クルーグマンは依然として金融&財政政策の信奉者であることは間違いないはすです。

問題は、金融&財政政策で、人口減社会の経済をどこまで破綻させずにコントロールしてゆけるか。

今日の日経新聞で、「剣が峰にさしかかった」と評されたアベノミクスは、この難題に世界経済史の最前線で直面しているのだと思います。

いまさら長期的停滞論の深刻さに気づいたクルーグマンを超える知をが、日本人には求められています。