ロートシルトさんが教えてくださった田場先生の普及型指導動画。



この動画のおかげで、「袴腰」と骨盤の前傾・後傾の議論の錯綜の理由がやっと分かりました。

例えば、0:13~0:31まで続く最初の前屈立ち。
これを骨盤の前傾と呼ぶか、後傾と呼ぶかが、錯綜の源です。

骨盤の前傾、後傾を語る前に、「袴腰」かどうか?という視点で見るならば、この前屈立ちは、私が援用してきた太気拳の天野敏先生が紹介されていた「袴腰」そのものです。

「袴腰」とは、元来、腰椎に負担を掛けないよう腰の部分を平らにするために入れる腰板のこと。この腰板により、湾曲する腰椎~仙骨にかけての背骨の並びを真っすぐになり腰椎への負担が軽減されます。湾曲した背骨のまま腰を反らすと腹が緩み上半身の重みを湾曲した腰椎だけで支えることになりますが、腰椎~仙骨にかけての背骨の並びを真っすぐにすると、真っすぐな腰椎が上半身の重みを支えるだけでなく、かすかに緊張する腹が壁になり、やはり上半身の重みを支え、それゆえ、腰椎への負担が軽減します。
ここに由来して、この腰板で作られる平らな腰を「袴腰」と呼ぶようになったようです。

# 吉田始史先生は、この状態を「ウンコ我慢の姿勢」と呼び、
# この姿勢を作るための腰の操作を「仙骨の締め」と呼んでいます。

この「袴腰」は、
・背骨が真っすぐで質のよい中心軸になることや、
・上半身と下半身がしっかりと繋がれることで、下半身で受ける床からの反発力をロスなく上半身に伝えることが可能になること、
・上半身と下半身が繋がって一本の棒(先生によっては箱と呼ぶ)状態になるため、落ちながらぶつかる場合にも全身の重みを乗せることができること(動画の下段払いはまさにそれ)
などから、武術的に非常に重要な腰の在り方になります。
(逆に言えば、腕を飛ばし、腕の重さだけでインパクトを出すような手技では、袴腰で突く意味はあまり無いとも言えるでしょう。)


さて、そろそろ、骨盤の前傾、後傾との関係です。

こうした「袴腰」の状態は、よく骨盤の後傾と言われます。
直立した状態で「袴腰」の状態を取ると、尻側が下がり臍側が上がり、骨盤が後ろに傾いた状態になるからこその命名です。

私としては、非常に分かりやすい客観的な表現だと思っていたのですが、この表現が分かりやすいのは、直立姿勢の時のみ。上の動画の0:13~0:31まで続く最初の前屈立ちのように体そのものを傾けてしまうと、直立姿勢を前提に語られた骨盤の「前傾」「後傾」という表現は意味をなさなくなります。

この前屈立ちでは、身体を傾けているために、外から見ると骨盤が「前傾」しているように見えるのです。しかし、腰椎~仙骨にかけての背骨の並びは、まさに「袴腰」であり、直立姿勢を前提に語られた場合の骨盤の「後傾」に他ならないのです。

床に対して骨盤は前傾しているけど、直立姿勢基準での命名された呼び名では骨盤の後傾に当たる。
この厄介な関係こそが、「袴腰」と骨盤の前傾・後傾の議論の錯綜の根源だったと言えます。

骨盤の前傾、後傾は、優れた表現だと思っていましたが、思わぬ落とし穴があるものですね・・・。

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もしかしたらまだ誤解や理解の捻じれはあるかもしれませんが、今は「分かったどー!」とスッキリした気分です。