天然の赤血球より優れた人工の「超赤血球」が開発される





人工赤血球は天然の赤血球に似た構造をとる。左は天然赤血球、真ん中はシリカを塗布した赤血球、右はポリマーを塗布した赤血球/

自然な赤血球と同じサイズ・形状・柔軟性を持つ人工の赤血球が開発された
人工赤血球はモジュールを変更することで酸素以外の積み荷を運搬可能である
人工赤血球に改造ヘモグロビンを搭載すれば人間の運動能力を飛躍的に高められる
赤血球は血液の赤色の主成分で、血液をなめた時に感じる鉄の味の原因物質でもあります。

その役割は、柔軟な性質を活かし、体の隅々まで張り巡らされた毛細血管に入り、細胞に酸素を届けることです。

研究者たちは長年、この赤血球の持つ運搬能力を模倣する、人工赤血球の開発に取り組んできました。

なぜなら、赤血球の酸素運搬能力を模倣できれば、酸素の代わりに薬剤を運ばせて癌細胞を攻撃したり、極小の磁石を散りばめることで血流の自在な調整が可能になるからです。

しかし、これまで作られていた人工赤血球は、運搬能力は備えているものの、毛細血管に入り込む柔軟性に欠けていました。

ですが今回、米国DARPA(国防高等研究計画局)傘下の空軍研究室と中国政府の支援を受けた研究者たちによって、実際の赤血球のような柔軟性を持ち、アタッチメントを変更することで酸素以外にも様々な物質を運搬可能な、モジュール式の人工赤血球(超赤血球)が開発されました。

また研究では実際にモジュールを変更を実演し、超赤血球に抗がん剤、毒素センサー、磁性ナノ粒子、ヘモグロビンなどを搭載し、輸送できることも実証したとのこと。

研究成果がもたらす多大な影響と、2つの国の当局からの綱引きのような支援の行く末はどうなるのでしょうか?



人工赤血球のベースを作る

人工赤血球の製造過程



赤血球の持つ高い柔軟性を模倣するために最適な人工物質は、高分子ポリマーです。

しかし現在の技術では、大量の高分子ポリマーを赤血球のサイズに加工し内部を空洞にするのは困難です。

そこで研究者はまず、天然のヒト赤血球をシリカ(SiO2)でコーティングしておわん型の鋳型を形成し、その上に高分子ポリマーを塗りつけることにしました。

高分子ポリマーが安定したあと、そのシリカと赤血球を除去することで、赤血球と同じサイズと同じ柔軟性を持つレプリカを手に入れました。

そして最後にレプリカの上に、断片化させた赤血球の膜を張り付けました。


人工赤血球は毛細血管内部でもスムーズに流れることができる/Credit:ACS Publications
こうして出来上がった人工赤血球は天然の赤血球と同じサイズ、形状、表面タンパク質を持ち、狭い毛細血管の中でも変形しながら通過することができました。

人工赤血球を多機能化する

人工赤血球は本物のように滑らかに流れ、酸素だけでなく様々な積み荷を運べる



ベースとなるレプリカが完成すると、次に研究者は人工赤血球にヘモグロビン、薬物、磁性ナノ粒子、ATPバイオセンサーといった機能的な積み荷を積み込みました。

天然の赤血球はヘモグロビンしか搭載できませんが、人工赤血球は表面構造や充填物を調整することで様々な積み荷と結合、あるいは積載が可能になります。

そしてこれらの積み荷は、人工赤血球に載せられ、毛細血管の先まで到達させることが可能です。

マウスを用いた生体実験では、人工血液は48時間にわたり効果を発揮し、長期(4週間)にわたって無害であることも判明しました。

人工赤血球によ寄せられている期待は大きなものです。

人工赤血球の積み荷に致死性の高い毒素を入れれば、癌細胞や感染症と戦うことも可能になります。

医療目的以外にも、酸素運搬能力を向上させた改造ヘモグロビンを人工赤血球に載せることができれば、アスリートや兵士の身体機能を一時的に増加させられる他、高機動によって生じる高Gでも失神しにくくなります。

アメリカ空軍が研究を支援している理由は、もしかしたらこの辺りにあるのかもしれません。

一方で、犯罪者の手に渡れば危険が増すでしょう。

人工の超赤血球を接種した犯罪者の身体能力が飛躍的に上昇すれば、警察の取り締まりにも支障が出るからです。

人工赤血球が人類にとって、正しく使われることを願うばかりです。

研究内容はアメリカ、ニューメキシコ大学のジミン・グオ氏らによってまとめられ、5月11日に学術雑誌「ACS Publications」に掲載されました。