
高齢者における皮膚脆弱性には、全身的なフレイルが関連している。フレイルは、基礎疾患以外にも複合的な要因によって生じ、早期の介入により予防できる。淑徳大学看護栄養学部准教授の飯坂真司氏らは、フレイル高齢者における皮膚の脆弱化をフレイルの表現型の1つである「スキンフレイル」と捉え、その程度を評価するツールを開発し、第49回日本創傷治癒学会(2019年12月11~12日)で紹介した。医療専門用語を用いず、「はい」「いいえ」で簡便に回答できるため、専門職のみでなく高齢者自身も利用できる。そのため、スキンフレイルへの早期からの啓発に役立てることが期待できるという。
スキンフレイルにならないよう予防、対策が重要
スキンフレイルとは、「乾燥や粘弾性低下などを複合した状態であり、創傷などの皮膚障害に対する脆弱性が増加した状態」のこと。老人性紫斑などの高リスクの前病変の、さらに前段階と位置付られる。そこに外力がかかることでスキン-テアなどの創傷が生じる。
飯坂氏は「従来の創傷ケアでは前病変の高リスクの段階で介入して創傷予防を行ってきたが、今後は皮膚の機能を維持・向上させ、スキンフレイル自体を予防する、重症化させないという一次(初発)予防中心の対策が必要になってくる」と述べた。
背後にある全身状態を見る
「皮膚の脆弱化を理解するには単一の症状のみでなく、複合的な皮膚機能の低下に着目しなければならない。また、局所ケアだけでなく全身的な管理・フレイル対策が重要である」と、飯坂氏は主張する。
こうした考えの下、同氏らは全身状態であるフレイルと皮膚の関係性を明らかにするため、地域高齢者(自立~要支援)を対象に調査を行った。
その結果、フレイル高齢者の皮膚では粘弾性が低下し菲薄化していること、保湿剤の非使用や過度の入浴習慣以外に、1年以内の入院、角質水分量低下の危険因子となることなどが示された。同氏は「スキンフレイルでは、その背後にある全身状態を診ることが重要。フレイル予防には、地域住民を主体とした体力測定会での肌状態のチェックが有用である。特に男性ではスキンケアへの関心が低いため啓発が有効」と付言した。
高齢者自身も理解できる10項目のチェックリスト
スキンフレイルは従来、角質水分量や経皮水分蒸散量、皮膚粘弾性の測定値、もしくは皮膚画像による評価が行われている。しかし、飯坂氏は「いずれも機械を用いた方法。創傷の前段階の病変だけでなく、日常的にフレイル状態を評価できるツールが必要である」と考えた。そこで同氏らは、チェックリストに高齢者自身が回答することで皮膚の乾燥、粘弾性などの複合的な症状を評価できるスクリーニングツール(スキンフレイルチェックリスト:SFC)を開発し、その妥当性を評価した。
チェック項目は、「はり低下」に関する4項目と「乾燥」に関する6項目の計10項目。紫斑を「紫色のアザ」、鱗屑を「白い粉」などと言い換えることで医療専門用語の使用を避けた。設問には「はい(1点)」「いいえ(0点)」で回答する(10点満点)。合計の点数が高いほどスキンフレイルが進行していると評価する(表)。
表. スキンフレイルチェックリスト

(飯坂真司氏提供)
SFCの妥当性は、同一症例において専門家がチェックした結果と機械による測定値を比較して検討した。その結果、「はり低下」と皮膚粘弾性、「乾燥」と角質水分量ともに関連性が確認できた。
同氏らはSFCを用いて全身状態におけるフレイルとスキンフレイルの関係も検討している。フレイル群では健常群と比べてSFC「はり低下」項目の得点(P=0.019)とSFC合計点(P=0.036)が有意に高かった。以上の結果から「SFCはフレイルの進行から来るスキンフレイル状態を反映するツールだ」と同氏は主張する。
なお、高齢者では老眼などの視力低下による過小評価が起こりうるため、正確に評価してもらうには看護師などの専門職と高齢者自身が一緒にSFCを行う環境が望ましいという。
SFCの信頼性については、評価者内では、高い再現性が得られている。一方、評価者間(研究者-学生間)でも適度~十分な一致率が得られている。
早期の栄養管理によりスキンフレイルを予防
飯坂氏は食事摂取量とスキンフレイルの関連にも着目している。地域高齢者(自立~要支援)85例を対象に横断調査を行い、習慣的な食事の摂取量と下肢の皮膚の関連性を検討したところ、ビタミンC(相関係数0.25、P=0.023)、α-トコフェロール(ビタミンE、同0.29、P=0.007)、果物(同0.37、P<0.001 )は、真皮の20MHz超音波画像の平均輝度(真皮密度を反映)との間に相関が認められた。「ビタミンC、ビタミンEは抗酸化ビタミンといわれている。食事からの抗酸化ビタミン摂取は真皮の密度に関連している可能性がある」と同氏は指摘。他因子による影響も考えられるが、同研究の結果からは、スキンフレイル予防に早期の栄養管理が必要である可能性が示されたという。
さらに同氏らは、栄養補助食品摂取による皮膚脆弱性改善効果に関する検討を紹介。非盲検ランダム化比較試験で、対象は回復期リハビリテーション病棟に入院中の65歳以上の患者39例。通常通りの食事・栄養ケアを行う通常ケア群19例と、コラーゲンペプチド10 gとビタミン・微量栄養素配合飲料を1日1回摂取する介入群20例に割り付け、8週間追跡した。介入開始から8週後まで隔週で皮膚の評価を行ったところ角質水分量、粘弾性ともに、介入群では通常ケア群と比べて有意な改善が認められた。同氏は「少なくとも1カ月以上の継続が必要だが、コラーゲンペプチドと微量栄養素配合飲料によりスキンフレイルが改善し、将来的にはスキン-テアの予防につながる可能性がある」と言う。
以上を踏まえ、同氏は「入院する前からのスキンフレイルの啓発が重要。スキンフレイルの予防にはスキンケア・栄養・リハビリテーションによる総合的な介入が必要である。SFCについては、今後、改善が必要な点もあるが、こうしたツールをきっかけにスキンフレイル啓発に努めていきたい」と締めくくった。