研究の背景:1997年と2009年の比較で1,000歩程度減少していた
わが国では2005年にメタボリックシンドロームの診断基準が固まると、厚生労働省が「健康づくりのための運動指針(エクササイズガイド)2006」を作成し、週に23Mets・時の身体活動を推奨した。それは日本人の身体活動量の低下があるからであり、健康日本21の最終評価において、1997年と2009年の比較で1,000歩(10分)程度の身体活動量の低下が示されていた(男性8,202歩→7,243歩、女性7,282歩→6,431歩)。そこで、同省は2013年に「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)2013」を作成し、+10(あと10分、毎日身体活動を増やしましょう)という運動を展開してきた。
このたび、2016年までの国民健康・栄養調査における身体活動量が報告され、残念ながら2013年以降、歩数が増加しているわけではないことが示された(Med Sci Sports Exerc 2019; 51:1852-1859)。わが身を振り返っても身体活動量が減っていることは否めず、自戒の念をもってご紹介したい。
研究のポイント1:国民健康・栄養調査のデータ
国民健康・栄養調査は1945年から厚生(労働)省が継続して実施している調査であり、日本全国の300地区程度の調査データを基に、日本人全体の身体状況、栄養摂取、生活習慣について検討・報告している(論文中には1945年からとあるが、厚労省の公式サイトでは1947年以降のデータが開示されている)。
歩数計の調査は1989年の同調査に盛り込まれているが、現在の歩数計(Yamasa社製AS-200)を用いた調査は1995年から導入されている。今回の論文は、その調査のデータを東京医科大学の(予防医学)公衆衛生学教室のグループがまとめたものである。
歩数データは1995年の分布を基準として年齢による調整を行っており、19歳以下のデータは採用していない。
研究のポイント2:日本人の歩数は継続して低下していることが判明
1995~2016年に国民健康・栄養調査の対象となった28万6,704人のうち、24万3,814人(85.4%)が歩数計調査に参加した。19歳以下、妊婦、授乳婦、歩数が100歩未満および5万歩以上の人を除外して、19万6,642人(男性9万657人、女性10万5,985人)が解析の対象とされた。
そして、歩数についての結果は表に示すようなものであり、日本人の歩数は継続して低下していることが判明した。
表.日本人の歩数の推移

例えば、1995年当時、8,000歩弱だった男性の1日歩数は2013年時で7,500歩程度であり、2016年においては7,000歩強となっている。1日の歩数が1万歩以上の人の比率も1995年当時は30%弱だったものが、2013年時で20%強となり、2016年には20%を下回っている。逆に1日の歩数が5,000歩未満の人の比率は、1995年当時は30%弱であったが、2013年には30%台半ばであり、2016年には40%弱まで増加している。日本人はどんどん動かなくなっているのである。
この1日の歩数の推移を年齢層別に示したのが図である。
図.年齢層別に見た1日の歩数の推移

(表、図ともMed Sci Sports Exerc 2019; 51:1852-1859)
論文の著者たちは、2008年ごろまでは男女ともに1日の歩数を減らしているが、それ以降は日本人の歩数の減少は明らかではなくなっていると希望的な結論を述べている。
私の考察:残業が減って身体活動量が増加するか?
図を見て明らかなのは、男女ともに20歳代から60歳代までの世代が歩数を継続して減らしてきているのに対して、元来、歩数が少ない世代である70歳代が歩数を維持していることである。歩数の多い人たちが選択されて生き残るようになったという可能性はゼロではないが、日本人の平均寿命が延びていることを考えると、実際にその世代だけは歩数を増やしているのであろう。
20~60歳代と70歳代の相違は、労働に携わっているかどうかである。健康日本21の報告においても、運動しない理由として、時間の不足や仕事・家事での疲労が挙げられていたようである。そのように考えると、2019年4月1日に施行された働き方改革関連法に伴い、今後残業が減り、時間的・体力的に身体活動に向かう余力が労働者でも増加し、身体活動量が増加するであろうか。まずは、これからの数年の身体活動量の変化に要注目である。
それともう1点、身体活動量を増加させるためのポイントとして個人的に思うことを挙げたい。ここ数年、テレビや街頭宣伝車でタレントが美しいボディに変わる様子を介入前後の写真で示すことで、その効果を「結果にコミット」とうたったスポーツクラブがある。この企業は「健康になる」ことではなく、「格好良くなる」あるいは「美しくなる」ことを示すことで、高額な会費であっても相当数の顧客集めに成功した(している)ようである。
これまでわれわれ医療従事者は、「運動しないと病気になる」「運動すれば病気が良くなる」という指導で、一般人の健康増進や有疾病者の疾病治療に運動療法を持ち込もうとしてきた。しかし、それではどうもうまくいかないように思う。医療機関が運動療法を推奨・指導するに当たって(あるいは国が国民の身体活動量を増やそうとするに当たって)、「格好よくなる」あるいは「美しくなる」ことをうたうのは下品と思う方もいるかもしれない。しかし、動機はどうであれ、身体活動・運動はそれを増やした者勝ちである。医療機関でも(国家でも)、「かっこ良くなろう」「美しくなろう」、そうしたうたい文句、釣り言葉で患者(国民)を運動に巻き込んでいければと思う。
わが国では2005年にメタボリックシンドロームの診断基準が固まると、厚生労働省が「健康づくりのための運動指針(エクササイズガイド)2006」を作成し、週に23Mets・時の身体活動を推奨した。それは日本人の身体活動量の低下があるからであり、健康日本21の最終評価において、1997年と2009年の比較で1,000歩(10分)程度の身体活動量の低下が示されていた(男性8,202歩→7,243歩、女性7,282歩→6,431歩)。そこで、同省は2013年に「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)2013」を作成し、+10(あと10分、毎日身体活動を増やしましょう)という運動を展開してきた。
このたび、2016年までの国民健康・栄養調査における身体活動量が報告され、残念ながら2013年以降、歩数が増加しているわけではないことが示された(Med Sci Sports Exerc 2019; 51:1852-1859)。わが身を振り返っても身体活動量が減っていることは否めず、自戒の念をもってご紹介したい。
研究のポイント1:国民健康・栄養調査のデータ
国民健康・栄養調査は1945年から厚生(労働)省が継続して実施している調査であり、日本全国の300地区程度の調査データを基に、日本人全体の身体状況、栄養摂取、生活習慣について検討・報告している(論文中には1945年からとあるが、厚労省の公式サイトでは1947年以降のデータが開示されている)。
歩数計の調査は1989年の同調査に盛り込まれているが、現在の歩数計(Yamasa社製AS-200)を用いた調査は1995年から導入されている。今回の論文は、その調査のデータを東京医科大学の(予防医学)公衆衛生学教室のグループがまとめたものである。
歩数データは1995年の分布を基準として年齢による調整を行っており、19歳以下のデータは採用していない。
研究のポイント2:日本人の歩数は継続して低下していることが判明
1995~2016年に国民健康・栄養調査の対象となった28万6,704人のうち、24万3,814人(85.4%)が歩数計調査に参加した。19歳以下、妊婦、授乳婦、歩数が100歩未満および5万歩以上の人を除外して、19万6,642人(男性9万657人、女性10万5,985人)が解析の対象とされた。
そして、歩数についての結果は表に示すようなものであり、日本人の歩数は継続して低下していることが判明した。
表.日本人の歩数の推移

例えば、1995年当時、8,000歩弱だった男性の1日歩数は2013年時で7,500歩程度であり、2016年においては7,000歩強となっている。1日の歩数が1万歩以上の人の比率も1995年当時は30%弱だったものが、2013年時で20%強となり、2016年には20%を下回っている。逆に1日の歩数が5,000歩未満の人の比率は、1995年当時は30%弱であったが、2013年には30%台半ばであり、2016年には40%弱まで増加している。日本人はどんどん動かなくなっているのである。
この1日の歩数の推移を年齢層別に示したのが図である。
図.年齢層別に見た1日の歩数の推移

(表、図ともMed Sci Sports Exerc 2019; 51:1852-1859)
論文の著者たちは、2008年ごろまでは男女ともに1日の歩数を減らしているが、それ以降は日本人の歩数の減少は明らかではなくなっていると希望的な結論を述べている。
私の考察:残業が減って身体活動量が増加するか?
図を見て明らかなのは、男女ともに20歳代から60歳代までの世代が歩数を継続して減らしてきているのに対して、元来、歩数が少ない世代である70歳代が歩数を維持していることである。歩数の多い人たちが選択されて生き残るようになったという可能性はゼロではないが、日本人の平均寿命が延びていることを考えると、実際にその世代だけは歩数を増やしているのであろう。
20~60歳代と70歳代の相違は、労働に携わっているかどうかである。健康日本21の報告においても、運動しない理由として、時間の不足や仕事・家事での疲労が挙げられていたようである。そのように考えると、2019年4月1日に施行された働き方改革関連法に伴い、今後残業が減り、時間的・体力的に身体活動に向かう余力が労働者でも増加し、身体活動量が増加するであろうか。まずは、これからの数年の身体活動量の変化に要注目である。
それともう1点、身体活動量を増加させるためのポイントとして個人的に思うことを挙げたい。ここ数年、テレビや街頭宣伝車でタレントが美しいボディに変わる様子を介入前後の写真で示すことで、その効果を「結果にコミット」とうたったスポーツクラブがある。この企業は「健康になる」ことではなく、「格好良くなる」あるいは「美しくなる」ことを示すことで、高額な会費であっても相当数の顧客集めに成功した(している)ようである。
これまでわれわれ医療従事者は、「運動しないと病気になる」「運動すれば病気が良くなる」という指導で、一般人の健康増進や有疾病者の疾病治療に運動療法を持ち込もうとしてきた。しかし、それではどうもうまくいかないように思う。医療機関が運動療法を推奨・指導するに当たって(あるいは国が国民の身体活動量を増やそうとするに当たって)、「格好よくなる」あるいは「美しくなる」ことをうたうのは下品と思う方もいるかもしれない。しかし、動機はどうであれ、身体活動・運動はそれを増やした者勝ちである。医療機関でも(国家でも)、「かっこ良くなろう」「美しくなろう」、そうしたうたい文句、釣り言葉で患者(国民)を運動に巻き込んでいければと思う。