元には戻らない。
近年、高齢者におけるスポーツへの関心の高まりを背景に、人工膝関節置換術(TKA)術後もスポーツ活動の継続を希望する患者が増えている。しかし、動作時の違和感や疼痛など、術後スポーツ活動のマネジメントには課題も多い。九州大学整形外科学教室の濵井敏氏は第49回日本人工関節学会(2月15〜16日)で、TKA術後のスポーツ活動の現状と課題について説明した。
術後患者の90%がスポーツを重視
TKAの術後に、どの程度の患者が実際にスポーツ活動を希望しているのか。濵井氏は、2013〜15年に九州大学整形外科でTKAを受けた96例110膝〔平均年齢74±8歳(標準偏差、以下同)〕を対象に、重要と思うスポーツ・娯楽活動についてアンケートを実施。その結果、ストレッチ、ガーデニング、ウォーキングなど低負荷の活動を中心に90%が重視していた。
併せて、膝の機能や病状の指標「Knee Society Score(KSS)2011」を用いて、スポーツ・娯楽活動に対する①満足度②期待充足度③活動性ーの3点を評価したところ、順に61%、70%、66%だった。それぞれに対する影響因子として、①可動域・標準的な活動性②年齢・可動域・立位と歩行スコア③階段昇降時痛・年齢ーが挙げられることから、同氏は「日常生活の症状や活動性の改善が、娯楽・スポーツの向上に重要」と述べた。
TKA術後のスポーツ・娯楽活動の効果については、これまでの研究で筋力増強、敏捷性・バランスの向上、体重・血圧コントロール、心理面での改善などが報告されている。そのうち、筋力増強に関して同氏が術後膝伸展筋力とKSS2011との関係を調べたところ、立位と歩行、標準的な活動性、高度な活動性、スポーツ・娯楽の活動性の4つが術後膝伸展筋力の改善と有意に関連していた(順にP<0.0001、P=0.023、P=0.0186、P<0.0001)。
また、敏捷性・バランスの向上についてBerg Balance Scale(BBS)を用いてTKA術前後のバランス機能を評価したところ、術前51.2(±1.7)から術後54(±1.0)に有意に改善していた(P<0.05)。術後バランス機能の向上はKSS2011のTotal function、重要と思うスポーツ・娯楽活動の数と相関(順にP<0.001、P=0.017)していたことから、両者の相互影響により患者の満足度向上につながると考えられたという。
ゴルフ・テニスでedge contactが発生
他方、TKA術後にスポーツ活動を行うに当たっては、ポリエチレンの摩耗、ルースニング(ゆるみ)、インプラントの破損といった人工膝関節機具の長期耐久性に加え、違和感や疼痛、不安定感、可動域制限といった機能性も課題とされる。また、人工股関節置換術(THA)と比べ、TKAでは自然な関節"natural joint"と感じた割合が約3分の1(58% vs. 20%)であることも報告されている。
そこで濵井氏の施設では、人工関節部のX線画像と三次元的に再構成した人工関節画像を照合するイメージマッチング法を用いて、スポーツ時の動態解析を行っている。同法を用い、TKA術後患者のゴルフスイングとテニスにおける回旋動態を解析すると、いずれにもedge contact(局所接触)が生じていたという。
そこで、knee simulatorを用いて摺動面の接触圧を測定したところ、TKAの機種によって回旋許容性はさまざまであり、TKA術後のスポーツなど活動性の向上がインプラントの耐久性に影響するとともに、肢位によって変化する関節の動きが阻害される懸念があると考えられたという。
以上の結果から同氏は、TKA術後のスポーツ活動について症状や活動性の改善が娯楽・スポーツ活動につながり、満足度向上に至ることに期待を寄せつつも、「ゴルフやテニス(ダブルス)はTKA術後に許容されるスポーツであるが、膝回旋に伴って摺動面でedge contactが生じており、そうした回旋運動の阻害は違和感や長期成績に影響する可能性があり、今後の改良と追跡調査が望まれる」と指摘した。
近年、高齢者におけるスポーツへの関心の高まりを背景に、人工膝関節置換術(TKA)術後もスポーツ活動の継続を希望する患者が増えている。しかし、動作時の違和感や疼痛など、術後スポーツ活動のマネジメントには課題も多い。九州大学整形外科学教室の濵井敏氏は第49回日本人工関節学会(2月15〜16日)で、TKA術後のスポーツ活動の現状と課題について説明した。
術後患者の90%がスポーツを重視
TKAの術後に、どの程度の患者が実際にスポーツ活動を希望しているのか。濵井氏は、2013〜15年に九州大学整形外科でTKAを受けた96例110膝〔平均年齢74±8歳(標準偏差、以下同)〕を対象に、重要と思うスポーツ・娯楽活動についてアンケートを実施。その結果、ストレッチ、ガーデニング、ウォーキングなど低負荷の活動を中心に90%が重視していた。
併せて、膝の機能や病状の指標「Knee Society Score(KSS)2011」を用いて、スポーツ・娯楽活動に対する①満足度②期待充足度③活動性ーの3点を評価したところ、順に61%、70%、66%だった。それぞれに対する影響因子として、①可動域・標準的な活動性②年齢・可動域・立位と歩行スコア③階段昇降時痛・年齢ーが挙げられることから、同氏は「日常生活の症状や活動性の改善が、娯楽・スポーツの向上に重要」と述べた。
TKA術後のスポーツ・娯楽活動の効果については、これまでの研究で筋力増強、敏捷性・バランスの向上、体重・血圧コントロール、心理面での改善などが報告されている。そのうち、筋力増強に関して同氏が術後膝伸展筋力とKSS2011との関係を調べたところ、立位と歩行、標準的な活動性、高度な活動性、スポーツ・娯楽の活動性の4つが術後膝伸展筋力の改善と有意に関連していた(順にP<0.0001、P=0.023、P=0.0186、P<0.0001)。
また、敏捷性・バランスの向上についてBerg Balance Scale(BBS)を用いてTKA術前後のバランス機能を評価したところ、術前51.2(±1.7)から術後54(±1.0)に有意に改善していた(P<0.05)。術後バランス機能の向上はKSS2011のTotal function、重要と思うスポーツ・娯楽活動の数と相関(順にP<0.001、P=0.017)していたことから、両者の相互影響により患者の満足度向上につながると考えられたという。
ゴルフ・テニスでedge contactが発生
他方、TKA術後にスポーツ活動を行うに当たっては、ポリエチレンの摩耗、ルースニング(ゆるみ)、インプラントの破損といった人工膝関節機具の長期耐久性に加え、違和感や疼痛、不安定感、可動域制限といった機能性も課題とされる。また、人工股関節置換術(THA)と比べ、TKAでは自然な関節"natural joint"と感じた割合が約3分の1(58% vs. 20%)であることも報告されている。
そこで濵井氏の施設では、人工関節部のX線画像と三次元的に再構成した人工関節画像を照合するイメージマッチング法を用いて、スポーツ時の動態解析を行っている。同法を用い、TKA術後患者のゴルフスイングとテニスにおける回旋動態を解析すると、いずれにもedge contact(局所接触)が生じていたという。
そこで、knee simulatorを用いて摺動面の接触圧を測定したところ、TKAの機種によって回旋許容性はさまざまであり、TKA術後のスポーツなど活動性の向上がインプラントの耐久性に影響するとともに、肢位によって変化する関節の動きが阻害される懸念があると考えられたという。
以上の結果から同氏は、TKA術後のスポーツ活動について症状や活動性の改善が娯楽・スポーツ活動につながり、満足度向上に至ることに期待を寄せつつも、「ゴルフやテニス(ダブルス)はTKA術後に許容されるスポーツであるが、膝回旋に伴って摺動面でedge contactが生じており、そうした回旋運動の阻害は違和感や長期成績に影響する可能性があり、今後の改良と追跡調査が望まれる」と指摘した。