■石丸伸二氏は「論破」ではなく「反省」を──二つの裁判に共通する逃避の論理構造

安芸高田市の元市長・石丸伸二氏は、自身が関与した二つの裁判――いわゆる「ポスター裁判」と「恫喝裁判」において、終始一貫して「自分は悪くない」と主張し続けてきました。しかし、その主張の論理にはある共通点があります。それは、問題の本質から目をそらし、形式や印象にすり替える姿勢です。

本稿では、この二つの裁判における石丸氏の言動を通して、政治家としての責任倫理の欠如と、それを支持する層が抱える危うさを考察します。


◆【1】形式的すり替えと因果の逆転

まず注目すべきは、両裁判で共通して見られる「論点のすり替え」です。

●ポスター裁判の場合

石丸氏は、選挙時に発注したポスター制作費の一部(約73万円)を「これは公費対象外だ」として支払わず、業者側から訴訟を起こされました。裁判所は契約通り支払い義務があると認定し、石丸氏に支払いを命じました。

ところが彼はこう主張します。

> 「裁判で確定した金額は支払った。だから踏み倒しではない」

この発言は、「支払を拒否し、裁判で負けた」という事実を意図的に無視した弁明です。業者に裁判という負担を強いたこと自体が、契約者として極めて不誠実です。

 

●恫喝裁判の場合

石丸氏はSNSで、山根温子市議が「議会に逆らうと市長の政策が通らなくなりますよ」と言ったと投稿し、「これは説得?恫喝?」としました。山根市議は名誉を傷つけられたとして提訴。裁判では、「そのような発言はなかった」と認定され、石丸氏の投稿は名誉毀損にあたるとされました。

しかし石丸氏や支持者は、判決後もなお次のような主張を展開しています。

> 「実際に議会が反対するせいで政策が通らなくなっている。だからあの発言も“あったようなもの”だ」



これは完全な因果の逆転です。

現実に議会が政策に反対しているからといって、過去に発言があったことにはなりません。しかも、この主張の裏には「議会と対立すると政策が通らない=議会が不誠実かつ不公正だ」という決めつけが含まれています。つまり、議会が自分に従わないのは悪だという、民主主義の否定に近い発想です。



◆【2】「目的が正しければ手段は問わない」という逃避

石丸氏は自らを「腐敗と戦う改革者」と位置づけ、問題をすり替える際によく“正義”を持ち出します。

ポスター裁判では、「選挙ポスター制度の闇を暴くのが目的だった」と主張。

恫喝裁判では、「議会が腐っている。市長の政策を潰そうとしている」と議会批判を展開。


ここで使われているのは、「自分は正義のために動いているのだから、手段やプロセスがどうであれ咎められるべきではない」という発想です。

しかしこれは「目的が正しければ、他人を傷つけても構わない」という危険な論理です。

実際には、選挙ポスターの費用を契約通り支払わなかったこと。

実際には、なかった発言をSNSで広めて市議の名誉を毀損したこと。


こうした事実に向き合わず、大義名分で誤りを覆い隠そうとする姿勢は、政治的リーダーにあるまじき態度です。


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◆【3】論破ごっこと現実逃避

石丸氏は、自らの政治スタイルを「論破」「質問力」「知性」と結びつけて強調します。記者会見でも、議会でも、SNSでも、彼は相手の矛盾を突いて“勝つ”姿勢を強調し、それに拍手喝采を送る支持者がついています。

しかし、それは本当の論破ではありません。

「論破した」と思い込んでいるだけで、実際には問題の本質を理解していない。

議論に勝ったつもりでいても、相手の名誉を傷つけていれば法的責任が問われる。

自分の非を一切認めず、論破“風”の言葉遊びで逃げ回る。


これは、単なる自己満足の論破ごっこです。

裁判という公正なプロセスにおいて、「石丸氏の言い分は通らなかった」ことが何よりの証明です。



◆結論:「政治屋石丸伸二」に絶対的に欠けるものは「反省力」

石丸氏にいま最も求められているのは、論破による自己陶酔ではなく、過ちを認め、謝罪し、信頼を回復することです。

政治家は間違えることもあります。しかし、間違えたときにどう振る舞うかが、信頼に直結します。

裁判所に「支払え」と命じられたら素直に謝る。

「虚偽の投稿だった」と認定されたら、きちんと撤回し謝罪する。


それをせず、「自分は正義」「批判する者が悪」「現実がこうだから自分が正しい」という論理に逃げ続ける限り、石丸氏は裸の王様であり続けるでしょう。

そして、私たち有権者もまた、政治家の「強さ」や「賢さ」ではなく、「誠実さ」と「反省力」にもっと敏感になるべき時が来ているのではないでしょうか。


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※本記事の内容は、公判記録・報道・判決文に基づいています。読者各位におかれても、事実確認の上での判断をお願い申し上げます。