放浪大工のニッキ


クロス屋さんと話してから3ヵ月後ぐらいだっただろうか?
大工仲間からこんな話を聞く事になる。

「板本(女監督)のやつ、どうも孕んだらしいぜ・・・・」

『え・・・・・』

最初、冗談かと思った。
だがどうも事実なのが後日わかった。
そう、前回話した噂どおり、望月君は現場を疎かにし
ラブホテルに時折行ってたのは本当だったのだ。

別にこの時代「できちゃった結婚」なんて当たり前の事だし、
男と女の関係だし、さして驚くべき事でもない。
ただ、あの彼が噂みたいな人物だとは想像できなかったし、
昔の彼を知ってる自分としては信じたく無かった。


その後、望月君は当然のようにその女監督と結婚して役職につき、
現場にはほとんど出なくなる。
現在もその女監督は出産後も現場監督として勤務しているが、
これまた評判が凄まじい。
旦那が役職というのも手伝って下手に咎める同僚もおらず、
余計に上から目線でものを言ってるらしい。
私の大工仲間も何度か「本気で殺意を抱いた」との事だ。


放浪大工のニッキ



今年に入って望月君と再会する事があった、
約4年、いや5年ぶりだろうか?
仲間の建て方で応援に行った日の事だ。
その日は安全パトロールで重役も現場回りに来ていたのだ。


「who are you?」

と思わず言いそうになった。。。。
噂に聞いてた通り体の横幅が伸びたのも凄かったが、
何よりも驚いたのは彼の目つきだった。

私の言葉に真剣に耳を傾けていた面影はすっかり消えうせ、
横暴が服を来て歩くといった男になっていた。
恐ろしいもので人間変われば変わるもので、
彼の場合「歩き方」まで別人になってしまったような気がする。

世間体からすれば、あの年齢で関東支部ブロック長という役職で
地位も収入も得て、結婚もし子供にも恵まれ立派なものだろう。
それでも青年から本当の大人になる橋を渡る際に
「大事なモノ」をどこかに置いてきたように思えてならない。


今更聞く事でもないかと思って聞かなかったが、
彼と初めて会った時に持っていた私の言葉が記されている手帳。
彼は今でもあの手帳を持っているのだろうか?



放浪大工のニッキ

                                   ジェミニ・終