スラット・シェイミングという性差別② | はんぐるぐるぐるのブログ

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橋の上に寝っ転がって、水が流れるのを眺めてみよう。それか、跳ねてみよう。それか、赤い長靴を履いて、泥の中を歩いてみよう。それとも、丸くなって、雨が屋根に落ちる音に聞き入ろう。人生を楽しむことは、とてもかんたんなんだ。(トーヴェ・ヤンソン、「ムーミン」より)

※今回の記事は、性暴力の被害者の証言動画を紹介し、性暴力の被害者に対する言葉の暴力をそのまま引用するので、読む人によっては、つらい思いや記憶を呼び起こしてしまうかもしれません。ご自分の心と体に注意して、場合によっては読むことを控えたり、中断して下さい。


昨日の続きです。

「女性はこうあるべき」といった固定観念を抱いていると、そうでない女性、あるいは自分がそうでないと判断する女性を見下してしまい、それがさらなる差別につながる恐れがあります。もちろん女性に対する固定観念だけでなく、男性やその他のアイデンティティーを持つ人に対する固定観念も、同様の結果を招く可能性があります。

ジェンナ・マーブルスさんのビデオ「私が女の子について分からないこと/パート2/スラット編」は、昨日紹介した以外にも反響を呼びました。

このビデオの中でジェンナはたくさんのことを言うのですが、私は彼女が使う言葉に嫌悪感を抱いているので、ここでは訳すことを控えさせていただきます。となると、一体彼女が何を言って何を言っていないか、ビデオを見てない人には分からないので、彼女に対しても、みなさんに対してもフェアではないかもしれません。

ジェンナのビデオに対するビデオ・メッセージを紹介することで、間接的に、彼女のメッセージを汲み取っていただければ幸いです。

今回ご紹介するのは、ヘイリー・G・フーヴァーさんのメッセージです。



彼女は(レイシーもそうですが)まず、メッセージの対象をジェンナのスラットに関する動画に限定して、それ以外のジェンナのビデオは、女性にとってもユーチュブにとっても有益であると認めます。なので、彼女を個人的に攻撃するのではないと説明します。

ヘイリーのメッセージを意訳します。

ジェンナが、自分が1対1の恋愛関係を選び、不特定多数の人と関係を持つ人が理解できないといった個人的意見を述べることに問題は無い。

でも、それ以外に、危険なメッセージもある。
ジェンナの動画をフォローしている何百万もの人がいて、大多数は若い女の子で、中にはジェンナが言うことを信奉する子もいる。だから、自分が何を言うか、もっと気をつける必要がある。

問題のビデオの中で、ジェンナはスラットを、どんな服装であれ、どんな格好であれ、大勢の人と性的関係を持つ、様々な性的行動をたくさんする女性と定義する。そして、それらの女性を、不合理で、自尊心が低く、他の女性とネガティブに競争すると特徴付ける。そうした上で、自分のように「普通」の女の子が、これらの「スラット」とは別のものであると主張する。

この主張の問題点は、「普通の女の子」と「スラット」を識別することによって、「たくさんセックスする女性は、そうでない女性と比べて尊敬に値しない」といったステレオタイプを表現して、それを持続させていること。「普通の女の子には良いことが起きて、スラットは傷つく。」たくさんセックスする女性が無力で弱くて馬鹿といったステレオタイプを固定化させてしまう。

女性が他の女性についてそんなことを言うと、男性が同じ考えを抱くことを助長してしまう。「普通の女子」、「普通の人」と「スラット」を分けて考えることは、一部の男性が、後者を見下して、傷つけることを正当化することにつながる恐れがある。そうしてレイプが起こる。

ジェンナはビデオの中で、女の子同士助け合うべきだと言っていて、それには完全に同意する。もし他の女の子が泥酔した状態で知らない男の子と家に帰るところを見かけたら、その女の子に声をかけて、やめるよう説得するようにとジェンナは呼びかけた。ジェンナのメッセージを言葉通りに引用すると、『世界中のスラットが、スラットっぽい悪い選択をしないよう助けてあげよう。』この発言で良いことを意図したとは思うけれど、問題アリ。

自分がどこにいて何をしているか分からないほど泥酔している女性を助けることは、彼女を「馬鹿な選択」から守るのではなく、彼女をレイプから守ることだ。「馬鹿な選択」とは、その状況が双方通行のようであったかのように理解できるけど、それはレイプには当てはまらない。泥酔、意識不明、昏睡状態、または別の理由で意識的に決定を下すことができない女性と男性が性行為することは、強かんだ。毎回。その際に起こるセックスとは、「馬鹿なスラット」がする「馬鹿な選択」ではあり得ない。それは、強かんだ。

ここでも、「普通の女の子」と「スラット」を分けて考えることの問題が表れる。「普通の女の子」が路上で暴行されたらそれは強かんで、「スラット」が誰かと一緒に家に帰るという「ヘマ」をしたらそれは彼女が「馬鹿」だったからと考えやすくなる。

ジェンナの言葉を聞いた女性は、自分を「スラット」と見なして、性的暴力の被害に遭ったことに関して、自分を責めてしまうかもしれない。もし自分がもっと「良い」選択をしていれば、強かんされなかったかもしれない。そうすると、その人は、強かんの被害に遭っても届け出ず、そのことについて話さず、他の人も、性犯罪について、自分にも起こり得ることだと考えないことになる。

この問題の重要性に気付いている人は、あまり多くないかもしれない。
ある統計によると、米国女性の6人に1人が生涯に一度は強かんか強かん未遂の被害に遭う。強かんの被害者の44%が18才未満、80%が30才未満。ということは、ジェンナのビデオの視聴者の中にも、何人か、あるいは大勢の性犯罪の被害者がいる。

ジェンナは、自分を慕っている視聴者の一部を、もう起こってしまった出来事について、実際には被害者の責任ではないのに、責めている。

最後に、ヘイリーは女性/女の子に限定して話した。なぜかというと、米国の強かん被害者の10人に9人は、女性だからだ。男性やその他のアイデンティティーを持つ人の問題を矮小化するつもりはないけれど、ジェンナのビデオへの返事として、男女関係に限定した。


ジェンナのビデオは今日までに555万回再生され、11万9千のポジティブな評価と2万2千のネガティブな評価を得ました。彼女が公開した他の動画は、数百万回から一千万回以上再生されています。

ジェンナやヘイリーが言及している女の子が泥酔する状況とは、デート・レイプのことです。女の子を泥酔させたり、飲み物に意識障害を起こす薬物を混ぜたりして、強かんする事件が起きています。飲み物に薬物を混入されることがなぜ被害者の「馬鹿な選択」なのか、私には理解できません。

ジェンナがこのビデオを作る際に何を考えて、レイシーやヘイリーのビデオ・レスポンスを見て何を思ったかは、知りません。

(つづく)