27.「ホーム」
「バックホーム!!」
年甲斐もなく私は叫ぶ。
たった今二塁ベースを蹴って三塁をめがけて走っているのは、今年の春には中学に上がる私の息子だ。
少年野球をはじめてレギュラーになるどころか、公式試合で一度も試合に出場できなかった息子は、それでも毎日練習に行っては汗をかいて泥まみれになって家に帰ってきた。
その成果が出たのか、在校生と卒業生が試合をする最後のこの卒業試合で、息子は今まで経験したことのないような大きな当たりを打った。惜しくもホームランの策は超えなかったものの、このままホームに戻ればランニングホームランだ。
ボールを拾った五年生の外野手が三塁へ向かってボールを投げる。ボールが三塁に届く前に、息子は三塁ベースを蹴ってホームベースに向かって走りはじめた。
ホームから飛び出て走ってきた息子が、再びホームに戻ってくる。ホームに戻った時、得点が得られる。
そうだ。息子は今まで何度もその経験をしてきたじゃないか。下級生にレギュラーを取られた日も、バッドにもボールにも触らせてもらえずに一日中ランニングだけしていた日も、息子はちゃんと家に帰ってきた。そして次の日にはまた家を出て練習に出かけた。
野球は、家から飛び出てそして家に帰ってくることで点が得られるスポーツなのだ。
外野から投げられたボールを受け取った三塁手が、ホームに向かってボールを投げた。息子がホームベースに飛び込むのとほぼ同時に、ボールが小気味良い音を立てて捕手のキャッチャーミットに収まった。
アウトか、セーフか、そのどっちの結果になったって私は息子にかける言葉を決めていた。
「おかえり」と。