16.「整体院」
『
この人に相談すれば間違いない。
そう思って私は先輩の院に来ました。
開業してから半年、治療の腕には自信があるのですがなぜか院に来る患者さんの数が増えずに私の治療院は経営の危機に陥っていました。
そこで私はリピーターが絶えない整体院を経営する先輩の助言を聞くことにしたのです。
「お前、仕事の方あんまり上手くいってないんだってな。」
「はい。なかなか思うようにリピーターがつかなくて…。」
「お前、どんな風に治療してるんだ?」
私は先輩に自分がこれまでしてきた努力や試してきた工夫を説明しました。
楽しいと思ってもらえるように面白い話をすること、治療の効果や良くなる経緯を分かりやすく説明すること、患者に悩みを相談された時にうまく答えられるようにコーチングの勉強をしていること、などなど。
すると先輩は「はぁー。」と長いため息を吐いてから私に言いました。
「だからお前はダメなんだよ。お前は何だ?コメディアンか?健康番組の解説者か?カウンセラーか?違うだろ?お前は治療家だ。お前は整体師だ。お前は腕は良いのにそんな余計なことばっかり考えて治療に集中しないから、その腕が活かしきれてないんだよ。」
私は返す言葉がありませんでした。
「お前や俺たちの仕事は、患者の痛みをとることなんだよ。患者の身体のバランスを元に戻すことなんだよ。」
先輩は私の目を見て続けました。
「余計なことは考えずに、お前は目の前の患者を治療することに集中しろ。それを続けていれば経営も自然に上手くいくさ。」
先輩のその言葉で、私は治療家として大事なことを思い出したのです。』
はい、どうもありがとうございました。
現在全国に引っ張りだこ。全国を飛び回りながら年間250講演をこなす大人気整体師、前川整体院の前川耕三先生の講演でした。
「なあ、今日の講演、なんか参考になったか?」
「まあ、ならないことはなかったけどさ…。」
「…だよな。たぶん俺今お前と同じこと考えてるわ。」
「治療家として大事なことを思い出した」とか言っとったけど、年間250講演ってあんたもはや治療家じゃなくて講演家やないかい!