12.「古本」
特に何か探している本がある訳でもないが、時間があるとついつい古本屋に立ち寄ってしまう。
棚一面に並んだ背表紙に書かれたタイトルやふと手にとった本の裏表紙に書いてるあらすじを読むだけでも楽しくて、ついつい時間を忘れてしまう。
目当てにして探しに行って見つけた本よりも、偶然ふと手にとった本の方がハマってしまうから偶然の出会いというのは面白いものだ。
新刊が並ぶ本屋ではなく古本屋だと、思わぬ掘り出し物が見つかったりするのでなお面白い。
目当ての本がなかなか見つからないのも、それを見つけた時の興奮も、古本屋巡りの醍醐味の一つだ。
シリーズものを探す時なんて、1巻と3巻はよく見かけるのに何件探し回っても2巻が見つからないこともある。
全3巻だと思ってまとめて買ったのにいざ読んでみると全4巻の作品で、続きが気になったまま4巻が見つからずにもどかしい思いをすることもしばしばある。
今回のケースは、まさにそれだ。
ネタバレが嫌なのでネットで本の詳細を確認することなく、まだ見ぬ4巻を探していろんな古本屋を巡った。
それでも見つからないので、品揃えが良い新品の本を扱う本屋にも行ってみた。
…が、それでもどうしても4巻が見つからない。
どうしても続きが気になってついにプライドを捨ててネット販売で4巻を買おうとネットで検索してみる。
そのときはじめて、4巻など存在しないのだという事実を知った。
この作品は、4巻が出る前に作者が急病で亡くなったため、3巻で未完のままの作品となった。
そんなことって、あるか。
俺のこの気持ちはどうしてくれるんだ。
俺が続きを楽しみにしていた物語の続きを読めることは、もうない。
この物語の中の登場人物たちがハッピーエンドを迎えることは、永遠にない。
いったい作者がこの物語を書くことで何を伝えたかったのか、何を表現したかったのか、それは誰にも分からない。
だから、自分で書くことにした。
俺が楽しみにしていた物語と同じものは書けないが、俺は俺なりの物語を書くことで、もしかしたら何かが分かるかも知れない。
誰かが書くハッピーエンドを待つんじゃない。
俺の望むハッピーエンドは、俺が自分で描かなきゃいけないんだ。
だから、書いてみる。
書けるかどうかなんて分からないけど、それでも書いてみる。
いつか「これが俺が書いた物語だ」と胸を張れるように。
いつか天国か地獄かであの作者に、「あんたのおかげで俺はこの物語が書けました。」と言えるように。
そして、「だからあんたも早くあの物語の続きを書いてくれ。」と言えるように。
だからあんたも死んだからって休んでばっかいないで、そのうちまた物語の続きを書いてくれよ。
俺もこっちで頑張るからさ。
この想いがあんたに届くかどうかは分からない。
だけど、書き残すことはできる。
あの時偶然出会った古ぼけた本が、俺にそのことを教えてくれたんだ。