4.「ニカラグア」
「ニカラグア?どこだよそれ?」
「んー、なんかアメリカ大陸の真ん中の方だって、父ちゃんが言ってた。」
「どんなとこ?」
「なんかのんびりした国なんだってさ。自然がいっぱいあってさ。」
「田舎ってこと?」
「たぶんね。」
「カッちゃんそんなとこ行って大丈夫なの?ほら、カッちゃんカラオケ好きじゃん?そんな田舎の国にカラオケなんてあんの?」
「知らねーけど、カラオケなんかなくても歌なんてそこらじゅうで歌ってんじゃないの?」
「そっか。アメリカだもんな。」
「たぶんそうだよ。アメリカだし。」
「それで、サッカー強いの?」
「ワールドカップに出たことはない。アメリカとかメキシコでやってるコンカカフゴールドカップってやつには一回だけ出たことあるって。」
「成績は?」
「グループリーグ敗退が最高成績。」
「ザコじゃん。なんで急にそんなとこ行くんだよ。」
「しょうがねーだろ。父ちゃんの仕事の都合なんだから。」
「お前だけでも日本に残れよ。ばあちゃん家とかに住んでさ。」
「できねーよ。ばあちゃんも一緒に行くんだから。俺らの家族はあっちの人間になんの。」
「どうすんだよ、俺たちのゴールデンコンビ。お前抜けたらウチのチームどこにも勝てねえぞ。」
「何情けないこと言ってんだよ。」
「お前だってそんな名前も聞いたことない国に逃げんなよ。」
「逃げるんじゃねーよ。」
「じゃあ何だよ?まだ俺らには来年があるだろ?まだ大会残ってんのに、俺らのチーム裏切るのかよ。」
「何?お前中学行ったらサッカー辞める気なの?」
「辞めねーよ。中学行っても、高校行っても、俺はずっとサッカー続ける。」
「じゃあ来年だけじゃねーじゃん。」
「……。」
「俺も、ずっとサッカー続けるよ。ニカラグアに行っても。大人になっても。だから…。」
「…だから?」
「喧嘩の続きは、ピッチの上でやろうぜ。」
「?」
「俺はあっちで強くなる。ニカラグアがザコなら俺がニカラグアを強くする。俺が、ニカラグアをワールドカップに連れて行く。」
「カッちゃん…。」
「だからミツル、お前は日本で強くなれ。日本をワールドカップに連れて行け。」
「やってやるよ。お前こそ、絶対来いよ。」
「俺は裏切り者だからな。手加減すんなよ。」
「当たり前だろ。ボコボコにしてやるよ。」
「今度会うときはピッチの上で、また思いっきりサッカーしようぜ。」
「コンビじゃなくて、敵同士でな。」
「じゃあ、俺もう行くわ。」
「カッちゃん。」
「何だよ?」
「見送り、行かないからな。」
「俺も、向こうに着いても手紙なんか書かねえぞ。」
「分かってる。」
「だから、絶対サッカー辞めんなよ。」
「カッちゃんも、ニカラグアに行ってもっと強くなれよ。」
「じゃあ、また…」
「「いつか、ピッチの上で。」」
昨日まで名前も知らなかった国、ニカラグア。今日から、僕にとって絶対に忘れられない国になった。だってあいつは、僕が絶対にまた会わなきゃいけないあいつは、100時間後にはもう、ニカラグアにいる。