去る2024/1/25、国連安全保障理事会でIAEAグロッシ事務局長が、ウクライナでの原子力の全体状況を余すところなく説明するとともに、今後に向けての決意を表明。新たな情報はないが、全てが語られており、胸を打つ内容でもある。全文をお読みいただきたい。

世界情勢はあちらこちらで緊迫しているが、この問題も決して忘れてはならない。

 

演説後のグロッシ事務局長記者会見の様子(画像:IAEA)

10日以内に、占領地域かつ戦闘の最前線にあるウクライナ・ザポリージャ原発に、交代ミッションを率いて4度目の訪問を予定。ウクライナ・ロシアの指導層とも会見を予定している。

 

 

本日、ウクライナにおける原子力安全、核セキュリティ、保障措置に関するIAEAの活動について最新情報をお伝えする機会を与えてくださった安全保障理事会議長に感謝いたします。また、IAEAの取り組みに対する継続的な支援に対して理事会に感謝します。

 

私はこれまでに、2022/3/4、8/11、9/6、10/27、そして2023/5/30の5回、ウクライナ情勢について理事会で演説してきました。

 

戦争が始まってからほぼ2年が経ちますが、大規模な原子力発電プログラム施設の中で戦争が行われるのは歴史上初めてであることを改めて思い起こしていただきたい

 

これには、直接砲撃を受けたウクライナの5つの原子力発電所とその他いくつかの原子力施設が含まれます。すべての原子力発電所は、ある時点で外部電源を喪失しています。

 

さらに、ウクライナの原子力発電所の一つであるザポリージャ原発(ZNPP) では、ほぼ全期間にわたって露軍がサイトに駐留し、ロシアが運転管理下に置いています

 

そしてご案内のとおり、IAEAは開戦以来、日々怠ることなく状況を注意深く監視し、ウクライナを支援してきました

 

開戦直後、私は武力紛争中の原子力安全と核セキュリティを確保するために不可欠な7つの柱を策定しました。 これらは:

 

  1. 原子炉、燃料ポンド、放射性廃棄物貯蔵庫を問わず、施設の物理的健全性は維持されなければならない。
  2. すべての安全およびセキュリティシステムおよび機器は、常に完全に機能する必要がある。
  3. 運転スタッフは、安全とセキュリティ上の義務を遂行でき、過度のプレッシャーを受けることなく意思決定できる権能がなければならない。
  4. すべての原子力サイトで、送電網から確かな所外電力供給がなされなければならない。
  5. 途切れることのない物流サプライチェーン並びにサイトとを往来する輸送がなければならない。
  6. サイト内、サイト外に効果的な放射線監視システム、および緊急事態への備えと対応策がなければならない。
  7. 規制当局他との信頼できるコミュニケーションがなければならない。

 

そして、前回5/30の理事会へのアップデートで、私は、ウクライナおよびロシア連邦の指導者たちとの集中的な協議の結果、ZNPPに向けて、原子力事故を防止し、プラントの健全性を確保するための5つの具体的な原則をさらに確立したことを報告しました。すなわち;

 

  1. プラントからの、またはプラントを対象としたいかなる種類の攻撃も、特に原子炉、使用済燃料貯蔵、その他の重要なインフラストラクチャー、または人員を標的とした攻撃があってはならない
  2. ZNPPを、プラントからの攻撃に使用される可能性のある重火器(すなわち多連装ロケットランチャー、火砲システムと弾薬、戦車)や軍関係者の保管場所や基地として使用すべきでない
  3. プラントへの外部電源を危険にさらすべきではない。このため、外部電源が常に利用可能で確実な状態を維持できるようにあらゆる努力を払う必要がある。
  4. ZNPP 運転時の安全性・セキュリティを確保するのに不可欠なすべての構造物、系統及び機器は、攻撃や破壊行為から保護されるべきである。
  5.  これらの原則を損なうような行動はとるべきではない。

 

私は、これらにコミットすることは、破滅的な原子力事故の危険を回避するために不可欠であると述べ、敬意を表しつつ厳粛に双方にそれらを遵守するよう求めました。

 

昨年5月の会合で、安全保障理事会にご列席の理事国とウクライナより、これらの原則に明確な支持をいただいたことを喜ばしく思いました。

 

さらに、私は、2022/9/1からサイトに駐在しているIAEAザポリージャ支援・援助ミッション(ISAMZ)の専門家から、これらの原則の遵守状況について私が報告を受け、違反があれば私から公開して報告すると申し上げました 。

 

9か月が経過した本日、私はここに、ウクライナにおける原子力安全、核セキュリティ、保障措置の状況、そして7つの柱に対するIAEAの評価とこれら5つの原則の監視を含むIAEAの継続的な活動について報告したいと思います。

 

議長、

 

最初に、約 2 年間にわたる私たちの活動のスコープと広がりについて報告したいと思います。

 

ウクライナへのミッションは合計で102回に及びました。 私自身がこのうち 8回で団長を務め、そのうち 3回は ZNPPへ、まもなく今後 2 週間の内に新たな 1団を ZNPP に率いる予定です。

 

ZNPP には献身的で勇敢な国際スタッフからなる 第15次 ISAMZ チームが駐在しています。ZNPP は依然としてこの戦争の最前線にあるプラントであり、スタッフはこの重要な仕事を遂行するために依然として前線を越えなければなりません。 IAEA職員 37 名が ZNPP のこれらのチームに参加しており、その中には複数回参加したものもおります。

 

1年間にわたり、IAEAは他にも専任のIAEA専門家を他のウクライナの主要原子力施設すべて(リウネ、南ウクライナ、フメリニツキー原子力発電所、チョルノービリ・サイト)に駐在させてきました。彼らの駐在により、私たちは原子力安全に関する信頼できる情報を国際社会に提供できるようになりました。 それらの各サイトの核セキュリティ状況についても同様です。IAEA職員の 100 人以上がこれらのチームに参加しており、IAEA職員のウクライナ駐在は合計で 3,662 人日を超えるものです。

 

前回、私から理事会にお話しして以来、加盟国の寛大なご厚意により、IAEAの方で装甲車両を購入し、追加の職員、警備員、運転手を採用しました。現在ではミッションの警備を自前で管理しており、それによって国連安全保安局(UNDSS)及びオペレーション支援局(UNDOS)の負担を一部軽減しています。

 

IAEAは国際支援パッケージの推進を継続しており、現時点でウクライナへの不可欠な装備品の納入は34件、総額850万ユーロを超える加盟国の貢献に改めて感謝します。

 

IAEAは、ウクライナにおける放射線源の安全性とセキュリティの分野での助言、訓練、設備を提供するための提案を作成しました。

 

IAEAは、すべてのウクライナの原子力従事者向けに、設備及び心理的支援を含む医療支援プログラムをまとめました。

 

私はまた、カホフカダム破壊後の洪水に伴う悪影響を管理することを目的とした新たなヘルソン州支援プログラムを発表し、IAEAとウクライナ政府が協力して、この分野での当面のニーズを特定しています。

 

原子力安全・核セキュリティに関する取り組みに加え、IAEAはウクライナ全土で欠かすことのできない保障措置検認活動を継続しており、核物質が軍事目的に転用されないことを保証しています。 これらの活動に基づき、IAEAが拡散の懸念につながる可能性のある兆候を見出すには至っていません。

 

そしてIAEAは、現在200件をはるかに超えるウェブ声明と最新情報、9件の報告書と複数のブリーフィング(国連総会や安全保障理事会にご列席の皆様に向けたものを含む)を通じて、ウクライナの原子力施設の状況を世界に発信し続けています。 これにより、国際社会はタイムリーかつ技術的に健全で客観的な情報を自由に利用できるため、情報不足や誤った情報(重大な影響をもたらす決定につながる可能性のある誤認識など)に関連するリスクを回避できます。

 

議長、

 

特にZNPP における原子力安全・核セキュリティの状況は、引き続き極めて脆弱です。

 

同プラントの6基の原子炉は2022年半ばから停止されており、そのうち5基は低温停止中、1基は高温停止中です。 しかし、大規模な原子力事故の潜在的な危険性は依然として非常に現実的なものです

 

プラントへの砲撃は相当の期間行われていませんが、この地域および施設付近では大規模な軍事活動が続いており、IAEAスタッフからはロケット弾がプラント近くの上空を飛行し、それによってプラントの物理的健全性が危険にさらされているとの報告を受けています。

 

プラントには、安全で途切れることのない外部冷却水源が必要です。 私が前回理事会に報告したその数日後の昨年6月初旬、カホフカダムが破壊され、貯水池の水位が大幅に低下しました。 その結果、貯水池の水深はもはや満足な給水ができるレベルではなく、停止した原子炉6基に十分な冷却水を供給するためにサイト内で井戸を掘削するなど、オンサイトでの多大な努力が必要となりました。

 

プラントを運転する要員は大幅に減員されており、原子炉が停止しているにもかかわらず、スタッフは前例のない心理的プレッシャーにさらされています

 

訓練の行き届いた有資格運転員が減り、サプライチェーンにも問題があるため、プラントの安全性を維持するために不可欠な機器のメンテナンスに悪影響が生じています

 

そして、サイトが外部電源を全て喪失し、不可欠な原子炉と使用済燃料の冷却を確保するため、原子力事故に対する最後の防御線である非常用ディーゼル発電機に依存せざるを得なくなった事案がこれまでに8回発生しました。

 

プラントの外部電源は、現在、 2系統のみに依存しており、時には1系統にしか依存できなくなったり、一定期間、後備電力系統が適切に構成されていない時期があったりもしました。 これは、本来不可欠な所外電力の状況が、極めて不安定であることを示しています。

 

チームがプラントの一部エリアにタイムリーにアクセスできない場合があります。 IAEA チームがZNPP における原子力安全・核セキュリティに関する状況の評価を効果的に実施し、今後の進め方に反映させるためにアクセスが必要です。

 

次に、具体的な 5 原則に移りますが、IAEAはこれらの原則の遵守を監視しており、具体的なに5 原則が遵守されていないという兆候は確認していません。しかしながら、状況が変化していく中でも5つの具体的な原則すべてが常に遵守されていることを監視するには、IAEAは原子力安全・核セキュリティにとって重要なZNPPのすべての分野にタイムリーにアクセスする必要があります

 

また、ウクライナの他の原子力施設も忘れてはなりません。ほとんどの原子炉ユニットが定格全出力で運転されています。 IAEAチームからは原子力安全・核セキュリティは維持されているとの報告を受け続けていますが、同時に軍事紛争の差し迫った脅威や、一部のプラントでは何度かシェルターへの避難を余儀なくされていることも確認しています。 理事会には、安全運転を確保するには、外部電源が使用できることが不可欠であることを改めて思い起こしていただきたいと思います。

 

議長、

 

原子力事故はまだ起こっておりません。 これは事実です。 しかし、慢心することが悲劇を招く可能性は、依然として存在します。 そんなことはあってはならないのです。 私たちはそのリスクを最小限に抑えるために全力を尽くさなければなりません。 そして私は、財政支援を含め、加盟国からの継続的な支援に感謝しています。

 

そして我々は、昨年5/30、まさにこの議場で確立された 5つの原則の性格について明確にしておく必要があります。 これらは軍備管理や休戦の協定ではありません。この戦争がもたらした悲劇的な問題すべてを解決するものでもありません。

 

むしろ、それらは、ウクライナ、欧州、そして世界を重大な放射線影響を伴う大規模な原子力事故から救うという、非常に明確な目的を持った創造的で実践的な取り決めです。

 

これまでのところ、この限定的ではあるが重要な目的は達成されています。 しかし、我々は慢心すべきではありません。何事をも当然のことと考えるべきではありません。 あらゆる関係者に最大限の自制が必要です

 

私はこの理事会に対し、7つの柱と5つの原則及び国際社会への奉仕として状況を監視するIAEAの役割への継続的な支援を求めます。

 

そして、今日私をお招きいただき、この重要な問題を引き続き注視していることを示してくださった理事会と議長閣下に感謝いたします。

 

IAEA および私個人ともに、世界の平和と安全保障を維持するというこの理事会の使命に資するため、必要に応じて最新情報の提供、詳細説明、そして行動することをいつでもお受けいたします。

 

議長、ありがとうございました。

 

ウクライナ規制当局プレス:

 
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