2、3日前から風邪をひいている。
といっても、熱は無く、ただ喉が痛くて咳が出だすと止まらなくて辛い…

昨日の朝、取引先の建設会社の社長の奥さんが来店されて、融資の相談のことで面談した。
応接コーナーでしばらく色々と資料を広げながら向かい合って話をしていると、突然僕が咳こみだして会話は中断。
おさまるまで待った後、僕はお詫びを言って、ひと通り話は済んだので、挨拶をして奥さんを見送った。

そのあとも、デスクワークをしながらのど飴を舐めたり、時たまうがいをしたり、油断すると襲ってくる咳と格闘していた。
運動不足の腹筋もかなり痛い…
すると、朝に来店された建設会社の奥さんから電話があって、追加の資料を渡したいので、とのことで数分後にまた来店されるとのことだった。
今朝の面談で、色々と追加資料をお願いしていたので、さっそく用意してくれたのか、僕としては仕事が進むので助かる。

数分後に奥さんは来店され、応接コーナーでもう一度向かい合って座った。
途端に彼女は「どうぞ」と言って、袋を出して机の上に置いた。
頼んでいた資料とは違うものを出されて、僕は少し驚いたけれど、中身を見てもう一度驚いた。
高そうな栄養ドリンク、喉の痛み専用の錠剤、トローチ、のど飴、レモネードの粉末などなど…
「気休めかもしれないけれど、早く元気になって下さいね」
驚いている僕に、そう奥さんが笑顔で声をかけた。
僕も嬉しくて、つい笑顔。

近いうちにまた奥さんとは会うことになる。
元気になった姿を見せられるように、頑張って治さないといけない。
ささやかな優しさを与えて、受けて…
お互いが笑顔になれることがあれば、その日は素敵な一日になる。
お盆以降、毎晩30分ほど歩くことを決めて、台風の日以外、今ずっと続けている。
7月末に行った人間ドックの結果で、運動不足を痛感したこともあって、真夏の夜から始めたウォーキング。
最近は夜になると、秋が近付く気配を感じさせる涼しさに変わる。

1ヶ月以上続けて、でもまだ特に体に変化は無いけれど、涼しくなったせいもあってか、最初の頃ほど体もしんどくなくなってきたし、少しもの足りなさも感じ始めている。
もともと学生の頃、水泳選手だったし、もっと全身を引き締めるためにも、泳ぎに行けたらいいなって思っている。
仕事帰りに、スポーツセンターやジムに寄る時間は無さそうなので、休日しか行かれないかな…

そういえば、この週末に仕事で人事異動の内示が出て、僕は来月から支店長代理へ昇格となる。
増える給与よりも、重たくなる責任と仕事の量。
ますます、時間が無くなってしまいそう…
だったらなおさら、今以上に体力をつけておかなくちゃね。
僕が寝転がってテレビの高校野球を観ていると、僕のそばを伯父さんが歩いて通り過ぎようとして、僕を蹴飛ばした。
「あ、ゴメン…」
僕よりも伯父さんのほうが驚いた様子で、そう言って謝った。
その時僕は、テレビの野球の球の行方も忘れ、少し悲しい気持ちになった。
それは、蹴られたことがではなく、それが、伯父さんが視力を失ってしまったことを、あらためて思い知らされる出来事だからだ…
とは言え、伯父さんは完全に失明したわけではない。

6月に突然激しい頭痛を訴え、救急車で運ばれた先は広島市民病院。
そこの集中治療室へ彼を見舞ったのが、数日後だった。
脳内出血は右側で、視神経を損傷したとのこと。
だから、左目が完全に失明。
それに加え、右目の右半分も「飛蚊症(ひぶんしょう)」であまり見えておらず、彼の視界は右目の左半分だけになってしまった。
そんな状態なので、僕が足元に寝転がっていることすら見えず、蹴った本人が驚く始末だ。

今日は朝から母と一緒に伯父さんの家へ行った。
5月5日の日記に書いている、あの家だ。
伯母さんは相変わらず、体調が良くなさそうだが、夫の突然の不幸な出来事に戸惑い、いっそう不安そうな面持ちだった。
伯父さん自身、突如不自由な体になってしまったことで、うつ病気味らしく、背中を丸め下を向き、日に日にその症状は進んでいるように見えると、伯母さんが言っていた。

伯父さんの脳内出血は、幸いにも記憶や言語に障害が無かった。
だけど生活は一気に不自由になってしまった。
もちろん自動車の運転はもう出来ないし、顔を洗えば蛇口におでこをぶつけるし、食事を出しても、視界の外にあるものは見えていないから存在すら知らず、食べ残している。
突然そんな体になってしまえば、僕でも塞ぎ込んでしまうだろう。

でも今日は、嬉しそうだった。
今日は調子がいいと、本人も笑顔で言っていた。
僕と母が来ているのに加え、従姉(伯父さんの長女)夫婦も呉市から来ていて、嬉しかったのだろう。
だからなおさら、僕らが帰るときはとても寂しそうだった。

今日は宮島の花火大会だ。
海沿いにある僕のマンションからも、遥か遠くにではあるけれど花火は見えるし、迫力のある爆音も届き窓が震える。
僕は伯父さんに約束をした。
今日はもう無理だけど、来年は宮島の花火を見に連れていくと。
彼は少しのあいだ目を閉じていた。
その瞼の向こうには、目の前に大きく花開く無数の輝きが見えていたのかもしれない。
花火を見上げるように、うつむかずに生きて欲しいと、僕は願っている。